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エピローグ その1

「国王陛下、オルゲニスタの村長が謁見を求めていますが 」


「また? 昨日も来てたじゃない…… 」


 セレスは執務室で、山積みの書類に埋もれるように頬杖をつく。


 人間族の王政が崩壊して半年。 セレスはシルヴェスタ国王として、日々頭を悩ませ忙しく走り回っていた。 とはいえ、初の女王でありダークエルフの彼女への国民の批判は絶えない。


 そこでルイスベルとリュウがそれぞれ人間族と魔族の代表として立ち、その下に各方面軍隊長が付き従う形でなんとか混乱を押さえ込んでいる。


「無下にも出来ないか…… わかったわ、今日の予定の最後に入れておいて 」


 彼女が国政に掲げたのは『勇者一族の過ちを清算し、両族は平等に』というものだ。 誰一人として種族によって差別をされない国を作る為、出来るだけ民意に耳を傾けるよう謁見を続けている。 


「御意。 マメですね、嫌なら顔を合わせなければいいだけの事ですよ? 貴女はシルヴェスタ国王なのですから 」


 付き人を買って出たのはファーウェルだった。 グラスコードのついた細長い眼鏡をかけ、いかにもデキる秘書イメージを作り出している。


「ダメよ。 それでなくでも私の信頼は薄いのだから、面倒な奴でも聞く姿勢は見せないと 」


「頑張るのもいいけど、ほどほどにね。 貴女が倒れてしまったらエンデヴァルドに怒られてしまうわ 」


「倒れやしないわ…… あの人と約束したんだもの 」


 セレスは書類にサインをしながらファーウェルに答える。 ふと彼女の手が止まった。


「…… 今頃はゼータの森を抜けたかしら…… 」


 セレスの国王としての初の仕事は、エンデヴァルドを国民の前で処刑することだった。 国を傾けた最後の勇者一族を処刑することで過去の王政を断ち切り、国王としての威厳と、両族を公平に扱うというアピールをしたのだった。 


 即席の処刑台でゲッペルによって胸を貫かれて倒れたエンデヴァルドだったが、セレスのエナジードレインを取り込んだ彼は死ぬことはなかった。


 世間的には処刑されたエンデヴァルドは、ユグリアで半年間の療養した後、セレスの手引きで秘密裏にゼータの森へ送り、国外へと出すことにしたのだ。


「彼を手放して良かったのですか? 王城に匿う事も出来たでしょうに 」


「あの腐れ勇者を狭い王城に閉じ込めておくなんて不可能よ。 それに彼は、私が道を踏み外せば必ず殺しに来るでしょうし 」


 セレスはペンを置いて大きく伸びをする。

 

「一息入れませんか? 」


 女王専属のメイドになったレティシアが、タイミング良くセレスにフレーバーティーセットを持ってきた。 ガラスのボトルには花や果実が入っていて、目の前で湯が注がれて爽やかな香りが室内を満たす。


「ありがとうレティシア 」


 二人は受け取ったティーカップを口をつけ、同時にホッと息を吐き出す。 この追放劇を知っているのは極少数で、女王専属のメイドになったレティシアもそれを知る一人だ。


「彼なら心配ないかと。 逞しい方ですもの 」


 レティシアはトレイを胸に抱えて微笑む。


「ファーウェル、あなたは良かったの? 血の繋がった弟なんでしょう? 」


「私ですか? 私は彼と契約…… いえ、『生きて力を貸せ』と言われたのです。 それは彼と同行することでなく、自分の代わりに女王を補佐しろと理解していますから 」


 そうセレスに説明して、彼女は執務室のドアへと目を向ける。 ドアに忍び寄り、音もなくノブに手をかけると、勢い良く内側に開いた。


「うわぁ!? 」


 グラン、レテ、エルの3人が折り重なって執務室に倒れ込んできた。 ファーウェルは微かな足音で聞き耳を立てる3人に気付いたのだ。


「…… 何をしているの? 」


「あ…… ビックリさせようかなと思いまして…… 」


 苦笑いになる三人に、セレスとファーウェルはため息をひとつ。 暇なく執務に追われているせれすの様子を見に、城下町から出向いてきたのだった。


「そうだセレスさん! モニュメントの手直しをしたいと鍛冶組合の職人たちが話をしてましたよ 」


「手直し? 」


 かつて後宮があった場所には、ユグリアに建てたモニュメントと同様の物が作られた。 人間族と魔族の想いが一つの国を支えるデザインに、職人たちが更なる装飾を施したいと言うのだ。


「そう…… 想いは届いているのかしら…… 」


 フワッと微笑むセレスに三人は笑顔を向ける。


「ええ、僕はそう信じています。 きっとあのモニュメントはカーラーンとユグリアだけでなく、各地に建てられて平和の象徴になるんじゃないでしょうか 」


「それいいねお兄ちゃん! 」


「いつになく冴えてるねグラン 」


 頭を掻いて恥ずかしがるグランに、レテとエルが元気に笑う。


「それならいっそ、モニュメントを紋章にしてみたらどうだ? 勇者の紋章をいつまでも国旗にしておくわけにもいくまい 」


 出先から戻り、途中から会話を聞いていたルイスベルとリュウが執務室に顔を覗かせた。


「素晴らしいですね、そうしましょうセレスさん! エンデヴァルドさんもビックリしますよ! 」


「…… デザインなんて出来ないわよ、私 」


「それならカナイに依頼してみてはどうですか? 風景画がとても上手だったのを拝見しています 」


 リュウ達に続いてシュテーリアも会話に入ってきた。 王城の巡回中、執務室が賑やかだったのを見て気になって来たと言う。


「話してみるわ。 あーあ…… 皆の顔を見たら仕事したくなくなっちゃったわ! テラスでお茶にしましょう! 」


 セレスはペンをデスクに放り投げると、レティシアに全員分の用意をするよう頼んでテラスへと駆けていく。


「んー…… いい天気ね。 ユグリアのワインが飲みたくなるわ 」


 セレスは晴れ渡った青空を仰ぎ見て一言。 一同に笑みが零れる。 


 まだまだ平和とは程遠いが、勇者エターニアが引き起こした人間族と魔族の因縁の時代は終わりを告げた。 一時の両族の良好な関係よりも、更に良好な関係を築けるよう、彼女達は奮闘するのだろう。


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