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21話 それは命令ですか?

 ボロボロの状態で旧魔王城跡地まで追い立てられた強襲部隊は、瓦礫の影に隠れて魔族達から身を隠していた。 100名で編成されていた部隊は、重歩兵2名、魔導士4名、軽騎兵5名にヘレンとジールを加えた113名と壊滅レベルだった。 更に軽騎兵は馬を全てなくし、魔導士に至ってはまともに動けるのが1名だけ。 この状態では、とてもルーツ山脈を越えるのは無理だった。


「私の責任だ…… すまぬ 」


 生き残った部下を前に、ヘレンはマスクを取って頭を下げた。 短く切られた金の髪は、彼女が強襲部隊長を拝命した時に女である事を捨てた証だった。


「隊長の責任ではありません! どうか頭をお上げください! 」


 重歩兵の一人が腫れ物を触るかのようにヘレンをフォローする。 『いや』と頭を下げたまま首を振るヘレンに、部下達は掛ける言葉が見つからない。


「見た目に油断して、相手の力量を図り切れなかった私が悪い。 仮にもあれは魔王、即離脱するべきだった…… 」


「あそこで魔王が一人で出てくるなんて誰も思いません。 それより、今後どうするべきか判断して下さいヘレン様 」


 淡々とした口調で、フードを深く被ったジールがヘレンに問う。


「お前達はこの場に留まり、援軍を待て。 帰還予定日を過ぎても我々が戻らなければ、本軍が動く手筈になっている 」


「…… 隊長はどうされるのです? 」


 ヘレンの不可解な言い回しに、軽騎馬の一人が尋ねた。


「私は…… 刺し違えても魔王を討つ 」


 ジールを除いた全員がその言葉に首を振った。


「あんな化け物に敵う筈がありません! 」


「隊長だけを行かせません! 自分も! 」


 ヘレンはフッと笑って優しく微笑む。


「私一人で行かせてくれ。 お前達を守りながら戦うのは正直キツイのだ 」


「俺は一生、隊長についていくと決めたんだ! 」


「私を盾にして構いません! ですから隊長! 」


 ヘレンが首を横に振っても、部下達は必死に食い下がる。 するとジールがヘレンと部下の間に割り込み、ヘレンの目をじっと見つめた。


「それは命令ですか? 」


「ああ、命令だ 」


 迷うことなく答えたヘレンに、ジールは『了解』と短く答えて背を向けた。


「ジール! 貴様! 」


 魔導士の一人がジールに食ってかかる。 肩を掴んで無理矢理振り向かせ、殴りかかったが呆気なく避けられる。


「何をするんですか。 ヘレン様が命令だと言うんです、それを全うするのが私達軍人の務めでしょう? 」


「お前には隊長のお気持ちが分からんのか!? だから魔族ってのは…… 」


 魔導士の一言に、ジールの目つきが変わった。 ヒュンと風を切った音がしたかと思うと、魔導士の首だけが宙を舞う。 


「確かに私はベアウルフですが、あなた方人間族よりヘレン様に忠誠を誓っていると自負しています。 ヘレン様が私達部下を命を懸けて守ると覚悟を決めたのです…… それすらも分からないあなたは、強襲部隊失格です 」


 ボトッと落ちた生首に向かってジールは語り続ける。


「やめろジール。 任務を果たせ 」


 ヘレンに諫められ、『ハイ』と頭を下げたジールは、その後振り向くことなく瓦礫の隙間に消えていった。


「隊長…… 」


 重歩兵は涙を流しながら跪く。 軽騎兵も重歩兵に倣って膝をつき、ヘレンを見上げた。


「そんな顔をするな…… 死んでいった私の部下達の為にも一矢報いる。 それが隊長としての私の務めだ 」


 ヘレンはそう言うとマスクを被り、部下達を背に歩き出す。 残された部下達は皆、ヘレンの姿が見えなくなるまで胸に手を当てて敬礼するのだった。





「話だと? 」


「はい、この者がどうしても坊ち…… エンデヴァルドと話がしたいと言うものですから 」     


 門番のオークに囲まれてやって来たヘレンは、丸腰になって防具も全て取り払った姿だった。 武器は持っていないと両手を上げてアピールし、魔法は使えないと断言する。


「話はさっき十分した。 オレには用はないからつまみ出せ 」


「坊ちゃんが『オレ』などと…… 」


 リュウの姿で『オレ』と口にするエンデヴァルドにまだ慣れないオーク達は、しょぼくれた顔をしながらヘレンの肩を掴む。 


「魔王! 一騎打ちを申し込む! 」


 ヘレンはオークの手を振り払い、身を乗り出して叫んだ。 その途端、控えていた兵士達が一斉に武器を構える。


「一騎打ち…… だと? 」


「そうだ! 私と貴様だけで勝負しろ! 」


 じっとエンデヴァルドを見据えるヘレンを、エンデヴァルドもまたじっと見据えた。


「お前、さっき大人数で戦って負けたのを忘れたのか? 」

 

「忘れてなどいない! 私が生きて帰れることはまずないだろう…… 私の命と引き換えに、部下の命を守って欲しい 」


 オークに羽交い絞めにされるも、ヘレンは訴えを止めることはなかった。


「帰れ黒ずくめ 」


「帰れぬ! 私には部下の命を守る義務がある! 」


「何が義務だ。 そもそも、部下を救いたきゃお前が守ればいいだけの話じゃねぇか 」


 ヘレンはエンデヴァルドの言葉に肩を震わせる。


「それが出来ればそうしている! 」


「…… 分からねぇな。 オレは逃げた相手を追ってまで始末するつもりはない。 …… お前は何を怖がっている? 言え 」


 ヘレンは血が出るほど唇を噛みしめ、重苦しい声で話し始めた。


「我々に失敗は許されない。 失敗者に待っているのは…… 処分だけだ 」


 ヘレンが重苦しく話す理由は、国王フェアブールトへの忠誠心からだった。





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