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38話 反撃

 3メートルはあろうかという大腕は転倒した馬車を持ち上げ、重歩兵の輪目掛けて投げ付けた。


「うわああっ!! 」


 馬車は重歩兵達を巻き込んで谷底に落ちていき、部隊は一瞬のうちにその半数を失ってパニックになる。


「おるぁ!! 」


 エンデヴァルドは追撃で地面を液状化させる。 崖に沿って作られた道は土砂のように流れ落ち、残った重歩兵達は逃げる間もなく飲み込まれていった。


「な…… なんだ…… 」 


 一瞬のうちに魔導士を除く部下を失ったゲッペルは、崩れ落ちた道をただ茫然と眺める。 突如生え出たゴーレムのような腕、水のように流れ落ちた地面。 あり得ない現実に頭の中は真っ白になり、意味もなく天を仰ぐ。


「マリア、何をボサっとしてる! 向こう岸にお得意の一発をぶちかませ! 」


「わ、分かってます! 命令しないで下さい! 」


 マリアは濡れた頬を拭い、爆裂魔法の詠唱に入った。


「特大のヤツをプレゼントしてやれ! ぶっ倒れたらちゃんと連れ帰ってやる! 」


「言われなくてもそのつもりです! 私が寝入ってもお尻触らないで下さいよ! 」


「貧相な尻など触るか! 」


 そんな押し問答をしている間にも、マリア目掛けてライトニングレイは飛んで来る。


「フン! 」


 エンデヴァルドは聖剣エターニアを抜き、鞘を投げ捨てて光の矢を叩き伏せた。  マリアは目を閉じ、顔の横を光の矢がかすめても微動だにしない。 それは、文句を言いながらもエンデヴァルドに信頼を置いている証だ。


「どいてください! 」


 詠唱が完了したマリアは、目の前のエンデヴァルドの背中に向けて両手を突き出した。 スッとエンデヴァルドがマリアの後ろに身を滑らせると、手の向く方向は向こう岸の魔導士隊の中心。


「エル・バースト!! 」


 マリアの両手を中心に、光り輝く魔方陣が瞬時に描かれる。 今回はその魔方陣の前方にもう一つの魔方陣が姿を現す。 反動を伴って放たれた光の玉は、放物線を描いて向こう岸の森の中へ吸い込まれていく。 雷のように一瞬光ったかと思った瞬間、大気を震わせて大爆発が起こった。 大木が宙高く舞い、爆煙が一帯を覆う。 エンデヴァルド達が立つ対岸にまで爆風が吹き付け、ゲッペルの頭には小さな木片が落ちてきた。  

   

「………… 」


 えぐれて煙が立ち上る森を見てゲッペルは言葉を失い、ガランと自慢の盾を地面に落とす。 すっかり戦意喪失したゲッペルを余所に、リュウはヘレンに駆け寄って背中に手を添えた。


「無事ですか? 」


「私は平気ですが…… 」


 ヘレンの腕に抱かれたジールは、両手の指の爪が割れて血まみれになり、右腕が骨折しているらしかった。 ゲッペルに握り潰されそうになった喉も、ヒューヒューと苦しそうな息遣いだ。


「僕が運びます。 必ず助けてみせます 」


「リュウ様…… ありがとうございます 」


 ヘレンからジールを受け取り、そっとジールを背負ってリュウは走り出す。


「おい、ついでにコイツも回収していけ! 」


 エンデヴァルドがマリアと岩壁の間に挟まった状態でリュウを呼んだ。 全力で放った爆裂魔法の反動で後ろに吹っ飛んだマリアを受け止め、岩壁に激突するのを防いだのだ。


「行って下さいリュウ様。 私まで担いでいって、もしその子が手遅れになってしまったら寝覚めが悪いです! 」


「はい! 」


「あっ! おい! 」


 リュウはニコッとマリアとエンデヴァルドに微笑むと、全力で山道を駆け降りていった。


「あーあ…… 行っちまいやがった。 もう一歩も動けねーのに、何やせ我慢してんだよ! 」


「本音を言っただけです。 それに私は『コイツ』じゃありません 」


 エンデヴァルドに寄りかかるように見上げたマリアは、口元を少し緩ませて得意気だった。


「ぶっ倒れたのだから、ちゃんと連れ帰ってくれるのでしょう? 腐れ勇者サマ? 」


「うるせぇ、ポンコツ魔導士! 」


 エンデヴァルドは乱暴に言い放つが、丁寧にマリアを岩壁に寄り掛からせる。 聖剣エターニアを肩に担ぎ、呆然と立ち尽くすゲッペルに向かってゆっくりと歩き出した。


「エンデヴァルド…… 」


 ヘレンは、横を通り抜けるエンデヴァルドを見上げる。 その目にはもはや敵意はなく、何かを期待するように揺れていた。


「ったく、めんどくせぇ奴だ。 いいから大人しくそこに座ってろ 」


 そう言ってエンデヴァルドは、ヘレンとは目を合わさず素通りする。


「おいゲッペル! 最後の情けだ、尻尾巻いてとっとと帰れ! 」


 対峙した小さなエンデヴァルドに、ゲッペルは動揺を隠しきれない。


「…… 小僧、貴様何者だ? 」


 エンデヴァルドは『ああ……』とため息をつき、ガリガリと頭を掻く。


「いちいち説明もめんどくせぇ。 魔王エンデヴァルドで納得しろ 」


 一瞬固まったゲッペルだったが、次の瞬間には高らかに大笑いし始めた。


「魔王エンデヴァルドか! その剣! その力! 納得したぞ! 」


 水を得た魚のように復活したゲッペルに、エンデヴァルドの方が面食らっていた。


「バカなのか、この男は…… 」


「単細胞ですか…… 」


 ヘレンもマリアも、何故か喜ぶゲッペルに冷ややかな目線を向ける。


「ならば先程のエンデヴァルドは脱け殻と言うわけだ! 貴様を倒せば、魔王とエンデヴァルド両方を倒した事になるのだな! 」


「おお! 頭いいなお前! 」


 ゲラゲラとお互いを指差して笑うエンデヴァルドとゲッペル。 マリアやヘレン、西方軍の部下達が唖然とする中、ひとしきり笑った二人は突然同時に武器を構えて戦闘態勢を取った。


「魔王エンデヴァルドだと? 笑わせるな! 」


「来いよ木偶の坊! 格の違いを教えてやる! 」


 エンデヴァルドは聖剣エターニアを水平に構えて飛び出し、対するゲッペルは前面にアイギースの盾を押し出して突進してきたのだった。 



 

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