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81話 頼みがあります

 メゾットの一件は瞬く間に国中に広まり、人々を震撼させた。



  魔王の存在



 滅びたと伝えられていた魔王の存在に人間族は震え、虐げられていた魔族は『魔王様復活』と陰で歓喜した。 中でも動きを見せたのは、飴玉事件以降に追放された元シルヴェスタ軍の魔族達だ。 彼らは各方面の町や村に息をひそめて生活する一方、人間族が支配する王国に反旗を翻す機会を窺っていたのだった。


 ある者は魔王本拠地のユグリアを目指し、ある者は散らばっていた仲間と合流して蜂起を待つ。 一部の血の気の多い魔族達数十人が先走ってカーラーンへ突入したが、シュテーリア率いる第二防衛隊によって鎮められたのだった。


 メゾットの近くにあるホセの村の一軒。 密かに魔族達が集まり、談合が行われていた。

 

「まだ早い…… 魔王様はきっと蜂起の機会を窺っておられる 」


「メゾットを襲撃したのは、我々に御身の健在を知らせる目的であったか 」


「あの襲撃は、赤子を救う為にやむなく…… ということらしいぞ! 」


「なんとお優しい…… メゾットの同胞が見ていたのは本当だったのね 」


 集まった魔族達は、魔王の中身がエンデヴァルドだという事実を知らない。 ただ、町を破壊した能力が失われた能力『イメージグローブ』だと知り、魔王の末裔が生きていたと信じて疑わなかった。


「知らせを待とう。 我らがこの屈辱の日々を脱する日は近い! 」


 魔族達は拳を握り、魔王の蜂起を今か今かと気を張り詰めるであった。




 カーラーン王城の謁見の間では、玉座に座るフェアブールトの前に仁王立ちする勇者リヒートと、その後ろに跪いたオルゲニスタ村長のエムルシャがいた。 傍らにはオルゲニスタ産のワインが詰め込まれた木箱。 フェアブールト王の傍らには息子であり護衛のヴェクスターが、腰の長剣の柄に手を置いた姿勢で、国王より一歩前に出た位置でその木箱を見つめていた。


「リヒートよ、何も今その献上品とやらを持ってこなくてもいいではないか? 」


「何を仰いますか! 最も美味い、最も差し上げたいこの時に差し上げたかったのです。 巷の賊など、兵に命じればすぐに収まりましょう? 」


 謁見の間の隅には、ゲッペルとシュテーリアも控えていた。 もう一人、白髭を蓄えた老傭兵のような、横の二人より格段にみすぼらしい格好の男は、東方面軍隊長タウルースである。 破壊されたメゾットの復旧と、魔王に対しての緊急招集を受けた各方面の隊長は、国王との会議中にリヒートに邪魔された形になっていた。


「わかったわかった。 ヴェクスター、宴の準備をせよ。 よほど自信のある一品らしい 」


「ですが陛下、『魔王エンデヴァルド』は…… 」


「お前に全て任せる。 煮るなり焼くなり、好きにせい 」


 そう言ってフェアブールトは玉座から腰を上げた。 それに合わせて、リヒートとエムルシャも謁見の間から退場していく。 ヴェクスターは国王の背中が見えなくなると大きくため息をつき、各方面の隊長達はヴェクスターの言葉を待っていた。


「…… ゲッペル、エンデヴァルドが魔王に食われたというのは本当か? 」


「ああ。 奴は自ら『魔王エンデヴァルド』と名乗ったのだ。 手にしていたエターニアも本物だった 」


「その食われた…… いや、エンデヴァルドを食った魔王がメゾットを襲ったと? 」


「痕跡を見る限り間違いねぇ。 あの突き出したような不自然な地面の起伏、あれに俺は一度やられた。 あのガキ、俺が知らねぇ能力を次々と使いやがって…… ガキだと思って最初に油断しなければ! 」


 更に愚痴るゲッペルに、ヴェクスターは唸りながら白けた目を向ける。 その様子に呆れて見ていたタウルースが、思い出したようにシュテーリアに話しかけた。


「ルイスベルの姿が見えんが? 」


「ベルナローズには連絡がいっている筈ですが…… 律儀な彼にしては、欠席とは珍しいですね 」


 彼がクレイモアの修理の為に、つい最近王城を訪れていたことを彼女は口にしなかった。 ゲッペルからエンデヴァルドの異変を聞いた彼女も、いまいち状況が飲み込めていないのだ。


「よもや北方面の管轄地が、魔王の襲撃を受けているのではあるまいな…… 」


「まさか。 それならば諜報の誰かが転移ゲートで飛んで来るでしょう 」


 ルイスベルが何も反応しない理由もそこにあると感じた彼女は、今は余計な事を言うべきではないと無関心を装う。


「シュテーリア! お前も来い! 」


 唐突に戻ってきたリヒートが、謁見の間の入り口から彼女に叫ぶ。 何事かとその場の注目が集まる中、リヒートは早くしろと言わんばかりに顎で差す。 その口の端は吊り上がっていた。


「お前が国王陛下にお酌して差し上げろ。 おっと…… もちろんそれなりの格好でな! 」


 彼はドレスアーマーを脱げと言う。 王国軍の一隊長に対してあまりにも無礼な彼の態度に、一歩踏み出したタウルースを彼女は腕で制止した。


「シュテーリア…… 」


「構いません。 それよりもタウルース、貴方に頼みがあります 」


「…… 珍しいな、お前が我に頼み事とは 」


 お互い信頼はしていたが、口にして頼み事をするのは初めてだと気付いた彼女は、目を閉じてフフッと軽く笑った。


「私の第二中央軍の指揮を貴方に。 私は戦いにすら出してはもらえなさそうです 」


「…… そうか。 引き受けよう 」


 二つ返事で了解した彼に笑顔を向けて、彼女は謁見の間を出て行く。 ヴェクスターもゲッペルも、『やれやれ』顔でその背中を見送っていたが、タウルースはその言葉が何を意味しているのか、目を細めて考えるのだった。


 

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