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22話 一騎討ち

 ヘレンは幼い頃に親を蟲によって亡くした孤児だった。 引き取り手は孤児を集めて馬車馬のように働かせる酒場の店主。 ヘレンも例外なく働かされ、露出の多い服を着せられて接客もさせられた。


 ある日ヘレンは勇者一族の接待の時に些細なミスを犯して、店主に身ぐるみを剥がされて捨てられてしまったのだった。 当時その酒場の店主の知名度は高く、町ぐるみでヘレンを追い込んだ。 飢えを満たす為にゴミ箱の残飯を漁り、身を包む物もなく寒さに震え、人目を盗んで馬小屋の隅で眠る。 1ヶ月はどうにかなったが、どうしようもなくなって死をも覚悟した時に、国王フェアブールトの直属の臣下バーグマンに拾われたのだ。


 ヘレンはバーグマンの元で戦闘訓練を受け、メキメキと実力をつけ上達していく。 魔力は乏しく苦手だったが、剣技はバーグマンが目を見張るほどセンスが良かった。


 そんなある日、当時強襲部隊の隊長を務めていたバーグマンが任務中に命を落とす。 ヘレンはバーグマンの恩義に応えようと、後任を務めると決意し、血も滲むような努力の末に強襲部隊の隊長に上り詰めたのだ。



  軍人たるもの、王への忠誠は絶対だ



 バーグマンが口癖のように言っていた言葉は、ヘレンの心に深く刻まれている。 端から見れば刷り込みでしかないが、ヘレンにとっては十分すぎる理由だった。




「お前はそれでいいのかよ? 」


「どういう意味だ? 」


「命令されるがまま動き、不要になれば捨てられる…… 理不尽だと思わないのかってことだ。 そこにお前の意思はあるのかよ? 」


 キッとエンデヴァルドを睨め付け、オークに取り押されられている身をよじりながらヘレンは怒鳴った。


「王の意思は私の意思だ! 王が死ねと仰るなら私は喜んで死ねる! 」


「それがくだらねぇって言うんだ! 喜んで死ねるだと? そもそも命を軽く考えてるフェアブールト自体がくだらねぇ! 」


 ヘレンの怒りが頂点に達し、目を血走らせて必死にもがく。


「魔王の貴様に何が分かる! 」


「魔王もクソも関係あるか! そういやフェアブールトは昔から大人数で弱者をボコるのが趣味だよなぁ! 」


「貴様ぁ!!! 」


 ヘレンは押さえつけていたオークを吹き飛ばし、倒れたオークの腰の長剣を奪い取ってエンデヴァルドに斬りかかった。 


  ガキン


 エンデヴァルドは聖剣エターニアを垂直に立て、首を狙ったヘレンの一撃を受け止める。


「王を侮辱することは許さぬ! 」


「事実だろうが! 種族関係なく邪魔な奴は排除する! どうせオレの魔王討伐を命令したのも、そのクチなんだろ! 」


 ヘレンの剣撃を押し返そうとしたが、小さなリュウの体では払うのが精一杯。 エンデヴァルドは舌打ちし、バック転をして後方に飛んだ。 


「…… 貴様はエンデヴァルドなのか? 魔王なのか? 」


 エンデヴァルドに向かい合いながらヘレンは剣を鞘に納める。 右足を前に出し、居合切りの構えを取ってエンデヴァルドを見据えた。


「前に言っただろう。 魔王エンデヴァルド(・・・・・・・・・)だ 」


 エンデヴァルドはヘレンの問いに答えながら聖剣エターニアを目線と水平に、突きを繰り出すように構える。


「フェアブールトが正義と言うんなら、俺を討って証明してみせろよ 」


「無論だ。 貴様を討ってその首を献上する 」


 息をつく間もなく両者は同時に飛び出した。 ヘレンは自身の必殺とも言える抜刀技『雷斬り』を繰り出す。 目にも止まらぬスピードで抜刀し、相手が気付く前に両断する剣技だ。 エンデヴァルドの右の首筋を狙い、鞘から抜き放ったその時だった。


「なっ!? 」


 エンデヴァルドはヘレンが鞘から剣を抜くより速く懐に飛び込み、ヘレンの剣の柄を踏みつけて抜刀を阻止したのだ。


「遅ぇんだよ! 」


 態勢を崩したヘレンの顎に、エンデヴァルドは容赦なく膝蹴りを入れる。


「があぁ!! 」


 血を吐いて宙に浮いたヘレンの横腹を、エンデヴァルドは体を1回転させ、全力で一閃したのだ。


 ヘレンはくの字になって兵士達の中に突っ込んだ。 ヘレンの体は真っ二つになる筈だったが、エンデヴァルドは剣の腹で払ったのだった。


「フン! 武器に頼りすぎなんだよ 」


 血は付いていないが、エンデヴァルドは剣の露を払って鞘に納める。 吹き飛ばされたヘレンは、なぎ倒した兵士達の膝の上で気絶していた。





「勇者サマも甘くなったんじゃないですか? 歯向かって来たからには真っ二つにするかと思ってましたが 」


 その夜、やっと体を起こせるようになったマリアを囲むように、エンデヴァルド達が集まっていた。


「無駄に殺す必要なんかねぇんだよ 」


「軍人は戦場で散る事が名誉だと言う人もいますが 」


「知ったことか。 せいぜい惨めに生き延びて足掻けばいいだろ 」


 そっぽを向くエンデヴァルドに、マリアは無表情ながらも僅かに微笑む。


「そんなことよりもなんだこれは!? さっさとオレとリュウを元に戻せ! 」


「お気に召しませんか? 若くて可愛い体を手に入れたのに 」


「そんな! 酷すぎますマリアさん! 」


「要らんわこんな軟弱な体! 」


 エンデヴァルドとリュウに詰め寄られるマリアを、セレス達は黙って見守っていた。


「仕方ないですね…… と言いたいところですが、もう元には戻せません。 諦めて下さい 」


「はあ!? 」


「ええ!? 」


 大声を上げて驚く二人に、マリアはニコッと微笑むのだった。





 

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