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26話 交渉と説得

 話がまとまりかけてきたところで、エンデヴァルドは考えていた本題を切り出す。


「だが、オレはお前らをただ守る気はねぇからな。 勘違いすんじゃねぇぞ 」


「「「アあぁ!? 」」」


 一瞬でケンカ腰になった兵士達に、エンデヴァルドは『まぁ聞け』と腰に手を当てて身を乗り出した。


「オレが王国軍の相手をしている間、お前らはオレとリュウを元に戻す方法を探せ 」


 お互いに顔を見合わせる兵士達。


「ダークエルフしかその秘術を使えないのだろう? 」


「マリアにはもうオレとリュウを元に戻す力は残っちゃいねぇ。 可能性は低いが、なんとかムーヴだけが手段じゃねぇとオレは考えてる 」


 上手く話を進めるエンデヴァルドに、冷ややかな目線を飛ばすのはセレスとマリアだった。 


「私達の受け売りで、よくまぁあそこまで喋れるものだわ 」



 玉座の間に来る前、エンデヴァルド達は勇者と魔王の力について話し合っていた。


 レテが言い出した、『2つの力を宿したのなら、ダークエルフ並みの事が出来るのでは?』という言葉から始まり、それならばとマリアが『魔族の中に、アンリミテッドムーヴに似た術式を発動させた者を過去に見たことがある』とマリアが話す。


 それは違うとセレスが反論し、『恐らく補助具ならぬ魔導具(・・・)だろう』と言う。 エンデヴァルドはそれを聞き、兵士達を利用して探させようとしたのだった。



「全くです。 ず太いとは思ってましたがここまでとは…… なんだかムカついてきました 」


 先程まで険悪だったセレスとマリアは、お互いを見つめて微笑む。


「そう言えば、あなたが勇者サマに固執する理由を聞いていませんでした。 昔の約束と言っていましたね? 」


「大したものじゃないわ。 長い間生きていると、ちょっとした一言に惹かれてしまうものじゃない? 」


「…… そうですね。 そうかもしれません 」



  俺が守ってやる



 ダークエルフの二人には、同じ言葉で心が癒された過去があるのだった。



「リュウ様を元に戻せるのなら我々にも異論はない。 それで、その手段の手掛かりとは? 」


 オークの一人が、希望に満ちた目でエンデヴァルドに問う。


「知らね 」


「それは人か? 物か? 」


「知らね 」


 エンデヴァルドは玉座であぐらをかき、鼻をほじくる。 見当すらつかないエンデヴァルドには、そう答えるしかなかったのだ。


「貴様ぁ! 我々を騙す気ではあるまいな! 」


「何の手掛かりもなければ探しようがないではないか! 」


「うるせぇ! 知らねぇものは知らね…… 」


「魔導具について調べなさい 」


 押し問答を始めるエンデヴァルドと兵士達の間に、セレスが割って入った。


「500年前の大戦時代には、魔導具を作れる魔族がいたそうよ。 何かの手掛かりになるでしょう? 」


「おお! あなたは見たことがあるのか! さすがダークエル…… 」


「500年も生きてないわよ! 失礼ね! 」


 セレスはキーっと歯を剥き出して兵士に怒る。


「私よりは長生きでしょう。 その垂れた胸が物語ってます 」


 ギロッとマリアを見据えるセレスの体から、漆黒のオーラが噴き出ていた。


「垂れてない。 まな板の皮肉かしら? 」


 対するマリアも、瞳を黄金色に染めてセレスを見据える。


「発展途上、と言って下さい。 私には(・・・)まだまだ十分時間はありますから 」


 ぶつかり合うセレスとマリアの気迫に、その場の誰もがたじろぐ。


「発展途上…… 」


 唯一、エルだけが自分の胸の大きさを確認して、『うん』と力強く頷くのだった。 





 真っ白なベッドの上で目を覚ましたヘレンは、味気のない石造りの天井を見つめていた。 エンデヴァルドの一撃を食らった脇腹にはひんやりする薬草葉が張られ、少々大袈裟に包帯が巻かれていた。


「気が付きましたか? 」


 その声にヘレンは顔を傾ける。 枕元には優しく微笑むエンデヴァルドの姿のリュウがいた。


「!? エンデヴァル…… あぐっ! 」


 飛び起きたヘレンは、脇腹の激痛に顔を歪めてうずくまる。


「ダメですよ! 肋骨が何本か折れているらしいです 」


 リュウが慌てて手を伸ばすと、ヘレンはその手をバチンと弾いて脂汗を流しながらもリュウを睨め付けた。


「なぜ斬らなかった!? 貴様は私に生き恥を晒せと言うのか!? 」


「えと…… ごめんなさい、僕にはわかりません 」


 敵意剥き出しのヘレンに、リュウは微笑みながら謝る。 頭は下げずじっと見つめるエンデヴァルドに、ヘレンはエンデヴァルドの中身が違うことを思い出した。


「そうか…… エンデヴァルドは魔王になったのだったな 」


「はい。 僕はリュウと言います 」


 睨み付けるヘレンに臆することなく再び手を伸ばすリュウは、ヘレンの肩をそっと抱えてベッドに寝かせ、乱れたシーツをかけ直した。


「………… 」


「………… 」


 部屋の中にはリュウとヘレンの二人きり。 リュウはヘレンを、ヘレンは天井を見つめたまま無言の時間が流れる。 その静寂を破ったのはヘレンだった。


「…… さぞ愉快だろう? 私は殺すにも値しないということか? 」


「あなたは死ぬ為にエンデヴァルドさんと戦ったのですか? 」


「あんなデタラメな力を見せつけられて、勝てるなどと到底思えぬ。 だが殺された部下の為…… 僅かに生き残った部下達を救う為に、私は殺されなければならない筈だった! 」


 ギリッと歯を食いしばって顔を歪めるヘレンを、リュウは首を傾げてため息をつく。


「きっと亡くなった部下さんは、あなたが死んでも報われませんよ 」


「魔族風情に何がわかる! 」


「ええ、わかりません。 でも命の大切さなら、人間族よりもわかっていると思います 」


 柔らかい口調のリュウに、マリアは目を見開いて絶句していた。


「魔王が…… 何を言っているのだ…… 」


「言っている意味がわかりません。 魔王だから命を軽んじる? それは誤解です 」


 ヘレンの口元は震え、目は宙を掻き回すように泳ぐ。


「僕から見れば、残虐非道の行いをしているのは人間族の方です。 権力を振りかざし、力で相手を服従させる…… 」


「黙れ! 」


 ヘレンはガバッと起き上がり、リュウの首を鷲掴みにした。 ヘレンの指先がリュウの首に食い込むが、リュウは全く表情を変えない。


「本当の事を言われて腹が立ちますか?  」


「悪は貴様ら魔族だ! 我々はフェアブールト王の御意志のもとに、このシルヴェスタを良い国にする為に…… 」


「良い国にする為に魔族を迫害するのですか? フェアブールト王に従えば、何でも正義なんですか? 」


 ヘレンは唇を噛みしめ、両手でリュウの首を締め上げる。


「迷っているのでしょう? エンデヴァルドさんと言い合いをしていた時にそう感じました。 だから部下さんの為に…… 自分自身の為に、生きる為の戦いをして下さい 」


「貴様は私に王を裏切れと言うのか!?」


「裏切るのではなく、フェアブールト王の同族として彼らを正して欲しいんです。 あなた(・・・)の目指す、平和なシルヴェスタを僕は見てみたい 」


 屈託のないリュウの笑顔に、ヘレンの両手から力が抜ける。 そのままうずくまってしまったヘレンを、リュウはそっとベッドに寝かせ、撥ね飛ばしたシーツをかけ直してやるのだった。 




  

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