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71話 賢者スレンダン

 エンデヴァルド達は、紫髪のオートマターに案内されるがまま屋敷の中に入って行った。 中では十数人のメイド達が並んで頭を下げ、その先頭にはマリアが口にした赤髪の『二号機』が腕を組んで立っていた。


「ようこそ我が屋敷へ。 ここに来るのは初めてじゃな、勇者エンデヴァルド 」


「…… このオートマターが、あのよぼよぼジジイだというのも驚きだが、お前はオレが分かるんだな 」


 エンデヴァルドは腰に手を当て、赤髪のオートマターの真正面に立ってその顔を見上げた。


「ほっほっ…… オートマターだからかの? 残念ながら映像は届かんくてな、この人形を通しては気配しかわからんのじゃ。 お前さん…… ドラゴニュートにでもなったんか? 」


「ああ、魔王の…… いや、姿が見えない方が面倒が省ける。 んで? なんでいきなり襲ってきたのか、理由を聞こうか? 」


 『ほっほっ! 』とイケメンに似合わない笑いで、赤髪のスレンダンは奥の部屋に案内し始める。 応接室に通された彼らを、メイド達はお茶を出したりしてもてなし始めた。 その内の一人、メイド長のファーウェルがマリアの前にティーカップを差し出しながら微笑む。


「久しぶりね。 どう? 魔王様はご無事なのかしら? 」


 マリアは両手でティーカップを受け取ると、カップを見つめながら小さく首を振る。


「ちょっと待て、なんだその話 」


 クッキーに手を伸ばしていたエンデヴァルドの手が止まる。 


「リゲル様の件は、私がスレンダン様にどうすればいいか相談してたんですよ。 アンリミテッドムーヴの事も、レンゼクリスタルを媒介にする案も、スレンダン様に教えてもらった事です 」


「はぁ!? このジジイもグルだったのかよ! 」


「当然です。 私の一存でスレンダン様の元を離れ、一か八かでリゲル様に術を発動なんて出来ません 」


 エンデヴァルドは大きなため息を吐いて、クッキーを3枚まとめて口に放り込んだ。 ガリガリとクッキーの破片をまき散らしながら、赤髪のスレンダンを睨む。


「適正もあって、いい生贄だと思ったんじゃがのぅ…… 残念じゃ 」


「んだとコラ! 」


「リゲルは儂の親友でもあるし、問題児のお前さんを確実に葬れるんじゃ。 そうするのが妥当じゃろ 」


 スレンダンは手を振ってメイド長以外の者を下がらせた。 扉が閉まるのを待ってから、彼は再び口を開く。


「お前さんのその気配、リゲルの孫のものじゃろ? 何があったか知らんが、アンリミテッドムーブはお前さんに使ったようじゃな? 」


 スレンダンがマリアを見ると、彼女は『申し訳ありません』と頭を下げていた。


「…… ああ。 知ってたんだな 」


「いや、マリアが無事で何よりじゃ 」


 スレンダンは、まるで孫を見るような目でマリアを見る。


「勇者エンデヴァルド…… いや、魔王エンデヴァルド、お前さんに頼みがあるんじゃが 」


「お断りだ。 オレはもう勇者でも魔王でもねぇ 」


 目を見てハッキリと言う彼に、スレンダンは目を細めて肘掛けに寄りかかる。 いつもなら、ふてぶてしい彼に何かを投げ付けるマリアも、今回は大人しくエンデヴァルドとスレンダンを見つめていた。


「まぁ聞きなさい。 儂はこの通り、人形を通さねば動くどころか会話すら出来なくなっておる 」


「…… 2年前からここで隠居を始めたのはそのせいか? 」


「そうじゃ。 魔力を使って極力代謝を減らし、生命維持優先で生き永らえてきたが、そろそろ限界のようじゃ 」


「それで? 遺言ならそこのロリメイドに言えばいいだろう 」


「バカを言うでない。 大好物の貧乳ダークエルフに、危ない真似などさせられん…… んが!? 」


 マリアがスレンダンの額に小さな炎魔法を投げ付けた。


「…… 一回死んだ方がその性癖も治るんじゃないですか、スレンダン様 」


 プスプスと頭から煙を出しながらも、スレンダンは平然と話を続ける。


「エンデヴァルド、勇者一族を滅ぼせ 」


 応接室の空気が一瞬にして凍り付いた。 マリアとジールは、声こそは上げなかったが目を見開く。 だがエンデヴァルドだけは表情一つ変えずにスレンダンを見据えていた。


「元宰相の言葉とは思えんな。 オレに国王フェアブールトを殺せって言うのか? 」


「そうじゃ。 イメージグローブを手に入れたお前さんなら、そのくらい簡単な事じゃろ? 」


「…… お前、どこまで知ってやがる? 」


「言ったじゃろ? リゲルとは親友だったと。 奴の事なら大概は知っとる 」


 得意気に顎を突き出すスレンダンは、メイド長のファーウェルに『外せ』と告げる。 お辞儀をしたファーウェルは、マリアとジールに声を掛け、二人を連れて応接室を出て行った。 入れ違いで紫髪の初号機が入って来て、エンデヴァルドの後ろの壁に寄りかかる。


「人払いをして何をしようってんだ? 」


「この場で決断してもらおうと思っての 」


 頬杖をついて足を組む二号機は、静かに、だが隙のない目でエンデヴァルドを見据えていた。


「今のお前さんは、とても不安定で危険な存在じゃ。 場合によっては、他の勇者一族よりも優先して排除せねばならん 」


「…… 聞かせろ。 理由も分からず殺されるのは納得いかねぇ 」


「イメージグローブはあまりにも大きな力じゃ。 使い方次第では、このシルヴェスタなどあっという間に火の海にでき…… 」


「そうじゃねぇ、お前の真意だ。 なぜ勇者一族を滅ぼせと言う? マリアが自分の意思でオレの所に来たとは思えなくなった…… なぜ大好物を使ってまでリゲルを救おうとした? 教えろ 」


 『フム』とスレンダンは、エンデヴァルドを前後から暫く見据えた後、『ついてくるがいい』と席を立ったのだった。





 

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