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16話 入れ替わった勇者と魔王

「魔王の首を差し出せばいいんじゃないですか? 」


 マリアが発した言葉で、隅に待機していた兵士達が一斉に武器を構えた。 エンデヴァルドもマリアを見据え、次第に眉間にしわが寄っていく。


「お前…… 俺にその小僧の首を持って軍に頭を下げれと言ってるのか? 」


 対するマリアは涼しい顔をしていた。


「そうですよ。 国王フェアブールト様があなたに依頼したのは、魔王の討伐だったでしょう? 依頼が遂行されれば、軍がここを狙う理由がなくなるじゃないですか。 まあ、あなたはアベイルでの反逆行動がありますけど 」


 魔王討伐の言葉にその場の空気が凍り付く。 一気に緊迫状態になった場で、マリアは更に言葉を続けた。


「新魔王がリュウ様であることは、フェアブールト様は恐らく把握しているでしょう。 リュウ様の首を取り、遺言として魔族に慈悲をと付け加えれば、この地も守ることもできますよ、きっと 」


「何を言うかこの小娘がぁ! 」


 激怒したのは横になっていたオッタルだった。 杖を振り上げてヨロヨロとマリアに襲い掛かるが、マリアは風魔法を発動させてオッタルを兵士達の列に吹き飛ばした。


「どうします? 人間族の(・・・・)勇者の末裔サマ? 」


 無表情のマリアがエンデヴァルドを見据える。 兵士達はエンデヴァルドの答え如何で、今にも襲い掛かれるよう武器を構える。 何も言えず、固唾を飲んで見守るグラン。


 張りつめて沈黙した玉座の間の赤絨毯の上で、エンデヴァルドが口を開こうとしたその時だった。


「殺して下さい、エンデヴァルドさん 」


 先に沈黙を破ったのはリュウだった。 しっかりとエンデヴァルドの目を見つめ、幼顔には似合わない落ち着いた表情。


「「「リュウ様! 」」」


 誰もが予想しなかった発言に、兵士達もオッタルも、マリアやグランもその場を動けなかった。


「お前…… 正気か? 」


 エンデヴァルドだけがゆっくりとリュウに近付き、正対してリュウを見下ろす。


「僕の命で皆を…… この地を守れるのなら安いものです。 その代わり、必ず皆を守ると約束して下さい 」


 ニコッと笑ったリュウをエンデヴァルドはじっと睨み、そしてゆっくりと目を閉じる。


「約束だ、魔王リュウ 」


 そう言ってエンデヴァルドは聖剣エターニアを鞘から抜いた。


「離れろマリア。 邪魔だ 」


「いえ、ここで見届けます。 リュウ様が下手に逃げると痛い思いをしますから 」


 マリアは相変わらず無表情で、リュウの肩に手を置いたまま離れようとしない。


「この男が逃げると思うか? そんな生半可な覚悟でこの男がさっきの言葉を言ったと思うか? 」


 エンデヴァルドの怒りが頂点に達する。 身体中から威圧感が衝撃波のように噴き出し、リュウとマリアを残して全員が尻込みした。


 時が止まったようにエンデヴァルドとマリアは睨み合い、その膠着を破ったのはマリアだった。 リュウの肩からスッと手を離したマリアは、後ろ足で壁際まで引き下がる。


「小僧じゃなくて、男って呼んでくれましたね。 エンデヴァルドさん 」


「覚悟を決めた男に小僧は失礼だろう 」


 エンデヴァルドは聖剣エターニアを両手に構え、リュウの喉元に切っ先を向けた。 切っ先を向けられたリュウの表情はとても穏やかで、それは何も迷いがない事を意味していた。


「…… 足掻けばいいものを…… 仕方ないですね…… 」


 マリアはトレードマークとも言えるとんがり帽子を脱ぎ、帽子の大きなリボンを引きちぎった。 リボンを解くと、包まれていたのは紫色の水晶。 その水晶を床に思い切り叩き付ける。


「「「!? 」」」


 砕けた水晶は一瞬にして玉座の間を光で包み、一瞬にして消えたのだった。  



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  


 

「なぜオレの目の前にオレがいる!? なぜ小僧がオレでオレが小僧になってる!?」


 「知りませんよ! 僕はあなたに殺されるのを覚悟したんです! それだけです! 」


「お前の策略だろうが! 元に戻せ! オレの体を返せ! 」


「それはこちらのセリフです! どうして僕が悪名高い勇者にならなければならないのですか! 」


 現状を理解しているのは、体が入れ替わってしまった二人のみ。 突然訳の分からない行動を取る二人に、その場の全員がポカンと口を開けていた。


  ドサッ


 その音にその場の全員が振り返る。 力を使い果たしたかのように、マリアが床に倒れたのだった。


「…… せめて悪あがきくらいして下さい、リュウ様 」


 目を閉じ、顔も起こせないマリアは絞り出すようにフフッと笑う。


「マリア! これはお前の仕業かぁ!? 」


 リュウの姿のエンデヴァルドは、倒れたマリアの胸ぐらを掴んで無理矢理引き起こし、可愛いが鬼のような形相で詰め寄った。


「そう…… ですよ。 面白くない結末だったんであなたとリュウ様の精神を入れ替えました 」


「面白くない…… だと!? 」


 怒りを露にするエンデヴァルドは、そのままマリアの襟首を絞め上げた。


「苦し…… お、怒ってる暇があったらセレスを…… 助けに行って下さい。 あなたはもう、最強の魔王なんです…… から 」


「最強…… だと? 」


 マリアはそこで気を失った。 エンデヴァルドはマリアを締め上げるのを止めて、ぐったりしたマリアの顔を覗き込む。


「お前…… この耳…… 」


 今まで帽子を取ることがなく、髪で隠れて見えなかったマリアの耳は、先端が尖った細長いエルフのものだった。


「ダークエルフだったんですね…… 」


 ダークエルフは、絶対相容れることがないとされた人間族と魔族の間に生まれた奇跡の種族だ。 だがその存在は超希少で、誰も姿を見たことはなかったのだった。


「…… なんだってんだ、お前は…… 後でじっくり聞かせてもらうからな 」


 エンデヴァルドはそっとマリアを床に降ろす。 落ちたとんがり帽子を乱暴にマリアの頭に被せてグランを呼んだ。


「おいグラン、マリアはセレスを助けろと言った。 どういうことだ? 」


「は…… はい! 馬車が転倒して大けがを…… 」


 事情を聞いたエンデヴァルドは、グランにマリアを任せて赤絨毯を走り出す。


「え、エンデヴァルドさん! 」


「リュウ! 力を貸せ! 俺の体が必要だ! 」


「は、はい! 」


 兵士達が呆然とする中、リュウの体のエンデヴァルドとエンデヴァルドの体のリュウは館を全力で飛び出していった。



 



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