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40話 力の使い方

 目を閉じて唇を重ねるマリアとは対照的に、エンデヴァルドは目を見開き宙を泳いでいた。 ねっとりと絡みつくようなキスに、ヘレンは思わず顔を赤らめて視線を逸らす。


「…… 後はあなた次第です 」


 少し紅潮して瞳を潤ませるマリアは、そう言った後に気を失ってエンデヴァルドの背中を滑り落ちた。


「おう…… 」


 エンデヴァルドは、気を失ったまま背中にもたれるマリアに短く返事をし、倒れそうになったマリアを後ろ手で支える。


「何をしたのだ? 」


「説明するのがめんどくせぇ。 後でマリアに聞け 」


 怪訝な表情のヘレンにエンデヴァルドは静かに答えて、マリアをその場に寝かせた。


「コイツを頼む 」


 立ち上がったエンデヴァルドは岩壁に手を当てて一部分を砂に変え、その隙間からスッと外へと出て行った。


「エンデヴァル…… !? 」


 後を追い掛けようとヘレンが立ち上がる間もなく、その隙間は再び岩が再生される。


「なぜ躊躇なく出て行けるのだ…… 勝算でもあるのか? 」


 ヘレンは動揺して再生された目の前の岩壁を見つめる。 その間にも岩壁は爆裂魔法を受けて振動し、破片がパラパラと頭上から落ちてくる。


「大丈夫ですよ…… と言っても、後は勇者サマ次第ですが 」


 意識を取り戻したマリアが、目を閉じたままヘレンに呟いた。


「一体何をしたのだ? 」


「私の中のリゲル様の記憶を少し見せただけです。 私が見たリゲル様の力の使い方が手本になればと…… それを勇者サマが再現できるかは賭けなんですけどね 」


「その為にエンデヴァルドにキスを…… 」


「勘違いしないで下さい。 別にあの腐れ勇者サマが好きな訳ではないので…… いえ、リュウ様のあの御顔はリゲル様の面影があって好みなんですが 」


 フフッと力なく笑うマリアにつられて、ヘレンはフッと鼻で笑って視線を逸らす。


「そんな恋話など私には無縁だと思っていたが…… こんな所ではなく、茶でも飲みながら一度してみたかったものだ 」


「では帰ったら女子会ですね。 何がなんでも勇者サマには勝って貰わないとです 」


 マリアはフゥとゆっくり深呼吸をする。 その表情は柔らかく、不安の欠片も見えなかった。




「待ちくたびれたぞ小僧! 」 


 岩壁を出たエンデヴァルドはすぐに、聖剣エターニアを構えて正面のゲッペルに突っ込む。


「陣形を取れ! 囲い込んで退路を断つのだ! 」


 ゲッペルを中心に、重歩兵隊は左右に展開して撃ち合う二人を囲む。 左右、後ろから繰り出される槍をエンデヴァルドは器用にかわし、フルアーマーの弱点である関節の継目を断つ。


「こ、こいつ! さっきよりすばしっこいぞ!? 」


 重歩兵達の間を掻い潜り、突進してくる盾を踏みつけてエンデヴァルドは跳躍する。


「甘いぞ小僧! 空中では逃げられまい! 」


 ゲッペルが重歩兵の1人の肩を踏み台にして跳び、高く跳んだエンデヴァルドの腹目掛けて槍を突き出した。


()ったぁ! 」



  パン!


「なんだと!? 」


 ゲッペルの槍がエンデヴァルドの腹を貫く瞬間、弾ける音と共にエンデヴァルドの体が反転して矛先を避けたのだ。


「宙を蹴った!? 」


「うるぁ!! 」


 体の回転を利用して、エンデヴァルドはゲッペルの首を一閃した。 咄嗟に盾で防いだゲッペルだったが、エターニアの横凪ぎで起こった突風の追撃で吹き飛び、地面に叩き付けられた。


「がはっ! 」


 すぐに重歩兵がゲッペルの防御を固めてエンデヴァルドの追撃に備えた。 が、エンデヴァルドは再び宙を蹴って未だに止まない爆裂魔法の中に飛び込んだのだ。


「フン! フン! 」


 エターニアを振り回し、いくつもの魔法の玉を打ち返す。 爆裂魔法の弾はゲッペルを囲む重歩兵隊に飛び、次々に爆発したのだった。


「形勢逆転だな! 」


 状況を把握出来ない魔導士隊は爆裂魔法を止めず、エンデヴァルドは飛んでくる魔法の玉を野球のノックのようにゲッペルに打ち返す。


「うわあぁ!! 」


「ぐはぁ! 」


 1発では威力の弱い魔導士隊の爆裂魔法でも、連発で飛んでくるとその威力は数倍に増す。 ゲッペル達は爆風に吹き飛ばされ、ほとんどの重歩兵が味方の魔法に倒れたのだった。


「バカな! 魔法を打ち返すなどとあり得ない! 」


 その場で耐えたのはゲッペルただ1人。 やっと状況を把握した魔導士隊は、撃つに撃てず沈黙したのだった。


「おら、ここで死ぬか尻尾巻いて逃げるか決めろ 」


 エターニアを肩に担ぎ上げたエンデヴァルドは、瀕死の部下の中に立つゲッペルを余裕の表情で目下す。 


「帰れ…… さっさと帰れ…… 」


 ブツブツと小声で呟くエンデヴァルド。 余裕表情をしながらも、エンデヴァルドも立っているのがやっとなほど限界だったのだ。


「…… 我が部隊に撤退はあり得ぬ! 」


 ゲッペルは自慢の盾を杖代わりに、ヨロヨロと槍を構えて突っ込んで来た。


「バカ野郎が! 」


 エンデヴァルドは右手大きく振り上げる。 渾身の力を振り絞ってゴーレムの手を作り上げ、突進してくるゲッペルを叩き潰した。


「てめぇは1人じゃねぇんだろうが。 傷ついた部下の事も考えるのが隊長の務めだろ 」


 舞った砂煙が晴れると、ゲッペルは瓦礫に埋もれるようにうつ伏せに倒れて気絶していた。 それを確認してエンデヴァルドも大きなため息を吐く。


「前魔王に助けられたな…… 」


 キスをしてきたマリアからエンデヴァルドに伝わってきたのは、若かりしリゲルが数人の魔族を救う為に500人の兵士相手に1人で挑む姿だった。 リゲルは無闇にイメージグローブを使わず、風を身に纏わせて身体強化や防御をしていたのだ。


 エンデヴァルドが見せた宙を蹴る動作も、リゲルが得意とした足元に風を起こして足場にするもの。 魔法の反射も、魔王が持つ特殊能力『リフレクション』を応用したものだ。


「ゲッペル隊長ぉ! 」


 なんとか動ける重歩兵達は、這いずったり片足を引摺りながらもゲッペルをエンデヴァルドから守るように寄り、エンデヴァルドに武器を向ける。


「隊長は()らせんぞ! 」


「極悪の腐れ勇者め! 」


 エンデヴァルドは眉間にシワを寄せ、地を蹴って重歩兵達をひっくり返す。


「うるせぇな! 文句垂れる暇があるならその木偶の坊抱えて帰れ! 大将が負けたんだから、てめぇらは退くのが道理だろうが! 」


 重歩兵達はエンデヴァルドに警戒しながら、エンデヴァルドの言う通りに気絶したゲッペルを抱えて後退していく。


「騙し討ちなんかしねぇよ。 とっとと帰れ! 」


 腰に手を当て、姿が見えなくなるまで仁王立ちしていたエンデヴァルドは、大きく息を吐いてその場に座り込んだ。


「ああ…… 疲れた…… 」


 そのまま後ろに大の字に倒れたエンデヴァルドは、目を閉じてそのまま寝息を立て始めた。


「…… 静かになりましたね 」


「まさか西方軍相手に、本当に勝てたのか? 」


 未だに岩の防壁の中にいる二人には、外の状況が全く見えない。 壁に耳を当てて様子を伺うヘレンに、マリアは目を閉じたまま呟いた。


「さあ。 確認しようにも、勇者サマがこの岩をどかしてくれなければ私達にはどうすることも出来ません。 気長に待ちましょう 」


「信じているのだな、エンデヴァルドを 」


「そうですね…… 頭悪くて世間知らずで口が悪くて短気で態度デカくてめんどくさがりでワガママですけど、嘘は付きませんから 」


「フフ…… 酷い言い様だな 」


「そのくらいがちょうどいいんです…… 多分 」


 その後、戻ってきたリュウにエンデヴァルドが起こされる頃は、大きな月が山裾から顔を出していた。


 


 

 

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