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29話 関係ねぇ!

 ジールを水柱で追い回したことによって、旧魔王城跡地一帯は大雨の後のように水浸しになっていた。 逃げ回って疲れ果てたジールは、ぬかるんだ地面に足を取られて転んだ所に水の鞭に襲われて気絶。 黒マントの脅威を退けたエンデヴァルド達は、水が引くまで作業を諦めて、気絶したジールを館に連れ帰ったのだった。


「思ったほど崩壊はしていなさそうなのよね、あの魔王城 」


 円卓を囲んで食事を取るエンデヴァルド達は、セレスの話に耳を傾ける。


「なんでそんなこと分かる? 」


「リゲル様がお若かった頃に何度かお邪魔したことがあるのよ。 今瓦礫になっている部分はその頃から増築された外側だけみたいなのよね…… 古い奥部分は案外無事なんじゃないかしら 」


 王城跡はエンデヴァルドの水柱によって、長年積もった埃や塵は綺麗さっぱり洗い流され、生えていた(こけ)等も吹き飛んでいた。 視界を遮る瓦礫がある程度避けられたことにより、奥にはそれなりの形を保ったままの王城が見えていたのだ。


「さすがですね。 ドラゴニュートであるリゲル様は200年以上生きられたそうですから、セレスもそのくら…… 」


「失礼ね! リゲル様よりは若いわよ! 」


 とはいえ、セレスの見た目年齢は人間族の20代後半である。


「ともかく! リュウ様が抑止力になられるのだったら、それ相応の住居が必要になってくるわ。 大きな門構えの王城があるだけでも箔が付くでしょ? 」


「一理ありますね。 フェアブールト王が平穏に過ごしているのも、あの大きなカーラーン王城が一役買っている部分があります 」


 セレスの意見にグランが補足をすると、エンデヴァルドは『なるほど』と頷いていた。


「でも魔王城を再建したら、人間族の格好の的になるんじゃ…… 」


 恐る恐る意見を言うエルに、『大丈夫です』とマリアは微笑んだ。


「このユグリア地方は、ルーツ山脈の一本道でなければ来ることは出来ません。 軍が攻めて来るとしたら必ずルーツ山脈を進んで来ますが、蟲が行く手を阻むでしょう。 地の利はこちらにあります 」


 マリアの説明にエルは頷くが、パッとしないエルの様子にマリアは『どうしました?』と尋ねた。


「あの…… マリアはダークエルフなんでしょ? 人間族と魔族…… その…… どっちの味方なの? 」


 ダークエルフは人間族と魔族の間の忌み嫌われし存在。 聞いてはいけないと思いつつも、エルは気になって仕方がなかったのだ。


「ダークエルフはお嫌いですか? 」


 怒りはせず、静かに問うマリアに、エルは取れるかと思うくらい首を横に振る。


「そんなに頑張って否定しなくてもいいです、両属に嫌われているのはわかっていますから。 どちらの味方でもない…… と言いたいところですが、愛した方が魔族なので、私は魔族側につきたいのが本音です 」


 マリアがそう答えると、エルはホッと胸を撫で下ろした。


「あら、私は人間族サイドだけど? あなたは私を敵視するのかしら? 」


 向かいに座るセレスから質問されて、エルはビクッと肩を震わせる。


「ちが…… そういうことじゃなくて…… 」


「人間族サイドだの魔族側だの、くだらねぇな! 」


 重苦しい空気を勢い良く吹き飛ばしたのはエンデヴァルドだった。


「関係ねぇんだよ。 どっちが味方だ? 知るかそんなモン! どっちにだっていい奴もいれば悪い奴もいる。 敵を作るか味方を作るかは己次第なんだよ 」


 ダンとテーブルを叩き、エンデヴァルドは手を付けたスープを残して部屋を出て行った。 シーンと静まり返った部屋には気まずい空気が漂う。


「…… ごめんなさい…… 」


 俯いて謝るエルに、セレスは『いいのよ』と苦笑いする。


「私も意地悪が過ぎたわ。 でもエバ様が言ったように、少なくてもこの場にいる全員が種族なんて関係ないと思っているわ。 それは信じてちょうだい 」


「そうですね。 あの人に諭されるのは不愉快ですが、間違いなく正論です 」


 ポンとマリアに肩を叩かれたエルは、ぎこちなく笑顔を作った。 が、やはり下を向いてしまう。


「…… 皆は『関係ない』って簡単に言うけど、私には簡単じゃないよ…… 」


 再び俯くエルに、セレスとマリアは顔を見合わせる。


「信用してない訳じゃないんだけど…… やっぱり人間族は怖い。 すぐに仲良くなれなんて無理 」


「まぁそうよね…… でも、エバ様をよく見てて。 エバ様のする事、言う事…… 人間族も捨てたものじゃないと思えてくるから 」


 セレスはそう言い残して、部屋を出て行ったエンデヴァルドの後を追った。


「…… 美味しいご飯の時間なのに、場を壊しちゃった…… 」


 二人が出て行ったドアを見つめて涙を浮かべるエルに、レテが『大丈夫だよ』と優しく微笑む。


「勇者様もセレス様も怒ってないよ。 ちょっと席を外しただけ 」


「なんでそう思うの? 」


「勇者様が怒ったら、必ずと言っていいほど手が出るでしょ? 出て行ったのは空気を悪くしたくない勇者様なりの気の遣い方なんじゃないかな 」


 エルはマリアとグランに視線を移す。 グランは何も気にせず笑顔でパンを頬張り、マリアもサラダをどんどん食べ進める。


「食べないんですか? では私が頂きます 」


 マリアは半分食べ残したエルの分のステーキをヒョイとさらっていく。


「ダメですよマリア様! 」


「栄養をしっかり取らないと成長出来ませんから。 何せ私はまだまだ発展途上(・・・・)ですからね 」


 小さく切り分けてステーキを口に運び、自分の胸を揉むマリア。 グランとレテは苦笑いをしていたが、エルは何気なく元気付けてくれるマリアに涙を拭いて笑顔を向けた。


「いい顔ですね。 レテは別として…… あなたも発展途上なんですから、一緒にセレスを見返してやりましょう 」


 マリアとエルは揃って目の前のサラダに手を付け始める。


「あ、レテは遠慮してください。 小さい体のくせに、もう十分立派なものをお持ちですから 」


「わ、私だって小さいですよ!? 」


「比率的に大きいです。 それ以上成長すると、前重心になって歩きにくくなりますよ。 そう思いませんか? グラン 」


 突然話を振られて、グランはフォークを口に入れたままマリアにジト目を向ける。


「双子の妹相手に、僕に何を言わせようというのです? 」


「別に何も。 グランは大きいのと小さいのと、どちらが好みなのかと思っただけです 」


 レテが胸を押さえてグランを睨む。 そんな様子にマリアはクスっと笑い、つられてエルにも笑顔が戻っていた。






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