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4話 傭兵を探して

 翌朝、たらふく朝食をとったエンデヴァルドは、一人酒場の掲示板を覗きに来ていた。 目的は傭兵が雇い主を探していないか見る為。 傭兵ならば金で雇えるし、雇い主に対して余計な詮索はタブーだから面倒がない。 実力はピンキリだったが、エンデヴァルドには今即戦力になる者が必要だった。


「にしても、セレスの情報はなんなんだ? 」


 魔王管轄下に近付くほど人間族と魔族の関係は良好だという。 そもそも管轄下と呼ぶのはカーラーン周辺の人間族だけで、実際には人間族側の法に従って魔族も暮らしている。 国全体はカーラーン国王によって統治されているが、飴玉事件で魔族が差別されるようになってからは、魔王領復活の声も度々囁かれることがあった。


 今現在、魔王領というものはない。 魔王の末裔が存在しているのは確かだが、国に対する圧力や影響力はないと言っていい。 それはかつて魔王が棲むルーツ山脈の奥も例外ではなかったが、それでも魔族にとっては魔王は心の支えであったし、信仰の対象だった。


「お…… コイツら格安だな 」



  草刈りから暗殺まで、雇い主募集中  ホロウ・テイルズ



 エンデヴァルドはその張り紙をむしり取って酒場のカウンターに持っていく。


「コイツらと連絡取りたいんだが 」


 白髪のマスターは無言で台帳を開き、ホロウ・テイルズという傭兵団の連絡先をメモに書き写してエンデヴァルドに渡す。 代わりにエンデヴァルドは台帳の署名欄に名前を書いた。 雇い主と雇われ側の契約が成立すると、雇われ側から広告料として酒場に支払われる仕組みだ。 エンデヴァルドはメモに目を通すと軽く舌打ちをした。



  トヴァルの村 〇〇番 村長宅より100メートル



 トヴァルの村はメゾットから歩いて半日。 牧畜を生業とする100人程が集まってできた小さな村だった。 魔王のいるルーツ山脈はメゾットから南で、トヴァルの村は北東。 面倒くさいと思うが、3日以内に手続きを完了しなければエンデヴァルドが罰符を払うことになる。


 

「なんで同じ方向じゃねえんだよ! 勇者の旅は都合のいい方向に運ぶのがセオリーだろが! 」


 エンデヴァルドはブツブツと文句を垂れながら宿屋に戻る。 入り口では店先に設けられた長椅子に腰を下ろして足をプランプランさせていたマリアと、スーツケースをいくつも並べたセレスが腕を組んで待っていた。


「エバ様遅い! 」


「うるせーよ。 なんだ? この引っ越しみたいな荷物は 」


「魔王サマのお屋敷にお邪魔するんでしょ? ルーツ山脈を越える長旅になるんだからこのくらい当然よ 」


 その場に座り込み、頭を抱えるエンデヴァルド。


「お邪魔するんじゃねぇんだ! 討伐だよ討伐! 観光じゃねぇんだよピクニックじゃねぇんだよキャンプじゃねぇんだよ! 」


 ガルルルとセレスに襲い掛かるように捲し立てる。 


「討伐…… だと? 」


 通りを行き交う人々がエンデヴァルドの怒声に一斉に振り向く。


「ねぇおじさん、トーバツってなに? 」


 足元に走り寄ってきた小さな女の子がエンデヴァルドを興味深々な目で見上げた。


「おじ…… 」


 女の子を睨み、プルプルと震えるエンデヴァルドの殺気に気付いたのか、お母さんが飛んできて『見ちゃダメ!』と脇に抱えて逃げていった。 気が付けばエンデヴァルド達の周囲を取り囲むように人々が群がり、中には魔族の姿もちらほら見える。 一様に不審な表情を浮かべ、後ろの方からは何やら野次る声も聞こえてく始末。


「なんだコラ! 」


 エンデヴァルドは目についた若者に食って掛かる。 と、それを止めたのは、杖でエンデヴァルドの背中を小突いたマリアだった。


「ここで騒ぎを大きくするのはナンセンスですよ? 」


 冷ややかに言ったマリアは笑顔だったが、明らかにお前が悪いというオーラをエンデヴァルドに向けていた。 押し黙ってしまったエンデヴァルドは目の前の野次馬を押し退けて北へ向かって歩き出す。


「どうするんです? その荷物 」


「エバ様の名で馬車を手配してあるからご心配なく 」


 ニコッと笑顔のセレスが指差した宿屋の小路には、幌付きの馬車が既に停まっていた。 配送用の馬車だが御者台はクッション付きで、背面にもしっかりとした幌が備えられているお高めの荷馬車だ。


「用意がいいですね。 随分と立派な馬車ですが…… 」


「勇者様が旅をするんですもの。 エバ様が使命を全うするためにはこのくらいがちょうどいいわ 」


「…… 本音は? 」


「歩きたくないし、安い荷馬車じゃ腰が痛くなってしまうわ。 どうせお国のお金だし、このくらい微々たるものでしょ? 」


 ハハハと笑うマリア。


「乗っていく? 安くしておくわよ 」


「そこはお金取るんですね。 勇者様の経費で落としておいて下さい 」


 そう言ってマリアは御者台のセレスの横に乗り込んだ。


「勇者様、どこへ行く気なんでしょう? 」


「さあ? 何も言ってくれないんだもの、ついて行くしかないでしょ 」


 北へ向けて黙々と歩いていくエンデヴァルドを眺めるセレスは、慣れた手つきで馬車を発車させた。



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