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14話 背後の脅威

 幾分か整備された道を進むこと数時間。 馬車は大きな石を積み上げて作られた関所の前に辿り着いた。


「ここから先は魔王様のお館だ。 人間風情が何をしに来た? 」


 関所の入口を塞ぐように、優に2メートルを越える大きなオーク族二人が馬車の前に立った。 異変を感じたのか、更に何人ものオーク族が集まって来て馬車を囲む。


 オークはその巨体に、腕の太さはグランやレテの胴回りほどもある怪力の持ち主。 彫りの深い顔つきはわざわざ威嚇しなくても、そこに立つだけで威圧感があった。 


「私達は魔王様に会いに来ました! ここを通して貰えませんか? 」


 荷台から飛び降りたグランは、リーダーらしきオークの前に立って頭を下げた。 レテもまた御者台から飛び降りて、グランに並んで頭を下げる。


「コボルトか? 魔王様は誰ともお会いにならない。 すぐに引き返すがいい 」


「お願いします! 我が主人が是非とも魔王様にお目通り願いたいと…… 」


「くどいぞ。 我らも魔王様にお会いする事は叶わぬのだ、諦めて去れ…… 」


「線香の一本くらい立ててやろうって言ってるんだ、この豚野郎! 」


 バンとドアを蹴り開けて、エンデヴァルドが馬車からオークを睨み付けた。 聖剣エターニアを肩に担ぎ、眉間にしわを寄せてオークの前に立つ。 大柄なエンデヴァルドでも、オークは頭一つ分、体は一回り大きい。 だがエンデヴァルドは臆することなくオークを下から睨め付けた。


「痛い目に合う前にそこをどけ 」


「人間族の脅しなど我には無駄なこと。 貴様こそ痛い目に合わないうちにさっさと尻尾を巻いて去…… ぐはっ!? 」


 言葉が終わらないうちに、エンデヴァルドはデニスの腹にアッパーカットをねじ込んだ。


「線香をあげに来たと言っている 」


 ブクブクと泡を噴きながらオークは地面に崩れていった。


「オークを一撃とか、どんな怪力勇者サマなんですかあなたは 」


 寒い目を向けるマリアだったが、既に杖を掲げて戦闘態勢だ。


「貴様ら! 歯向かえば魔王様に仇なす敵とみなすぞ!? 」


「結構です。 私達は魔王様を討伐する為にここに来たのですから! ライトニングクロウ!! 」


 仲間を一人倒されて憤慨するオークに、マリアは容赦なく電撃魔法を叩きこんだ。 


 一気に3人を倒されたオーク達は、突然の出来事に戸惑いを隠せない。 その隙をついてエンデヴァルドは、鞘に納めたままの聖剣エターニアで残りの3人を叩き伏せる。


「うおおぉぉ!! 」


 一人残ったオークは、エンデヴァルドに向かって腹の中ががえぐられるような雄叫びを上げ、持っていた槍を振りかざした。


「ぶはっ! 」


 突然オークの頭があらぬ方向に曲がる。 オークの顔面には岩がめり込み、白目を剥いてその場に崩れた。 馬車の影からレテがオークに向かって拳大の岩を投げつけたのだ。


「ご…… ごめんなさい! 」


 思いの外クリーンヒットしたことに、レテは口に手を当てて『あわわ』とオドオドしている。


「いいぞレテ、ナイスファイトだ! 」


「ひゅー、レテちゃんやるぅ! 」


 エンデヴァルドとセレスに煽られて、レテは真っ青な顔で更に縮こまってしまった。


「!? まだ来る…… 」


 馬車の中で震えていたエルの耳がピクピク動き、ボソッと呟いたのをセレスは聞き逃さなかった。


「行きましょう。 追手が来てるってエルが言ってるわ 」


 セレスの言葉を聞いたマリアはエンデヴァルドをチラッと見ると、先立ってオークが守っていた門をくぐっていく。 エンデヴァルドもまた、遅れを取るまいと聖剣エターニアを肩に担ぎ直してズカズカとマリアの後を追った。


「耳が良いのね。 さすがワーウルフってところかしら 」


「足音と騒がしい声が聞こえたの。 この先のお館がある方と…… 後ろからも 」


「後ろ? 」


 セレスは幌をめくって、来た道をじっと見つめた。


「…… 一定間隔でトントンと刻む音。 まだ遠いけど 」


 それを聞いたセレスが御者台に飛び移り、馬車の外にいるグランとレテに叫んだ。


「二人とも乗って! 軍がルーツ山脈を越えて追って来てる! 」


 セレスがそう判断したのは、軍は整列して足並みを揃えて行進することを知っていたからだった。


「軍がルーツ山脈を越えるなんてあり得ない! 」


「きっと僕らを本気で始末しにきたんでしょうね。 それほどアベイルでの一件が大きかったのでしょう 」


 『そんなバカな』と、セレスは勢い良く手綱を振る。


「たかだか生贄を一人逃がしただけでしょう? 躍起になって追ってくる程のことじゃないわよ! それにタイミングが良すぎるわ! 」


「もしかしたら…… 僕達は初めから仕組まれていたのではないでしょうか…… 」


 セレスは御者台の隣に乗って考え込むグランをじっと見つめた。 グランもセレスに目線を合わせ、冷や汗を一筋流す。


「勇者様を焚きつけて魔王様を亡きものにし、これを機にユグリア地方を一掃するつもりなのでは? 」


「エバ様を出汁にしたってこと? でもおかしいじゃない! 言っちゃ悪いけど、人間族にはユグリア地方を占拠するメリットがないわ。 土地は痩せているし、魔族がいなければ蟲の巣窟。 魔王様も亡くなられてるし…… 」


 理由を考えてるうちに、セレスはハッと気付いて目を見開いた。


「まさか…… 勇者一族の排除…… 」


「ないとは言えません。 現国王フェアブールトは、勇者一族を嫌っているそうじゃないですか。 そりゃそうです、勇者様を除いて、他は何もしないでふんぞり返っているだけですから 」


「エバ様もあまり変わらないわよ…… 」


 ジト目でグランを見るセレスに、グランは咳払いを一つ。


「と、とにかく! この事を勇者様に伝えましょう! 急いで離脱しないと囲まれて…… 」


 突然メキメキと音を立てて馬車が右に大きく傾いた。


「きゃあぁ!! 」


 峠越えで馬車を酷使しすぎたのか、車輪を支える軸受けが真っ二つに折れてバランスを崩したのだ。 荷重に負けて馬車は派手に横転し、セレス達は地面に投げ出される。 荷台に乗っていたレテとエルは馬車内に閉じ込められて気を失っていた。


「くっ…… こんな時に! 」


「セレス様! 」


 右腕を下にして地面に滑ったセレスは、痛みに負けて起き上がれない。 グランに担がれてやっと起き上がったセレスは、額と右腕から多量の血を流して朦朧としていた。


「私は大丈夫だからエバ様を追って! 」


「ですが! 」


「行きなさいグラン! あの勇者の末裔を失ってはいけないわ! 」


 胸ぐらを引き寄せて必死に訴えるセレスに、グランはスッとセレスから離れて駆け出した。




 


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