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37話 銀色の脅威

「出てこいエンデヴァルド! デカイ図体を隠せるとでも思ったかぁ!! 」


 銀色のフルアーマーのゲッペルは、エンデヴァルドに見劣りしない体格…… いや、それ以上の強靭な肉体を持っていた。 フルアーマーの隙間から見える褐色の肌は、それだけで見るものを圧倒するほど筋肉質だった。


「…… 多分僕を呼んでるんですよね? 」


 ゲッペルを知らないリュウは、自分を指差してマリアに聞く。


「さあ。 仲良かったんじゃないですか? ムキムキ友達とか 」


 岩陰から様子を伺うマリアも、西方軍の隊長ということくらいしか知らない。


「友達なら出ていっても大丈夫ですね! 」


 笑顔で岩陰から身を乗り出すリュウを、マリアは慌てて引き止めた。


「冗談ですよ! 攻撃されてるのに友達な訳がないじゃないですか! 」


「あ、そうか。 そうですよね…… 」


 シュンと肩を落とすリュウに、小声で『調子狂うなぁ』とマリアも肩を落とす。


「ビビったか!? そうだろうなぁ! 使い捨ての強襲部隊は潰せても、俺の軍は格が違うんだからなぁ! 」


「くっ!? 」


 ゲッペルの言葉に唇を噛み締めたのは、意識のないジールを庇ってうずくまるヘレンだった。 ギリッと歯を食いしばり、肩越しにゲッペルを鬼のような形相で睨む。


「がはははっ! そう怒るなヘレン、だがそれが事実なんだよ。 強襲部隊なんざ所詮突っ込み係、替わりなんざいくらでもいる 」


「貴様ぁ!! 」


 ヘレンは瞬時に起き上がって太刀を一閃する。 目にも止まらぬ抜刀だったが、ゲッペルの大柄な体を隠せるほどの重厚な盾を両断する事は出来なかった。


「フン! 」


 ゲッペルは盾を構えたままヘレンにタックルして勢い良く吹き飛ばす。 重戦車のような巨体に吹き飛ばされたヘレンは地面を滑り、全身を襲う激痛に顔を歪める。


「お前の太刀は見事だがな、俺の盾の前では全くの無意味なんだよ。 知ってるだろ? シルヴァテクタイトとレンゼナイトの合金に、魔法防御を付与したこの『アイギース』の盾をよぉ! 」


 自慢の盾を掲げ、高らかに笑うゲッペル。


「バカですね。 手の内をわざわざ暴露するのはバカのやることです 」


 マリアは岩陰からジト目でゲッペルを軽く罵る。


「なんにせよ、これでお前を正式に始末出来る。 前々から気に食わなかったんだよ、この犬っころを可愛がって飼ってるお前がな! 」


 ゲッペルは目の前で気を失っているジールの首を片手で掴み、持ち上げて宙吊りにした。


「やめろ! 」


「くはっ…… !? 」


 ミシミシとジールの首の骨が軋み、ジールは手足をもがいて苦しむ。


「ほらヘレン、早くしないとこの犬っころの首がへし折れちまうぞ? 」


「ゲッペルぅ!! 」


 渾身の力を振り絞って、ヘレンはゲッペルに突っ込んだ。 だが敢えなく盾に弾かれて薙ぎ倒され、背中を踏みつけられてしまう。


「ふはは! 弱い! 弱すぎるぞぉ! 」


 ゲッペルは尚もジールの首を絞め、やがてジールの体から力が抜ける。 


「がああぁ!! 」


 懸命にもがくヘレンだったが、巨体のゲッペルを撥ね飛ばす事は敵わなかった。


 その時、リュウがスッと岩陰から出てゲッペルに向かって歩いていったのだ。


「リュウ様! 」


「ごめんなさいマリアさん、僕はあれを見過ごせるほど強く(・・)はありません 」


 臆する事なく足を進めるリュウに、ライトニングレイが降り注ぐ。


「無茶ですリュウ様! 」


 マリアがその光の矢に応戦するが、マリア自身も光の矢に狙われて岩陰に隠れざるを得なかった。 仕損じた一発のライトニングレイが、リュウのこめかみを直撃する。


「ああっ!! 」


 マリアが悲痛な叫びを上げた。 が、光の矢はリュウに当たった直後に弾けて四散し、放った魔導士に向けて飛んで行ったのだ。


「…… リフレクション…… 」


 ボソッとそう呟いたマリアの頬に、一筋の涙が流れた。 それは魔王リゲルが持っていた特殊能力で、体に触れた魔法を発動者に跳ね返すスキルだ。



  すまんなマリア  私はあれを見過ごせるほど強く(・・)はないのだ



 過去にルーツ山脈で似たような状況で、リゲルは瀕死の人間族を救った。


「セリフまで一緒なんですね…… 」


 マリアの目には、若かりし頃のリゲルがリュウに被って見えていたのだった。



「やっと出てきたかエンデヴァルド。 こうすれば貴様は必ず出てくると思ったぜ 」


 ゲッペルは部下に攻撃を止めさせ、一人で向かってくるリュウを黙って待つ。 目の前までやって来たリュウに、ゲッペルはニタァと薄ら笑いを浮かべた。 向かい合ったリュウとゲッペル…… 体格で言えば、ゲッペルの方が頭一つ分大きい。 見上げるリュウには、いつもの優しい雰囲気がなかった。


「その子を離して下さい 」


「あん? なんだその喋り方 」


 真顔で丁寧に話すエンデヴァルドの姿のリュウに、ゲッペルは眉をひそめる。 その隙にリュウは、ジールの首を絞めていたゲッペルの手首を掴む。


「離して下さい。 彼女が苦しんでいます 」


「はーっはっはっ! どうした? ビビりすぎて人格が飛んだか? 」


 大声を上げて笑うゲッペルだったが、一気にその余裕を失う。 リュウがゲッペルの首を鷲掴みにして、その巨体を軽々と地面にねじ伏せたのだ。


「がはっ! 」


 一瞬の出来事にゲッペルは堪らずジールを手放す。


「ジール! しっかりしろジール! 」


 すかさず踏みつけられていたヘレンが、転がりながらもジールを抱き寄せて必死に名前を叫び続けた。


「あ、相変わらずとんでもねぇ馬鹿力だぜ! 」


 首を押さえつけられながらも、ゲッペルはニヤッと不敵な笑みをリュウに向ける。


「兵を引いて下さい。 無益な争いは何も生みません 」


「無益だと!? 俺の本命は貴様なんだよ! 」


 ゲッペルはリュウの腕を掴んで力任せに放り投げる。 空中で一回転して難なく着地したリュウだったが、そこは重歩兵100人が盾を構えて囲むど真ん中だった。


「逃がさねぇぞエンデヴァルド! 長年チョロチョロと逃げ回りやがって! 」


 指を差して怒鳴るゲッペルに呼応して、重歩兵達が一歩ずつリュウの包囲を狭めていく。


「リュウ様! 」


 マリアが重歩兵に手のひらを向けて爆裂魔法を放とうとしたが、崖の向こうから浴びせられる光の矢に阻まれて岩陰に押し込まれてしまう。


「ここで仕留めてやるクズ勇者が! 」


 ゲッペルが腕を振り下ろし、重歩兵に突撃を命令したその時だった。


「誰が腐れ勇者だゴルァ!! 」


 言葉は汚いが、甲高い迫力のない声にゲッペルや重歩兵が振り向く。 そこには地に片手をついてしゃがみこんだリュウの姿のエンデヴァルドが、岩で作られた大きな腕先をバックに睨みを利かせていた。 




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