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6話 心優しいゴブリンが仲間になった

「あぁ? 仕事がないから名前を変えただと!? 」


「ハイ…… ごめんなさい…… 」


 怒鳴り散らすエンデヴァルドの前には、委縮して小さくなった子供が二人。 名をグランとレテと言い、『小さな便利屋さん』という店を営んでいた。


「尻尾を失った魔族二人だからホロウ・テイルズ(尾なし)かよ。 しかもあの掲示板が初めてだぁ? ふざけんな!! 」


 殴りかかりそうな勢いのエンデヴァルトをマリアとセレスが羽交い絞めにして抑え込む。


「ま、まあエバ様、見つかったんだからいいじゃない! 」


「そうですよ! 小さい子を虐めて何が楽しいんですか!? 」


「うるせー!! こいつらを探す為に半日潰し、わざわざこんな辺鄙な村まで来てガキ二人だと!? 無駄足じゃねえか! 」


「ったく、 めんどくさい勇者様ですね! 」


 怒りの収まらないエンデヴァルドにマリアはスリープの魔法をかけた。 エンデヴァルドはすぐに床に倒れて、『ぐがー』といびきをかき始める。


「よわ…… 」


「平凡な村人でもこんなに効きませんよ。 どんだけ耐性がないんですか 」


 二人が叩こうが蹴ろうがエンデヴァルドは起きやしない。 呆れて二人は怯えるグランとレテに話をすることにした。


「ごめんね、怖かったでしょ? 」


 セレスが頭を撫でようとすると、グランは手でスッと遮る。


「子供扱いはよしてください。 これでも僕達、30年生きてます 」


「コボルトさんでしたか 」


 ごめんなさいと手を引く後ろからマリアが付け足した。 コボルトとは人間族の子供の容姿で狸のような尻尾を持つ魔族だ。 その容姿に似つかず力は強く、個人差はあるが温厚で情に厚い。 グランは男性、レテは女性の双子で、トレードマークの尻尾はどちらもなかった。


「尻尾が見えないので気が付きませんでした 」


「ちょっ! マリア、失礼よ。 何か事情があったんでしょ 」


「構いませんよ、よく言われますから 」


 ニコッと笑うグランは本当に人間族の子どものように見える。 グランの少し後ろ気味に控えていたレテも笑顔だったが、どことなく警戒しているように見えた。


「尻尾は飴玉事件の後で失くしました。 最初はバランスが取れなくて大変でしたが、慣れるものですね 」


「…… ごめんなさい…… 」


 突然セレスはひざまずいてグランとレテに頭を下げる。 マリアは後ろで腕を組んでその様子を見ていた。 グランはすぐにセレスに駆け寄って頭を上げさせる。


 「やめてください。 確かに人間族に切り落とされてしまいましたが、おねえさんが悪いわけではありません! 命を助けてくれたのもまた人間族なのですから! 」



 グランとレテは昔城下町カーラーンに住んでいた。 その強い力を活かして運送の仕事に精を出し、その人柄もあって住民からの評判も良かった。


 そんな中で、あの飴玉事件が起きた。 魔族への糾弾が強まるにつれて、人間族達の反魔族の目が二人にも向けられたのだ。


 ある日、身に覚えのないことで二人は人間族達に囲まれ袋叩きにされてしまう。 内容は人間族への荷を魔族へ横流ししている、というものだった。 そんなバカな話はないと二人は懸命に訴えたが、人間族達の暴力はエスカレートして二人の尻尾を切り落としてしまったのだった。 人間族達はそれだけに留まらず、二人を殺そうと鎌を振り上げる。



  「よってたかってなにやってんだコルぁ!! 」



 寸でのところでそれを止め、囲んでいる人間族達を一人残らず殴り倒したのは他でもないエンデヴァルドだったのだ。


 グランとレテは助けてくれたエンデヴァルドの顔を忘れず、お礼を言おうにも町から追い立てられてそれも叶わなかったが、突然訪ねてきた恩人の勇者にいきなり怒鳴られて現在に至る。


「どうせ覚えてないわよ、この人。 あっちこっちで似たようなことしてるもの 」


「そうなんですか? 意外ですね 」


 マリアはそう言って驚いた風だったが、気持ち良く寝ているエンデヴァルドを見下ろす表情は冷たかった。


「いえ、この方がいなければ僕達はここにはいませんから。 お礼はしなければなりません 」


「堅っ苦しいことはいらないと思うわよ? そういうのこの人嫌いだし 」


「あの…… どんな御用なんでしょうか? 」


 レテが恐る恐るセレスに質問する。 セレスはやんわりとした笑顔をレテに向けた。


「傭兵団と聞いて私達は来たんだけど 」


「…… 傭兵団など、どうなさるおつもりで? 」


 グランの表情が少し曇る。 言い淀むセレスの後ろから冷ややかなマリアの声が飛んできた。


「魔王討伐の頭数です。 セレス、隠しても意味ないでしょう? 」


「魔王様を…… 」


 レテの表情が歪んだ。 セレスは『魔族のグランとレテ相手になんてことを!』と振り返ってマリアを睨む。 対するマリアはニコニコと表面だけの笑顔を浮かべていた。


「あのね、グラン…… 」


「僕達では力不足でしょうか? 」


 なだめようとしたセレスの言葉を遮ってグランは言う。


「どのような経緯で勇者様が魔王様討伐を決意されたのかは分かりませんが、勇者様は罪のない者を虐げようとする筈はない、と僕は信じています。 もし魔王様に非があるのなら、僕もその場に立ち会いたい。 勇者様の助力になりたいのです 」


 グランはレテに振り返る。 二人はしばらく無言で向き合っていたが、レテは何かを決めたように頷いた。


「わかったわ。 私も魔王サマのお館にお邪魔するだけのつもりだったし…… いいよね、マリア 」


「はい、喜んで 」


 エンデヴァルドの了解も得ないまま話は進む。 未だ気持ちよくいびきをかいているエンデヴァルドを余所に、グランはルーツ山脈を越える準備に入り、レテは今夜の食事の支度を始めた。


 

  ― 心優しいゴブリンが仲間になった ― 

 


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