59話 和解?
恥ずかしさマックスのリセリアは、ライトニングブラストを乱射して男達を襲う。 敵味方関係なく浴びせられる電撃に兵士達は逃げ惑い、マリアはエンデヴァルドを盾にしてやり過ごす。
「勇者サマのせいです。 何とかして下さい 」
「お前が縞パンとか言うからだろうが。 ったく! 」
エンデヴァルドがドンと地を蹴ると、リセリアの周囲の地面が隆起して彼女を包み込んだ。
― なにこれ! ちょっ! 真っ暗で何も見えない! ―
彼女がドーム状の岩に閉じ込められた事で電撃は止み、兵士達からは拍手が巻き起こる。
「凄い能力だな坊主 」
エンデヴァルドの影に隠れてやり過ごしていたアーバンは、『よくやった』とエンデヴァルドの頭を撫で回す。
- ちょっと! 出しなさいよ! -
岩の中から聞こえるリセリアの叫びを無視し、エンデヴァルドはアーバンの手を振り払う。
「坊主言うな! エンデヴァルドだ! 」
「誰に憧れようが自由だが、あの腐れ勇者だけはやめとけ、な? 」
「だあぁ! 信用しねぇ奴だな! そんなんだからバンダナの下の十円ハゲが直らねぇんだよ! 」
「なっ…… 貴様エンデヴァルドかぁ! 」
アーバンは真っ青な顔になって思い切り後ずさる。
- ねぇ聞こえてるんでしょ! ぶち殺されたくなかったらさっさと出す事ね! -
「なんなんです? それ 」
アーバンのあまりの変わりように、マリアがエンデヴァルドにピトっとくっついて問いかけた。 もちろんマリアもリセリアは無視だ。
「ガキの頃、コイツが寝てる間にオレがお灸を据えてやったんだよ。 ちょいと量を間違えてな…… それ以来コイツ、バンダナで隠すようになったわけだ 」
「子供の頃からえげつない事してたんですね 」
「うるせぇ。 ちょっとやり過ぎたと思って、オレとコイツだけの秘密にしてたんだ。 子供扱いするコイツが悪い 」
アーバンはエンデヴァルドを指差して今度は真っ赤な顔になる。
「なんだその可愛いなりは! 全然腐れ勇者じゃないじゃないか! 」
ー ホントダメなのよ! 早く! ねぇお願い! ー
エンデヴァルドは大きなため息を吐いて、マリアに『説明してやれ』と呟く。
「嫌です。 めんどくさい 」
「お前がやらかした事だろうが! 」
「お前じゃありません、マリアです 」
そんなやり取りが続き、アーバンはゲンナリして『もういい』と肩を落とした。
ー ヒック…… ねぇ出してぇ…… ふぇ…… ー
岩の中で泣き始めたリセリア。 二人に責めるように見らればつが悪くなったエンデヴァルドは渋々岩のドームを解除する。 マリアはアーバンのマントを取り上げると、スッとリセリアに羽織らせてやった。
「ぐす…… ありがと…… 」
目を腫らし、真っ赤な鼻で鼻水をすすりながらリセリアは丸まる。
「北方面軍一の魔導剣士が、情けねぇったらありゃしねぇな 」
「うるさい! アンタは絶対ぶち殺してやる! 」
涙目で凄む彼女を『へぇへぇ』と軽く流して、エンデヴァルドはアーバンの前に腰を下ろした。
「お前、さっき魔族側が先に手を出してきたと言ったな? 説明しろ 」
「その通りだ。 貴様はユグリアの魔族を仲間にし、『反逆者』として復讐しようとした。 違うか? 」
「あり得ねぇんだよ。 ネズミ髭連中は、お前らに殺されそうになって逃げて来たと言った。 だからオレはここに出向いて来たんだが 」
「そんなバカな! 奴等がエムルシャ殿の使用人を殺したから我々は追ってきたんだぞ! 」
地面に拳を叩きつけるアーバンに、エンデヴァルドは腕を組んで考え始める。
「考えるくらいなら、本人達に直接聞いてみればいいじゃないですか? 」
リセリアを介抱しながらマリアが口を挟んできた。
「よしマリア、さっきのネズミ髭を連れてこい 」
「嫌です 」
「ああ!? お前が言い出したんじゃねぇか! 」
「面倒ですし、か弱い女の子一人に行かせるつもりですか?
「爆裂魔法ぶっ放す奴がか弱い言うな! 」
「それにあの人達、お風呂入ってないのかちょっと臭かったです 」
「おう、それはオレも思った 」
白々しい目を向けるマリアと、怒りを堪えてプルプル震えているエンデヴァルド。 漫才のような二人のやり取りに、アーバンもリセリアも呆気にとられている。
「お前ら、敵を目の前にして呑気な奴等だな 」
「全滅しといて何を言ってやがる。 そうだアーバン、お前が行って捕まえてこい 」
「はぁ!? お前…… 敵の俺が心配することでもないけどな、俺をユグリアに入れる意味をわかってるのか? 」
キョトンとするエンデヴァルドは、アーバンに向かって大きなため息を吐いた。
「敵だとか味方だとか…… なら、魔王風に命令してやる。 即刻ネズミ髭を追って捕らえてくるのだ! 」
「は? 意味わからん 」
エンデヴァルドは口元を吊り上げ、見下す目線を彼に向けた。
「早く行け。 オレはこの場の全員を一瞬で殺せるのだぞ? 言わば、貴様以外を人質に取っているのだ! 」
「…… 非道な! 」
彼はギリッと歯ぎしりをし、エンデヴァルドを睨み付けてダッシュする。
「相変わらず単純な奴だな…… 」
ジト目で彼を見送るエンデヴァルドは、次にリセリアの前に仁王立ちする。
「お人好しのアーバンを煽るとは! 殺せばいいでしょ! 部下達もアタシも、悪には屈しないわ! 」
「バーカ、端から殺す気なんてねーよ 」
「貴様ぁ!! 」
右手を向けて電撃を放とうとする彼女の腕を、マリアは両手で押さえ込んだ。
「お前はさっさとメゾットに戻って、ルイスベルを連れてこい 」
「なっ!? 少数じゃ不利だと判断して、隊長を直接狙う気!? その手には乗らな…… 」
「めんっどくせぇ奴だな! 『お話しましょう』って言ってんだよ! 」
「…… は? 」
リセリアは開いた口が塞がらない。 『お話しましょう』と似合わない言葉を使ってむず痒い顔を向ける彼に代わって、マリアがリセリアに説明する。
「私達は軍を相手にするつもりはありません。 恐らくこの争いは仕組まれたものですから、協力して真相を解明しましょうということです 」
「ちげーよ! 頭下げて謝れって言って…… あだっ!? 」
「黙ってて下さい、腐れ勇者サマ 」
転がっていた石を投げつけて、彼女はリセリアの手を引いて馬車に向かった。
「とにかく、その服を乾かしましょう。 お手伝いします 」
マリアに促され、大人しく馬車に乗り込んだリセリアを見届けて、エンデヴァルドは警戒態勢を解かない兵士達に目を向けた。
「お前らもさっさと撤退しやがれ。 縞パン剣士はちゃんと送り返してやる 」
「そんなこと出来るか! 我々の心はリセリア様と共にある! 」
更に士気を高めてくる兵士達に、エンデヴァルドは『めんどくせぇ』とボソッと呟いて頬杖をつくのだった。