48話 勇者(魔王)VS魔王(勇者)
「お前の言い分は間違っちゃいねぇ。 だがな 」
エンデヴァルドは静かに呟き、ポカンと口を開けていたグリフの襟首を掴んで引き寄せた。
「ダークエルフが災厄を持ってくる? バカ言うな、そんなもん昔のくだらねぇ連中の戯言なんだよ! 」
エンデヴァルドはガツンと頭突きを入れ、彼を馬車の外に放り出す。 そのまま馬車の外に躍り出て、ベアウルフ達に詰め寄られていたリュウとの間に割って入った。
「ぐじゃぐじゃ抜かすくらいならかかってこいや犬っころが! 」
聖剣エターニアを肩に担いだゲス顔のエンデヴァルドに、ベアウルフ達の怒りが頂点に達する。 畳みかけるようにベアウルフ達は、ナイフのような爪を剥き出して一斉に飛びかかった。
「おらぁ! 」
力任せに聖剣エターニアを一閃するが、ベアウルフとの体格差は大人と子供。 一人は吹き飛ばせても二人目に爪で受け止められ、空中に放り投げられる。
「エンデヴァルドさん! 」
すかさずリュウが御者台から飛び、エンデヴァルドを抱えてベアウルフ達の背後に着地した。
「余計なことすんじゃねぇ! 」
エンデヴァルドはリュウを振り払ったが、リュウはエンデヴァルドの腕を掴んで離さなかった。
「どうしてそうやってすぐ人を煽り、ケンカするんですか! あなたがそんなだから、わだかまりも誤解も解けないんでしょう!? 」
「うるせぇ! 気に食わねぇ奴はぶっ飛ばすのが俺のやり方なんだよ! 」
「話が通じない相手じゃありません! 話し合えばきっと彼らは分かってくれます! 」
「セレスやマリアを災厄だと言われて黙ってられるか! どけリュウ! 」
「どきません。 あなたのやり方は間違っている 」
「うるせぇよ…… 」
エンデヴァルドがエターニアをリュウに向けると、リュウは腰に据えた長剣『ドラゴニクス』に手を掛けた。
「分かってるじゃねぇかよ。 戯言はその剣で語れ 」
「あなたはそれしかないんですね…… 」
突然仲間割れを始めたエンデヴァルドとリュウに、グリフ達は唖然とするしかなかった。 意気消沈し、剥き出した爪を収める。
「行きます 」
静かにドラゴニクスを鞘から抜いリュウは、姿勢を低く構えたかと思うと一気にエンデヴァルドに斬り込んだ。
「フン! 」
薙ぎ払ったエターニアとドラゴニクスがぶつかり、火花を散らせる。 だが、今のエンデヴァルドとリュウでは、リュウの方が遥かに力が強い。 押し負けたのはエンデヴァルドだった。
「このやろ! 」
弾かれた勢いを利用してエンデヴァルドは反転し、返す剣でリュウに打ち込む。 リュウはスッと身を引いてかわし、下からすくい上げるように一閃した。
「うおっ! 」
咄嗟にガードはしたが、エンデヴァルドは宙に打ち上げられる。 間髪入れずにリュウは跳んで突きを繰り出したが、エンデヴァルドは宙を蹴ってこれを回避した。
「お…… お前十分強ぇじゃねぇかよ! 」
態勢を整えながらエンデヴァルドが叫ぶ。
「あなたの体に任せて動いているだけです 」
とは言ったリュウだが、自己防衛の為に学んでいたリュウの剣技はエンデヴァルドと同等以上のものだった。 リュウの剣技は小さな体を活かした流れるような動きで、エンデヴァルドの体を手に入れたことによって破壊力がプラスされたのだ。
「くっ! さすが俺の体…… だけど面白くねぇ! 」
エンデヴァルドはイメージグローブを発動し、自身に風を纏わせる。 小さな体は風の力を借りてより俊敏になり、振る剣には突風を乗せて一撃の威力を高めた。
「おらぁ! 」
「てぇい! 」
エンデヴァルドは地面から次々に岩の槍を突き出し、リュウは巧みにかわして連撃を叩き込む。 互角に見えた二人の戦いだったが、押していたのはリュウだった。
「待てコラ! お前本気で殺しに来てるだろ! 」
「そうしないとあなたは止められません! 」
間合いを大きく取ったエンデヴァルドは、リュウの本気に目を丸くする。 リュウの目は迷いがなく、だが怒りや憎しみを感じさせない真っ直ぐなものだった。
「お前…… 」
「セレスさんに教えられました…… 何かを守るためにはこうすることも必要なんだと 」
リュウはゆっくりとドラゴニクスの切っ先を下ろし、エンデヴァルドに微笑んだ。
「あなたは僕にそれを気付かせる為に、わざと彼らにケンカを吹っ掛けたのでしょう? 」
「お…… おう 」
そんなことは全く考えていなかったエンデヴァルドは、さも当然だという顔をリュウに見せる。 リュウはそれを見て、唖然としていたグリフ達に向き合った。
「皆さんも落ち着いて下さい。 魔族だの人間族だの、ダークエルフだの…… エンデヴァルドさんの言う様に、そんなことは関係ないんですよ 」
「そ、そんなバカな話があるか! 大体なんなんだお前は! 魔王の孫が勇者とつるんでんじゃねぇ! 」
一人の言葉に、再びベアウルフ達の表情が硬くなる。
「そうですね、つるんでます。 仲間だと思っています。 悪いですか? 」
ニコッと笑ったリュウに、ベアウルフ達は言葉を失ってしまった。
「ダークエルフが災厄だと言った事、セレスさんに謝って下さい。 それは明らかにあなた方の非です 」
「ふざけるな! ダークエルフが起こした災いを、アンタは知らないわけじゃないだろう!? なぜ禁忌の種族を庇う!? 」
「セレスさんは200年近く生きています。 大飢饉が起こって250年…… その後、歴史に残るような災厄が起こりましたか? 彼女が災厄を起こしましたか? 」
ベアウルフ達は何か言いたげだったが、リュウの言葉には何も言い返せなかった。
「ダークエルフは彼女一人だけじゃない。 僕達が知らないだけで、恐らく全土に存在していると僕は思っています。 ダークエルフが災厄だというのなら、シルヴェスタはとうに滅亡しているでしょう? 『禁忌の種族』という言い伝えが間違っているんです 」
「しかし…… 」
納得の出来ないグリフに、リュウは静かに切っ先を向ける。
「それでも分かり合えず、彼女を害そうと言うのなら…… 僕は彼女を守る為にあなた方を敵に回さねばなりません 」
「…… 魔王が俺達魔族を敵に回すと言うのか…… 」
「違います。 『あなた方』を敵に回すのです 」
「リュウ様…… 」
馬車の中から見守っていたセレスの頬には、一筋の涙が流れていた。
「いちいち言い回しがくどいんだよお前は! 」
リュウの後ろからエンデヴァルドが怒鳴る。 エターニアを担ぎ直し、頭をボリボリ掻いて不機嫌面でグリフ達を睨んだ。
「お前らの言い分なんて関係ねぇ、気に食わねぇ奴らはぶっ飛ばす! 俺らに手を出してきたなら返り討ちにしてやる! それだけだ 」
エンデヴァルドはそう言い残してベースキャンプを離れていく。 やがて聞こえた地響きと振動は、エンデヴァルドが峠道を崩落させて封鎖した証だった。




