39話 エンデヴァルドVSゲッペル
エンデヴァルドの剣とゲッペルの盾が真っ正面からぶつかろうとしたその時、ゲッペルは違和感を感じて咄嗟に左に飛んだ。
ドン
「なっ!? 」
二人がぶつかり合う筈だった場所の地面から、岩の柱が勢い良く突き出た。 エンデヴァルドは自分を囮にして、イメージグローブでゲッペルを貫こうと考えていたのだ。
「チッ! 勘のいい奴だ 」
「フン! 貴様の浅知恵など通用せんぞ! 」
そうは言ったゲッペルだったが、顔色は真っ青になり冷や汗を垂らす。
「うるせぇ! 逃げるか死ぬか、さっさと決めれってんだ! 」
エンデヴァルドが剣を振りかぶって飛びかかると、ゲッペルはその攻撃を盾で難なく弾く。 隙をついてゲッペルは槍を繰り出し、エンデヴァルドは体を反転させてかわして槍を払った。
武器同士がぶつかり、金属音と火花を散らす。 素早い動きで連撃を叩き込むエンデヴァルドと、その攻撃を盾で正確に弾きながら槍を突くゲッペルの攻防は、息をつく暇もないほど激しい。
「どうした魔王! 息が上がって来ているぞ! 」
隙をついてタックルしてきたゲッペルを、エンデヴァルドは剣を盾にして受け止める。 が、エンデヴァルドの2倍はあるゲッペルに押し負けて、エンデヴァルドは後方に突き飛ばされた。
「この体じゃなきゃ負けてねぇ! デカ過ぎなんだよお前! 」
地を滑って耐えたエンデヴァルドは、イメージグローブでゲッペルの周囲を岩柱で囲う。
「おらぁ! 」
エンデヴァルドが地につけていた手を振り上げると、エンデヴァルドの後ろにゴーレムの手が姿を現す。 エンデヴァルドの手とリンクし、目一杯指を広げて逃げ場を封じたゲッペルを叩き潰したのだ。
ゴーレムの手は砕け、辺り一面に砂煙が舞う。
「…… 思ったより頑丈じゃねぇか。 『西方の盾』と言われてるだけあるぜ 」
収まってきた砂煙の中に、アイギースの盾で全身を隠すように構えて片膝をついたゲッペルが、エンデヴァルドを見据えていた。
「それで終わりか? 小僧 」
余裕の表情を浮かべるゲッペルだったが、中々立ち上がらない様子にエンデヴァルドは笑う。
「強がるなよ木偶の坊! 足にキてるのがバレバレだぜ? 」
「フッ…… 我々は一人ではないことを忘れるな! 」
ゲッペルはニヤリとして再び盾を頭の上に構えた。 それに倣って周りの重歩兵達も頭の上に盾を構えて身を屈める。
ハッと真顔になったエンデヴァルドが空を見上げると、そこには無数の炎魔法の矢が降り注いでいたのだ。
「チッ! まだ残ってたんかよ! 」
マリアの爆裂魔法を逃れた対岸の魔導士隊から放たれた炎の矢は、ゲッペルを巻き込んで一帯に降り注ぐ。 ゲッペルが頭の上に盾を構えたのは、ゲッペルが広範囲殲滅を指示するサインだったのだ。
「しゃらくせぇ! 」
エンデヴァルドはダンと地面を蹴り、岩の壁を高く立ち上げる。 エンデヴァルドの周辺は岩の壁で防いだが、広範囲に広がって飛んだ炎魔法は離れていたヘレンとマリアをも襲った。
「うあっ! 」
「きゃああ! 」
魔法防御の手段がないヘレンと全魔力を使い果たしたマリアが悲鳴を上げる。 エンデヴァルドはすぐさまヘレンに駆け寄って炎の矢を叩き落とし、マリアの前面に岩の壁を突き上げた。
「汚ぇぞお前! 狙いはオレだろうが! 」
「戦に汚ぇもクソもない! 弱みを突くのが戦争の基本だろう! 」
重歩兵隊と合流したゲッペルは、炎の雨の中を高らかに笑いながら前進してくる。 5人一組に分かれて盾を屋根にした陣形を組み、四方八方からエンデヴァルド達に襲い掛かった。 近づいては槍を突き、一撃離脱を繰り返す。
「ヘレン、マリアの所まで下がれ! 」
反撃に転じれないエンデヴァルドは、イライラしながらヘレンを後方に押し出す。 ヘレンが足を引きずりながらマリアの元に辿り着くと、途端に炎の雨はマリアとヘレンへの爆烈魔法攻撃に変わったのだ。
「しまった! 罠かよ! 」
爆裂魔法の集中砲火を受けて岩壁は削られ、エンデヴァルドはそれを修復する為にイメージグローブの力を使う。 炎の雨が止んで陣形を解いたゲッペルは、エンデヴァルドを取り囲んで総攻撃を仕掛けたのだ。
「いくら個が強かろうと、所詮個は個でしかないのだ! 」
防戦一方のエンデヴァルドに、ゲッペルはうすら笑う。
「数に任せて押し潰すやり方なんざ、虐め以外の何者でもねぇんだよ! 」
強気なセリフを叩き付けるエンデヴァルドだったが、四方八方から突かれる槍の攻撃を避けるのが精一杯だった。
「何とでも言うがいい! それが軍であり、力なのだ! 」
高笑いをするゲッペルに、エンデヴァルドはブチ切れ寸前。
「ぬおおお! ゲスってんじゃねえぞクソがぁ! 」
一斉に突かれた槍をしゃがんでかわしたエンデヴァルドは、自分もろともその場一帯の地面を突き上げた。 重歩兵達を吹き飛ばしはしたが、エンデヴァルド自身も宙高く打ち上げられる。
「はっはっはっ! 血迷ったか小僧! 」
自爆したように見えたエンデヴァルドだったが、彼は宙返りを決めてマリア達が隠れる岩壁の裏に着地した。 すぐにイメージグローブを全開で発動させて幾重にも岩壁を張り、その中に閉じこもったのだ。
「フン、籠城するつもりか? まあいい 」
ゲッペルは重歩兵達を下がらせ、回復しておくよう命令する。 その間にも爆裂魔法の集中砲火は続き、張られた岩の防壁が破られるのも時間の問題だった。
「はあ…… はあ…… 」
連発でイメージグローブを発動させた上に、本調子でないエンデヴァルドの気力は限界に近かった。 全周囲を囲っている岩壁は、爆裂魔法の着弾に合わせて揺れて破片が降ってくる。
「エンデヴァルド、私はもう捨て置け。 端から敵う相手ではなかったのだ 」
「うるせぇ、弱音吐く暇があるならこの状況をひっくり返すことを考えろや! 」
そのセリフに、マリアは力なく鼻で笑う。
「情けないですね勇者サマ。 大口叩いてそのザマですか? 」
マリアの容赦ない言葉に、怒りを露にしたのはヘレンだった。
「そんな言い方はないだろう! この男は…… 」
「いや、マリアの言う通りだ。 情けねぇ事に体が言う事を聞きやしねぇ 」
「言い訳ですか? らしくないですね 」
そう言ってマリアは、胡坐をかいて肩で息をするエンデヴァルドの背中にピトッと張り付いた。
「…… なんだ? 貧乳に興味はねぇぞ 」
「発展途上をバカにすると後悔しますよ? 」
最後の思い出に…… 突然そんな雰囲気を醸し出す二人に、ヘレンもチェストアーマーの留め具を外し始める。
「貴様は遊郭が好きなのだったな。 自信はないが…… 」
「「違うわ! 」」
二人に怒鳴られてキョトンとするヘレン。
「マリア、なんのつもりだ? 」
「勇者サマはイメージグローブの使い方が雑なんです。 今から教えてあげますよ 」
マリアは背中からエンデヴァルドの頬に手を添え、覆い被さるように身を乗り出す。
「おい…… 」
「いいからじっとしてて下さい 」
エンデヴァルドの顔をクイッと横に向け、マリアはそっとエンデヴァルドの唇にキスをしたのだった。