エピローグ その2
「お前は良かったのかよ? 」
ゼータの森を進むエンデヴァルドの後ろには、新調したとんがり帽子にブツブツ文句を言いながらついてくるマリアの姿があった。
「貴方一人を余所様の国に放り出すわけにはいきませんから。 『やっぱやめた』といきなりシルヴェスタに戻って来られても迷惑です。 監視ですよ監視 」
『そうかよ』と白々しい目を向ける彼に、彼女はとんがり帽子を見せつけてポージングをしてみせる。
「今まで一切ノーコメントですけど。 服も新調したんですが、『似合う』とかないんですか? 」
「…… 貧乳が何を言ってやがる 」
「…… この場で抹殺してあげます! 」
目の色が金色に輝き始めた彼女を見て、彼はしかめっ面ながらに『悪くねぇ』と呟いた。
「まあ貴方にそんなこと期待してませんけど 」
すぐに機嫌を直した彼女は、ぴょんと彼の隣に追い付いて肩を並べて歩き出す。
「ゼータの森は蟲の巣窟と言われていましたが、前半だけでしたね 」
二人がゼータの森に足を踏み入れた直後には、大グモや大アリの集団に襲われて戦闘になったが、森を進むにつれてその数を減らて今ではほとんど見かけなくなった。
陽は鬱蒼とする木々に阻まれて差し込まず、蟲は徘徊し、瘴気が満ちていて人の侵入を許さない。 そう言われ続けてきたこの大森林は、実際はシルヴェスタ王国側の一部だけだった。 高く伸びた木々が頭上を覆い隠すものの、木漏れ日が地面を照らし、草花が生い茂り、小動物やたまに大型の野生動物が姿を現す。
「オレが思うによ…… 」
エンデヴァルドは前を見たままマリアに話しかけた。
「蟲はシルヴェスタを侵入者から守るガーディアンだったんじゃねぇか? 過去500年…… いや、エルフがいた時代から 、この国は他国から攻められた事がねぇ 」
「…… 言われてみればそうですね、気付きませんでした。 もしかしてエターニアの記憶が流れたんですか? 」
「そうじゃねぇけどよ。 蟲はなんで存在するのか…… どこから生まれてくるのか、ずっと不思議だった。 かつてのエルフらが、外敵からシルヴェスタを守る為に生み出したものってなら納得できるだろ 」
マリアは歩きながら無言でエンデヴァルドを見上げる。
「…… なんだよ? 」
「いえ…… 意外に頭が回るんだなって感心してたんです。 エターニアと同化して頭が良くなったんですか? 」
「うるせぇよ。 元からだ元から! 」
頭の後ろで手を組んで軽く流す彼に、彼女も『そうですか』と笑顔で答える。
「エターニア…… 奴は緑豊かだった頃のシルヴェスタに生きたエルフだったんですね 」
「あん? 」
彼が聞き返すと、彼女は『だって』と返す。
「奴は言ってたじゃないですか。 平和で豊かなシルヴェスタとは、人間族や魔族が誕生する前の事を言っていたんじゃないかなと。 そう思ったんです 」
「『永遠』を意味するエターニアか…… 食えねぇ話だな。 でもあの聖剣の中で生き永らえてきた奴だ、そうかもしれねぇ 」
ふと彼女が俯いて歩くペースが落ちる。 ついには立ち止まり、横にいないことに気付いた彼は振り向いて彼女を待つ。
「…… 人間族と魔族は、本当に共存なんてできるんでしょうか…… 」
「…… 」
「エターニアは自らを剣の中に封印してまでもシルヴェスタの未来を憂い、元のシルヴェスタに戻そうとした。 共存出来ないと悟ったエターニアが見かねて復活を果たしたのであれば、私達はシルヴェスタを救う英雄を葬った事に…… 」
「関係ねぇよ。 元がどうであれ、今はダークエルフをトップとして人間族と魔族が共存を目指そうとする国だ。 奴がやろうとしたのは破壊と殺戮に過ぎねぇ…… 奴の正義は、オレ達には悪だった。 それだけだ 」
マリアはエンデヴァルドの目をじっと見つめて寂しげに笑う。
「ああもう! めんどくせぇ奴だな! 」
「きゃう!? 」
彼は彼女を米俵のように担ぎ上げてズカズカと歩き始める。
「ちょっ! 私は荷物じゃありません! 」
「英雄だとか勇者だとか、もうどうでもいいんだよ! それよりこの先、未知の国でどうやって生きていくかだ! 」
肩でバタバタと暴れる彼女を軽々と押さえつけ、獣道をどんどん進む。 その時だった。
「きゃあぁ!! 」
森の奥から響いてきた女性の悲鳴。 彼はその悲鳴に向かって即座に走り出す。
「バカですか貴方は! 状況も把握してない隣国で突っ込んで行くなんて! 」
「うるせぇ! 悲鳴を聞いてほっとけるか! 」
草むらを猛スピードで駆けるエンデヴァルドの肩でマリアは呆れたため息を一つ。 だがその表情は穏やかで笑顔だった。
「まぁ…… それが貴方らしい生き方ですけど 」
「気に食わねぇ奴はぶっ飛ばす! それだけだ! 」
見えてきた悲鳴を上げる本人と、それを取り囲む野犬の群れ。 エンデヴァルドは容赦なくマリアを上空に放り投げて使い慣れない背中の大振りの剣を抜く。
「お得意のをぶちかませマリア! 」
「言われなくてもそのつもりです! 」
隣国イゼルガーナで、勇者の末裔とダークエルフの少女が舞う。 彼らの旅はまだまだ終わらない。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。 シルヴェスタ王国を出て隣国イゼルガーナに向かったエンデヴァルドとマリアですが、第二部があるとかないとか……
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異世界モノの世界観を伝えるのって難しいですね。 詳しく書こうとするとクドくなってしまい、飽きられそうで怖いのです(汗) かといって端的にすると情景も何もない。 どうでしょう? イメージは沸きますでしょうか?
これからも異世界モノは続けていくつもりです。 もしよろしければ、過去作に目を通して頂けるとテンション上がります(切実)
今後ともお付き合いよろしくお願いします。