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2話 ポンコツ魔導士が仲間になった

「マリアと申します。 魔王討伐に向かわれると聞きましたので、是非お仲間にと思って 」


 フリフリのトップスにショートパンツ、短めの黒いマントに黄色いリボン付きの黒とんがり帽子の女の子はエンデヴァルドに微笑む。


「…… 貧乳ちゃんには用はねぇよ。 それになんだその格好。 オレは魔王んとこに遊びに行くんじゃねぇんだ 」


 エンデヴァルドは片手を振ってマリアを追い払う。


「私、魔導士なので防具の自由度は高いんです。 火炎魔法はいかがですか? 爆裂魔法は範囲殲滅に重宝しますよ? 」


 己の剣一本で相手をねじ伏せてきたエンデヴァルドには魔法のことなどさっぱりわからなかったが、たまに相手にする魔導士に苦戦を強いられることは確かにあった。 現状、兵を集められないエンデヴァルドにとって、一気に多勢を相手にできる魔導師の存在はありがたかったが、何か解せない。



  魔王討伐は公表などしていない筈



 公表してしまえば魔王を救おうと魔族達は蜂起するだろう。 魔王の周辺を固め、 少勢力といえど苦戦を強いられることになる。 それを未然に防ごうと、国王は秘密裏に勇者一族に魔王討伐の命を出したのだ。



  なぜこの女は魔王討伐を知っている?



 ニコニコと魔導士を押し売りしてくるマリアを横目で観察する。


「ま、いいか。 ホントに爆裂魔法は使えるんだろな? 」


「はい、試しにそこの宿屋を吹っ飛ばしてみますか? 」


 マリアは水晶を飾った杖を酒場の外に向けて呪文を唱え始めた。


「ば…… バカかお前は! こんなところで爆裂魔法なんか使ったら…… 」


「大地に眠る数多のマナよ、我が右手に集い…… 」


 エンデヴァルドの制止に見向きもせず、マリアはゴニョゴニョと詠唱を続ける。 詠唱が終わるかと思ったその時、不意にマリアの詠唱が止まった。


「へっくちっ! 」


 可愛いくしゃみと共に杖の先が天井を向いたのだった。





「まったく…… あり得ねぇ旅立ちだぜ 」


 城下町を飛び出すように逃げてきたエンデヴァルドは、ふて腐れた顔で石畳の街道を歩く。 マリアの爆裂魔法は無事発動し、酒場の天井を見事にぶち抜いたのだ。 それだけにとどまらず、勢い余った爆裂魔法は花火のように飛散し、付近一帯を次々に破壊していったのだった。 瓦礫の下敷きになりそうだったマリアを脇に抱えて飛び出したエンデヴァルドは、その様子を偶然見ていた役人に不審者扱いされて聴取を受ける。 『この騒ぎはお前か』と問われて、エンデヴァルドが事情を説明する間もなくマリアがハイ、と何気に返事をしたものだから、警備兵に追われながら城下町を飛び出してきたのだった。


 だが、それはマリアを役人に突き出せばいいだけの話。 エンデヴァルドは自分のせいではないとはいえ、追及されて『マリアを焚き付けたのはお前だ』などと言われれば面倒なことになると深読みしすぎたのだ。  


「いいじゃないですか。 ささ、魔王をやっつけに参りましょう 」


 エンデヴァルドに抱えられたままキャッキャとはしゃぐマリアをそのまま地面に落とす。


「お前のせいだろうが! 爆裂魔法使ってくしゃみとかなんかあり得ねぇぜ! 」


 城下町で金にモノを言わせて傭兵を雇おうかと思っていたのに、気が付けば貧乳ロリ魔導士たった一人。 しかも荷物は、逃げるのに必死で瓦礫の下に置いてきてしまった。 取りに戻るわけにもいかず、途方に暮れるエンデヴァルドはこのまま城下町カーラーンを出るしかなくなってしまった。



  ― ポンコツ魔導少女が勇者の仲間になった ―





 エンデヴァルドとマリアがやって来たのは、城下町カーラーンから半日歩いた名もない集落だった。 元々はホセという比率的に魔族が多く暮らしていた村だったが、あの飴玉事件以降に人間族側の軍隊によって壊滅した村だった。


「相変わらずひでぇ有り様だな 」


 建物は半数以上が崩れたまま放置され、道のあちこちには雑草が伸び放題。 何十人かは人間族が住んでいる筈だったが、行き交う人々の姿はなく廃墟のようだった。


「飴玉の事件があった村ですからね、みんな気味悪がって立て直すつもりもないのでしょう 」


「知ってる。 魔族の暴動鎮圧で軍が動き出した時に、真っ先に手を付けた村だ。 やむを得なかったのか、やる気でやったのか…… 魔族だけでなく人間族もほぼ皆殺しだったらしいからな 」


 エンデヴァルドはチラリとマリアを見る。 いたたまれない顔をしているかと思ったら、笑顔のままエンデヴァルドに首を傾げていた。


 薄暗くなった荒れ放題の道を進み、灯りの入っている家のドアを叩く。 反応はなく、それでも何度かノックをすると、怪訝な表情で年配の男が顔を出した。 エンデヴァルドは首に下げていた紋章の刻まれた金のプレートを男に見せる。


「悪いが一晩泊めてくれ。 宿代は国にいくらでも請求して構わん 」


 男はプレートとエンデヴァルドの顔を見比べ、眉間にシワを寄せて勢い良くドアを閉めた。


「あ、おい! 」


「勇者だかなんだか知らねぇがベッドを貸す気はない! 」


 ドアの向こうから聞こえる嫌悪感丸出しの声に、エンデヴァルドも苛立って応戦する。


「金は払うって言ってんだ! わざわざこんな湿気た村で我慢してやるって言って…… 」


「こんな有り様になったのは誰のせいだ!? キサマら勇者一族が余計な事をしたからだろう! 金があるならこんな廃墟ではなくメゾットのような大きな町に行けばいい! 」


「いや、この時間からじゃ日が暮れちまう! 第一…… 」


「キサマはそこの遊郭の常連だろうが! とっととこの村から出ていけ! うらやましい! 」


「うらやましいって…… 」


 会話はそこで切れてしまった。 何度ノックを繰り返しても返答は帰って来ることはなく、エンデヴァルドは舌打ちをして引き返す。


「遊郭、お好きなんですか? 」


 マリアはニコニコしながら自分の襟元を緩めて、華奢な肩をエンデヴァルドに出して見せた。


「バカかお前は。 どこでもいいが今は宿を探さなきゃならんだろ 」


 この世界においては夜の脅威があった。



  (むし)



 日の光を嫌う蟲は日没を迎えるとどこからともなく湧いてくる。 蟻や蛾、バッタなど、小さなサイズなら問題ないのだか、大きいものでは人の背丈ほどにもなる。 更にそれらは人間族を襲って餌とすることもあった。


「蟲ですか…… 」


 マリアは弱気に辺りを見回す。 魔族と人間族が共存していた頃には、蟲は町や村に湧くことはなかった。 どういうわけか、蟲は魔族の気配を嫌う。 魔族がその数を激減させた今では、野宿はあり得ない話だった。


「お前、転移魔法は使えねぇのか? 」


「お前、じゃありません。 マリア(・・・)です 」


「使えるのか使えないのか聞いている 」


マ・リ・ア(・ ・ ・) 」


 しかめっ面でプルプルするエンデヴァルド。


「マリア、転移魔法は使えるのか使えないのか、どっちなんだ? 」


「使えません 」


 マリアはニコッと清々しく笑って答えた。


「そもそも転移魔法は大都市に用意された設備間でしか運用出来ません。 個人で使えるのは大魔道士様か大賢者様に限られますし 」


「こん…… の…… 役立たずがぁ! 」 


 ヒョイヒョイと身軽に逃げるマリアと、頭に血が上ったエンデヴァルドの鬼ごっこが始まって数時間。 落ち着いたのは一応屋根もドアも無事な廃民家だった。 中はガランとして何もなかったが、マリアの火炎魔法で囲炉裏に火を入れ、とりあえずの寝床だけは確保した。


「これからどうするんですか? 」


 火にあたりながらマリアはニコニコとエンデヴァルドに問う。


「メゾットに行く。 とりあえず仲間を集めねぇと話にならんだろ 」


 すっかりバテてしまったエンデヴァルドはゴロンと横になり、そのまま寝息をたて始めた。


「仲間、ですか…… 」


 常に笑顔だったマリアの口元は、そう口にした時には無表情だったことをエンデヴァルドは知らない。



 


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