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19話 魔王エンデヴァルド

「はは…… こんな力、見た事ねぇ。 マリアが『最強』と言うのも間違っちゃいないな 」


 片膝をついて地面に手を添えていたエンデヴァルドも、目の前で起こったあり得ない現象に呆気に取られていた。


 地面を隆起させたのも、巨大な水の手を作ったのも、全てリュウの体のエンデヴァルドが起こしたもの。 自らの精神力を物質に分け与え、意思を持たない自然界の物質を自在に操る能力を、リュウの体は持っていたのだ。 この能力は、魔王グリザイアの力と同等のもの。 戦争のない生活で魔族の特殊能力が退化する中、リュウは魔王として退化することなくその能力を受け継いでいたのだ。


「こんな凄い力を持ってるなら、お前が出張れば事足りたじゃねぇか 」


「力? 何の事です? 」


 本気で『わからない』顔をするリュウに、エンデヴァルドは開いた口が塞がらない。


「それより…… 殺してませんよね? 」


 エンデヴァルドの逞しい体で、リュウは肩をすぼめて強襲部隊の安否を心配する。


「バカかお前は! オレ達は殺されかけてんだぞ? 敵の心配をしてる場合か! 」


 エンデヴァルドは立ち上がり、強襲部隊の様子を見に隆起した地面をよじ登る。


「皆さん無事ですよね? ね? 」


「見たくねぇなら帰れ! こんなデタラメな力持ってんのに、そんな気弱だからお前はダメダメなんだよ! 」


 エンデヴァルドに怒鳴られたリュウは、ショボンと肩を落として館へと戻っていった。


「さて、生き残ってる奴らは…… 」


 エンデヴァルドは隆起した地面の頂上で、腰に手を当てて水没した通路を見渡す。


「あん? 」


 その中央ではドーム状に展開されたバリアによって守られた10人ほどの強襲部隊が、腰まで水に浸かりながらエンデヴァルドを見上げていた。


「こ…… 子供!? 」


 誰もがその小さな容姿に驚く中、ヘレンとジールは冷や汗を垂らして睨み付けていた。


「聞いたことがあります。 魔王リゲルには孫がいると 」


「ああ…… あの可愛らしい容姿に騙されてはいけないということだな 」


 フンと鼻を鳴らし、強襲部隊を見下ろすエンデヴァルドの手には、体に見合わない大きさの聖剣エターニアが握られていた。


「その剣、エンデヴァルドの物ですね? 君があの反逆者を討ったんですか? 」


 ジールがエンデヴァルドに静かに尋ねると、途端にエンデヴァルドの機嫌が悪くなる。


「早速反逆者呼ばわりかよ? お前らがオレをハメたんだろうが! 」


 ヘレンとジールの頭の上にクエスチョンマークが飛び交う。


「…… 口が悪いお孫さんですね 」


「ああ、クソガキだクソガキ 」


「なんだとコルァ! 」


 地団駄を踏んで悔しがるエンデヴァルドだったが、リュウの体だったことを思い出してガックリと肩を落とした。


「質問に答えろ。 お前がエンデヴァルドを討ったのか? お前は魔王の末裔か? 」


 よく通る声で質問してくるヘレンに、エンデヴァルドは聖剣エターニアを肩に担いで見下した目を向けた。


「そうだなぁ…… 魔王エンデヴァルドとでも言っておこうか 」


 再びヘレンとジールの頭の上にクエスチョンマークが飛び交う。 


「なんだかカッコ良さげな事を言っていますが…… 中二病ですかね? 意味が分かりません 」


「まぁ…… あのクソガキがエンデヴァルドの剣を持っているのだから、討たれたのは本当なのだろう 」


「コソコソ話してるつもりだろうが全部聞こえてるぞコラ! 」


 怒るエンデヴァルドを余所に、ヘレンは『ハァ』と深いため息を吐く。 だが次の瞬間、エンデヴァルドを勢いよく指差し、残った魔導士隊に攻撃命令を出した。


「あのクソガキを焼き払え! 聖剣エターニアを回収するのだ! 」


 魔導士隊はバリアを解き、エンデヴァルドに向けて一斉にファイアブラストを放った。


「クソガキクソガキうるせぇんだよ! 」


 エンデヴァルドが聖剣エターニアを一閃すると、ファイアブラストは燃えることなく全てかき消された。 更に聖剣の軌跡は風を生み出し、爆風となって強襲部隊を襲う。


「「「ぎゃああ!! 」」」


 魔導士隊の黒マントが裂けて鮮血が飛び散る。 鎧を持たない魔導士隊が、爆風の中に生じたかまいたち(・・・・・)によって切り刻まれたのだ。


「なん…… だと…… 」


 ヘレンもまたかまいたちによって傷を負ったが、チェストアーマーやアームガードで受けて傷は浅い。 ジールも運良く重歩兵の盾に守られて無傷だ。


「無茶苦茶です! 魔法をかき消してしまうなどあり得ない! 」


「忘れたかよ? エターニアはあらゆる力を吸収する事が出来るのをよ! 」


 聖剣エターニアを担ぎ直してドヤ顔をするエンデヴァルドに、ジールが血相を変えて叫んだ。


「それは勇者エンデヴァルドだからこそ使えたスキルです! まさか本当に…… 」


「だから魔王エンデヴァルド(・・・・・・・・・)だって言ったろうが。 爆風まで付いてくるとは思わなかったが 」


 言葉を失うジールに、エンデヴァルドはうすら笑っていた。


「…… それこそ無茶苦茶だ。 エンデヴァルドが魔王と同化するなどと…… いや、その姿は魔王がエンデヴァルドを飲み込んだのか…… 」


 魔族が人間族を飲み込んでしまうなんて前代未聞の事。 次々とあり得ない、起こりえない事象を見せつけられ、ヘレンとジールは震えて水面に波紋を作っていた。


「今度は俺の質問に答えてもらおうか。 逃げれると思うなよ? 素振りを見せたら雷撃を水面に落としてやるからな 」


 ゲス顔のエンデヴァルドの言葉に、強襲部隊の誰一人としてその場を動けなくなったのだった。






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