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12話 勝手に助かってろよ

「誰がいらねぇって? エル、そいつの所に連れていけ 」


「え? 」


 エンデヴァルドはエルの前に屈んでいたベアウルフを押し退け、その場所にあぐらをかいた。


「誰がお前をいらねぇって言ったんだと聞いてんだ。 言え、教えろ 」


 キスしそうな勢いで迫ってくるエンデヴァルドに、エルは後退りながら首を横に振る。


「キモいわよ、エバ様…… 」


 あぐらをかいたまま器用に移動するエンデヴァルドにセレスは寒い目を向けていた。


「なんだ? もしかしてお前が勝手にそう思ってるのか? 」


 エルは何も答えない。 背中を丸めて目線を背けたその時だった。


  スパーン


 エンデヴァルドがエルの頭をフルスイングで叩いたのだ。 


「ちょっ!? 何をするのよエバ様! 」


「うるせぇ! ちょっと黙ってろ! 」


 普段あまり見せない気迫に、止めようとしたセレスは思わずたじろぐ。


「いらねぇって? 人の命にいるもいらねぇもクソもねぇんだよ! 」


「…… 人間族のあんたになんか私の気持ちなんてわからないわ 」


「わかんねー。 わかりたくもねーな! メシも食わねー、事情も話さねー。 前を見ようともしねぇでいじけてる奴なんざムカつくだけなんだよ! 」


 シンと静まった部屋に二人の争う声だけが響く。


「仕方ないじゃない! 人間には虐げられ、魔族には忌み嫌われ、挙げ句の果てに仲間にも売られた! そのせいで母さんも弟も軍に連れていかれてしまったのよ! 全部私のせいだとかお前が悪いって言われたら…… 」


「人がどうこうじゃねーんだよ! お前はそいつらに文句言ってやったのか? 立ち向かったのか? 」


「出来る訳ないじゃない! あんたみたいに強い訳じゃない! 人間族みたいに魔法が使える訳じゃない! どうすれって言うのよ!? 」


  スパーン  スパパーン


 容赦なくエルの頬をエンデヴァルドの平手打ちが捉える。 大きくバランスを崩してエルは床に吹っ飛び、丸くなって両腕を抱き震えていた。


「力がないとかそんなの関係ねぇ! テメェがどうしたいか、どう生きたいかじゃねぇのか!? 」


 エンデヴァルドはエルの胸ぐらを掴まえて引き寄せた。 鼻と鼻が当たりそうな距離でエンデヴァルドは睨めつける。


 「魔族だろうが人間族だろうが、理不尽な理由で虐げる奴はオレは許さねぇ。 だから…… 」


  スパーン


「「んんん!?? 」」



 今さっきまで寝ていたマリアがエンデヴァルドの後頭部を思いっきり叩いた。 反動でエンデヴァルドとエルの唇が密着する。


「うるさくて寝てられません。 なにをあなたは、か弱い少女に襲いかかってるんですか? 少女がお好みですか? ロリ勇者ですか? 」


「なにしやがる! 貧乳に興味ねぇ!」


「遊廓に通いつめていた男がキスくらいで照れないで下さい 」


「照れるかボケ! ロリ顔には興味ねぇ! 」


「「怒るのはそこじゃないですよ勇者様…… 」」


 ボソッと呟いたグランとレテの声はエンデヴァルドには聞こえていない。


「エル、グランが言ったじゃないですか。 生きる為に、人間や魔族に復讐する為に私達を利用すればいいんです。 利用されたからといってこのメンバーはよほどの事じゃない限りあなたを恨んだりしませんよ 」


 エルは呆然とエンデヴァルドの肩越しにマリアを見つめていた。


「珍しく意見が合うもんだな 」


「うるさいですロリ勇者サマ 」


 『あぁ?』と食ってかかるエンデヴァルドだったが、すぐにエルに向き直って一瞥すると軽くため息を吐く。


「めんどくさいから力は貸さねぇ。 だから上手くオレを利用すればいい。 どうもオレは虐められてる奴を見過ごせねぇクセがあるらしい。 意味はわかるな? 」


 エルの目に涙が浮かぶ。 虐げられ、騙され、裏切られ…… その度に泣き、とうに枯れ果てた筈の涙がエルの頬を伝って床に落ちた。


「たす…… けて…… 」


「聞こえねーな 」 


「助けて…… 下さい! 」


 ボロボロと涙を溢し、グシャグシャの顔で鼻水を流すエルの頭を、エンデヴァルドはワシャワシャと撫でる。


「イヤだね。 オレを利用して勝手に助かってろ犬耳娘 」


  スパーン


「あだっ!! 」


 エンデヴァルドの後頭部を今度はセレスが殴る。


「そこは任せろってカッコつけていいところよエバ様! なんでそこでひねくれるのよ、もう 」


「ロリ勇者サマの次はひねくれ勇者サマですか。 忙しい勇者サマですね 」


「うるせぇ! どっちでもないわ! 」


 エンデヴァルド達のやり取りを黙って見ていたベアウルフ達が笑い出す。


「今時人間族と魔族のパーティーなんて珍しいと思っていたが、本当に面白い連中だなあんたら 」


「あん? なにがだよ 」


「信用しなくていいから利用しろとか、そんなパーティー見たことないぜ 」


「魔王討伐なんて妙な命令受けちゃう人ですからね、この勇者サマは 」


 マリアの一言にピクピクっとベアウルフ達の耳が動いた。 グランとレテは目を見開いて固まり、セレスは頭を抱えて俯く。 


 「魔王様、討伐…… だと? 」


 「旦那ぁ…… あんたらその為に山越えしてきたのか…… 」


 ベアウルフの手がエンデヴァルドの肩に置かれた。 さすがのエンデヴァルドも背筋に緊張が走る。


 「無駄足になっちまったな。 魔王様はもうこの世にはいねぇよ 」





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