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18話 強襲部隊

 黒色のフルアーマーに盾と槍を装備した重歩兵50人を先頭に、機動力のある軽騎馬が30騎。 その後ろには黒マントの重魔導士20人が隊列を乱さず行進する。


「ヘレン様、血の匂いがします 」


 その隊列の中央の軽騎馬に、黒いチェストアーマーに金の刺繍を施した強襲部隊長のヘレンがいた。


「戦闘か? 」


 フルフェイスマスクから覗く切れ長の目が、馬には乗らず寄り添うように歩く小柄な黒マントのジールに聞き返す。


「極少量ですが、人間族の者かと 」


「…… エンデヴァルドだな。 この場に人間族など奴しかいまい 」


 ヘレンは右手を挙げて隊列を停止させる。


「陣形を取れ! 重歩兵は扇状に展開、騎兵は後衛に回れ。 魔導隊は人影が見えれば撃って構わん 」


 ヘレンの号令に、強襲部隊が素早く戦闘配置についた。


「よろしいのですか? 一般の魔族もいるでしょうに 」


「全てはエンデヴァルドが悪いのだ。 アベイルの町で贄を取り上げ、蟲に人々を襲わせようなどと! 」


 怒りを露にするヘレンに、ジールは俯いて考える素振りを見せ、『失礼ですが』と口にした。


あれ(・・)・・の件は少し疑問が残るところです。 贄の輸送は蟲の脅威を考えて正午に行われるのが通常。 なぜ一昨日に限って夕刻に行われたのでしょう? 」


「我らが知る必要はない。 大方、カーラーンからの囚人の到着が遅れたのだろう 」


「まあ、一理ありますが…… 」


 ジールは再び俯いて考えを巡らせる。


「考えたって仕方あるまい? 我らにとって上からの命令は正義なのだ。 事実、エンデヴァルドは罪を犯した…… 我らの命は反逆者を始末して、その首を持ち帰ることだ 」


 強襲部隊は陣形を維持しながら前進し、やがてオークが守っていた門に辿り着いた。


「隊長、馬車があります 」


 重歩兵の一人が槍で前方を指す。 遠くに見えたのは、横倒しになったセレスの馬車だった。


「どう見る? ジール 」


「魔族に追われたのかもしれません。 一昨日、ルーツ山脈一合目で謎の爆発があった後、アベイルから馬車が走り去った情報もありますし、エンデヴァルドのもので間違いないかと 」


「ふむ…… 出てこいエンデヴァルド! 」


 ヘレンはどこにいるとも分からないエンデヴァルドに叫ぶ。 しかしエンデヴァルドの姿は見当たらず、未だ馬車に繋がれたままの馬だけが必死に起き上がろうともがいていた。


「魔導士隊、あの馬車を焼き払え! 」


 ヘレンの号令に、魔導士隊は両手を構えて一斉にファイアブラストを放った。 手のひらから放たれた火の玉は馬車に命中し、一瞬にして火ダルマにする。


「思う存分焼き払え! 反逆者エンデヴァルドを炙り出すのだ! 」


 魔導士隊は馬車のみならず、道端の木々や草花を次々に焼いていく。 リュウの館まで続く一本道は、あっという間に火の海と化していた。


「この先か…… 重歩兵、前へ! 」


 ヘレンが号令をかけると、道幅いっぱいに広がった重歩兵隊が盾を構えて前進を始める。 まるで鉄の壁が通路を進んでいるかのように、どこから攻撃が来ても跳ね返せる陣形だ。


 焼けて炭と化した馬車を押し退け、ファイアブラストの残り火に臆することなく、強襲部隊は更に通路を進む。


「あれが魔王の館か…… 」


 やがて遠くに見えてきた館に、ヘレンはそのまま前進を命じた。


  ゴゴゴ…… 


 目と鼻の先まで館に近付いたところで、突如強地鳴りが強襲部隊を襲う。


「なんだ? トラップか? 」


 ヘレンは部隊に停止を命じた。 地鳴りは収まらず、違和感を感じたヘレンが後退を命じようとした時だった。


 

  ドン! 



「なっ!? 」


 突然地面が隆起して、重歩兵隊の半数を宙に打ち上げたのだ。 


「うわあぁ! 」


「があぁ!! 」


 重歩兵は10メートル以上も上空に飛ばされ、なす術なく地面に叩きつけられる。 またある者は隆起した鋭利な地面に貫かれて血の海に沈んでいた。


「後退だ! 離脱しろ! 」


 ヘレンは咄嗟に部隊に後退を命じる。 が、今度は後衛の騎馬隊が隆起した地面に襲われた。


「臆するな! 陣形を乱してはならん! 」


 ヘレンが必死が叫ぶも、パニックになった部下達には届かない。 隆起した地面に挟まれる形になった強襲部隊は、そのほとんどが絶望に襲われていた。 


「なんだこれは…… 魔法か!? 」


「大地を操る魔法なんて聞いたことがありません! 」


 ヘレンとジールは、生まれて初めて見るあり得ない光景を、必死に整理しようと大声を出し合う。


 魔法とは、頭の中のイメージを魔力に乗せて具現化するもの。 例えば火の玉だったり、例えば光の矢であったりと、自然界の物質とは根本的に違う要素なのだ。



  ザザザ…… 



「はっ!? 」


 隆起した地面の向こうから聞こえる滝が流れるような音に、ヘレンは息を飲んで頭上を見上げた。 そこには竜巻のように

渦巻いた水柱が何本も立ち上がっていた。 その水柱は左右に首を振りながら強襲部隊の頭上に集まり、収束して巨大な5本指の手を形成していく。


「なんなんだ…… これは…… 」


 唖然と頭上を見上げるヘレン。 左右を通路に阻まれ、前後を隆起した地面で閉じ込められた強襲部隊。


 巨大な水の手は、逃げ場を失った強襲部隊を重力に任せて押し潰したのだった。


 


 


 

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