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3話 戦う? 美人な踊り子が仲間になった

 夜明けと共に名もない村から旅立ったエンデヴァルドは、無我夢中で次の町メゾットに向かっていた。 というのも、腹を空かせて目覚めたエンデヴァルドが食糧を売れと勇者の証をちらつかせて村人に交渉するも、全ての村人に断られて追い出されてしまったからだ。 ここからメゾットまでは徒歩で約3時間程。 朝飯を我慢したと思えば行けないことはないと、悪態をつきながら出発したのだった。


「あいつらめ…… 勇者をなんだと思ってるんだ 」


 ブツブツと独り言を呟きながらエンデヴァルドは黙々と歩を進める。 その後ろからやや遅れ気味にトテトテとマリアがついてくる。


「そんなものですよ。 勇者なんてもう過去の栄光、ましてや飴玉事件の引き金になってるんですから、全ての人がありがたがっている訳ではないんです 」


「オレじゃない。 顔も知らない勇者一族の誰かがそう言い出しただけだ 」


「でもあなたは勇者一族のクセにそれを止めようともしなかった 」


 エンデヴァルドは振り返ってマリアを睨む。


「…… 何が言いたい? 」


「別に何も。 ささ、魔王討伐に向かいましょう 」


 マリアはニコニコしながらエンデヴァルドを追い抜いて先へ走っていった。


「なんなんだあいつは…… 」





 ヘロヘロになりながらも到着したメゾットの町は、大都市カーラーンに次いで大きな町だ。 エンデヴァルドにも馴染みがある町で、名もない村の村人が言ったように遊廓や宿屋には顔見知りもいる。


「あらエバ様、どうしたの? そんなにフラフラになって 」


 その宿屋に入ろうとしたところで若い女性に声を掛けられた。 年のころは20代前半、整った顔立ちで、腰まである髪は漆のような艶やかな黒。 通りを歩けば誰もが一目置くような美女だ。


「セレス! いいところで会った! 」


 エンデヴァルドはセレスと呼んだ女性に駆け寄り、腰に手を回して引き寄せる。


「せっかちな人ねぇ。 ダメよ、昼間はお仕事じゃないもの 」


「違う! 飯を食わせろ 」


 キョトンとしたセレスは事情が分からず、エンデヴァルドの後ろでニコニコしている銀髪の少女に目をやる。


「…… 隠し子? 」


「んなわけあるか! こいつのせいで文無しなんだぞ! 」


 セレスはそっとエンデヴァルドの腕をほどき、ジト目で静かに離れていく。


「いや! 金は後で払うから! 」


 慌てて勇者の証を見せると、セレスはスススと戻ってきてエンデヴァルトの腕に手を添えた。


「…… 現金な奴だな 」


「お仕事ですからー 」


 にっこりと微笑むセレスに連れられて、エンデヴァルドは宿屋の入口へ入っていく。


「あなたも一緒にどう? エバ様のおごりよ 」


 セレスに声をかけられたマリアは大きなため息を一つ。 やれやれといった様子で二人の後に続いて宿屋の入口へ向かった。




「魔王討伐? 」


 果実酒の入ったグラスを片手にセレスが瞬きした。


「そうだ。 オレら勇者一族が国王直々にそう命令を受けてな 」


「討伐だなんてそんな大袈裟な。 確かに各地で大騒ぎした人達はいたけど、魔王様は既に力を失っていて何の影響力もないわよ? 」


 既に4人前の料理を平らげ、更に追加のハンバーグ定食に手を付けていたエンデヴァルドのフォークの動きが止まる。


「なんでそんなに詳しいんだ? 」


「お店にいるとそういう情報も結構入ってくるのよ。 ルーツ山脈方面管轄のお偉いさんの話だから信用に足る情報だと思うけど…… 疑う? 」


「いや、お前の情報は信用してる。 オレが聞いた話は、騒ぎが収まらず軍も手を焼いているから、元凶の大元を潰せってことだったんだが。 どうなってんだ? 」


 さあ? とセレスはグラスに口をつける。


「行ってみればわかるんじゃないですか? 自分の目で確かめるのが一番確実です 」


 そう言ったのはニコニコ顔で肉団子を頬張るマリアだった。


「マリアちゃんは知ってたの? 」


 エンデヴァルドも思わずマリアに目線を向ける。 なぜ魔王討伐を知っていたのか気になることだった。


「スレンダン様が庭先でぼやいていたのをたまたま聞いたんです 」


「スレンダン? あぁ、あのモウロクジジィか 」


 スレンダンは、かつて王国の政務官として活躍した、国王の右手と言われる人物だ。 現在は隠居して北西の町エレンにある別邸に引き下がってしまったが、今でも国の上層部の信頼は厚い。 マリアはそこでメイドとして働いていたが、エンデヴァルドが魔王討伐に手を上げたと聞いて辞めてきたと言う。


「なぜわざわざ大御所のメイドを辞めてまでオレについてくるんだ? 待遇はいいだろうが? 」


「せっかく魔導士に生まれたんですから、この機会に有名さんになってみようかなと 」


 マリアは頬を掻きながら照れていた。


「おこぼれに預かろうってか? お前も現金な奴だな 」


「お前じゃなくてマリアです 」


 マリアはスッとエンデヴァルドのハンバーグを取り上げると、見事なナイフ捌きでサイコロにして口に放り込む。


「オレのハンバーグ! ってまぁいいが 」


「じゃあ私もそのおこぼれに預かろうかなぁ 」


 ねー! とセレスはマリアと顔をを合わせて声をあげた。 楽しそうに笑う二人は、出会ったばかりだと言うのにすっかり意気投合しているようだった。


「遊びに行く訳じゃないんだぞ? そもそもお前戦えるのかよ? 」


「あら! 元々私は宮廷の踊り子よ? 」


「…… 戦いに関係ねぇじゃねーか 」


「遊郭も飽きちゃったのよ。 お金にはなるけど、しつこい連中も多いしマナー悪い奴も多いし。 それに…… 」


 セレスはエンデヴァルドの耳元で囁く。


「何が真実なのかも見てみたいじゃない? あなたなら何かあっても守ってくれるでしょ? 」


「うるせーよ 」


 エンデヴァルドはマリアとセレスを一瞥して席を立ち、外に出て行ってしまった。


「さすが、男の扱いが上手いですね。 セレスさん 」


「呼び捨てで構わないわ。 これから一緒に旅をする仲間なんだから 」


 ニコニコと微笑むマリアを、セレスはグラスを煽りながら見据える。


「あなたがエバ様に何をするつもりなのかも見てみたいのよ、銀髪の魔導少女さん 」


 少し睨みを効かせるセレスだったが、マリアは相変わらずニコニコの表情を崩さなかった。


「…… もしかして何か疑われてます? 」


「そうね、怪しすぎるもの 」


 じっとマリアを見据えていたセレスはやがてため息をつき、グラスをクイッと開けた。


「…… まあいいわ。 これからよろしくね、マリア 」 



  ― 戦う? 美人な踊り子が仲間になった ― 



 


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