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32話 感謝していると

 旧魔王城は、リュウの意向で解体することになった。 遺体は全てユグリアの丘に埋葬し、ここは更地にして緑を植え、慰霊碑を建てるのだという。


「それじゃ始めるぞ。 いいな? 」


「はい、お願いします 」


 横に立つリュウに確認を取って、エンデヴァルドはイメージグローブを発動させる。 旧魔王城一帯の地面が波打ち、魔王城は瓦礫と共にゆっくりと地面の中へと下降し始めた。 解体は無理だと判断したエンデヴァルドは、そのままの形で地中に沈める方法を提案したのだ。


 魔王城を中心に地面は渦を巻き、まるで沈没していく船のように魔王城は沈んでいく。 屋根の上に立っていた見張り台を残して魔王城が地中に沈むと、エンデヴァルドも顔から地面に崩れる。


「大丈夫ですかエンデヴァルドさん! 」


「無理。 文字通りの全力だ、もう力残ってねぇ…… 」


 リュウに抱き起されたエンデヴァルドは、疲れ切った顔でリュウにドヤ顔を見せる。


「どうだ、綺麗な更地になっただろ? 」


「はい、ありがとうございます! エンデヴァルドさんはやっぱり凄いですね! 」


「バーカ、お前のイメージグローブが凄ぇんだよ。 俺はお前の力を代行しただけ…… ってか、早く体を返せってんだ 」


 リュウは『そうですね』と笑って、軽々とエンデヴァルドを背中に背負った。


「後は僕達の仕事ですね。 ちょうど見張り台がいい位置にありますから、あれを加工して慰霊碑にしましょう 」


「好きにしてくれ。 俺は少し寝…… る…… 」


 そう言うとエンデヴァルドは、すぐにリュウの背中で可愛い寝息を立て始めた。


「お疲れさまでした。 これはもう、感謝してもしきれませんね…… 」


 リュウは護衛としてついてきていたオークのブルムとレクスに、『館に一度戻ります』と伝える。


「ではエンデヴァルドは自分が運びます。 リュウ様のお手を煩わすことではありませんで 」


 手を伸ばしてきたレクスに、リュウは首を横に振ってレクスに微笑んだ。


「いえ、僕に運ばせてください。 これは僕の役目なんだと、そう思うんです 」


 意味がよく分からないブルムとレクスは、困った顔で先を歩いていくリュウを追いかけた。





「…… あれ? ヘレンさん? 」


 館の門の入り口まで戻ってきたリュウは、向かいから歩いてくるヘレンの姿を見つけた。 強襲部隊の黒ずくめの防具を装備し、愛用の太刀を腰に据えて真剣な表情で歩いてくる。 ヘレンのすぐ後ろには、同じく真っ黒なマントに身を包んだジールの姿もあった。 二人はリュウを見つけると、立ち止まって軽く頭を下げる。


「武装なんかして、どちらに行かれるのです? 」


「リュウ様…… 私はこれからカーラーンへ戻り、真相を直接フェアブールト王に問いただしてきます 」


 そう言って通り過ぎていくヘレンとジールを、リュウはブルムとレクスに止めさせた。


「待ってください。 問いただすとはどういうことですか? 」


 振り向いてリュウを見つめるヘレン。


「エンデヴァルドが言った事が真実なのか、自分の目と耳で確かめてきます。 私は軍人故、上からの命令には疑問を抱かず任務を遂行してきました…… エンデヴァルドの言葉は、今の私には受け入れ難い事。 ですから、真実をこの目で確かめて参ります 」


「ですがヘレンさん、戻れば危険が伴うのではなかったのですか? 」


 ヘレンはリュウに優しく微笑む。


「これでも多少は腕に自信があります。 リュウ様、一つお願いしても宜しいでしょうか? 」


「なんでしょう? 」


「エンデヴァルドに、ヘレンが『感謝している』と言っていたと 」


 リュウはじっとヘレンの目を見つめ、そして大きなため息をついた。


「お受け出来ません。 大事な言葉ですから、必ずここへ戻ってヘレンさん自身から伝えて下さい 」


「…… お見通しなんですね。 リュウ様には心を読む能力がおありなんですか? 」


「そんな能力があれば、もっとうまく立ち回っていますよ 」


 リュウはニコッと笑って、ずり落ちてきたエンデヴァルドを担ぎ直した。 未だ深く寝入っているエンデヴァルドに、ヘレンの表情が少し緩む。


「悪名高い腐れ勇者でも、こんな無防備な寝顔を見せるんですね 」


「そんな言い方はないですよ。 きっとエンデヴァルドさんは、誰よりも純粋なんだと思うんです。 権力に流されず、種族を越えて弱き者を守り、命を重んじる…… 勇者と呼ばれるのが分かるような気がします 」


 ヘレンとジールはリュウの言葉に呆気に取られ、揃ってプッと吹き出した。


「あれ? 僕、変な事言いました? 」


「いえ…… リュウ様がそう言われるなら、そういう男なのでしょう。 我々シルヴェスタ軍も、本来はそうあるべきなのかもな 」


 ヘレンがジールに目を向けると、ジールは目を細めてヘレンを見据える。


「私はヘレン様の意志に従うだけです 」


 『そうか』とヘレンはジールに微笑み、すぐに真顔に戻ってリュウに頭を下げた。


「リュウ様の仰る通り、感謝は自分の言葉で伝えることにします。 もし戻って来れたら…… 」


 ヘレンがそこで言葉を濁すと、リュウは『いいえ』と優しく微笑む。 それを見てヘレンはグッと気を引き締める。


「そうですね、失礼しました。 戻ってきたら、『ただいま』と言って良いですか? 」


「もちろんです。 待ってますよ 」


 ヘレンは柔らかく微笑み、一礼して背中を向けたのだった。




 



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