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123話 決着

 エンデヴァルドの指先がピクッと動いた瞬間、彼はセレスの首を鷲掴みにして締め上げた。


「かはっ!? エ…… バ…… 」


 ミシミシと音を立ててセレスの首が悲鳴を上げる。 呼吸も血液の流れも遮断された彼女は真っ青になりながらも、涙目でエンデヴァルドを見つめていた。


「エンデヴァルドさん! 何を!? 」


 予想もしていなかったエンデヴァルドの動きに、リュウは初動が遅れて蹴り飛ばされた。


「ご苦労。 よくぞ復活させてくれた 」


 見開いたエンデヴァルドの目の色は両目とも金色だった。 留結晶に精神を吸い込まれたのはエンデヴァルドの方だったのだ。


「エンデヴァルドを愛し、エナジードレインを持つ貴様なら、こうするであろうと予測は出来た 」


 クククと笑うエターニアは、意識朦朧とするセレスの首を更に締め上げ、引き寄せて彼女の耳たぶに噛み付いた。


「ああぁ! 」


 ブチブチと音を立てて耳たぶは裂かれ、エターニアはその血をゴクリと喉に通す。


「我の血肉になることを光栄に思え! 貴様はフローレンと同様、回復要員として飼ってやる 」


 そういい放ち、エターニアはセレスをリュウ目掛けて投げ付けた。 リュウはセレスを受け止めるが、勢いを殺せず背中から岩壁にぶつかった。


「なるほど…… この蘇生能力は素晴らしい! フローレンが500年もの間沼で生き長らえたのも頷ける 」


 エターニアは口の血を拭い、絶句している隊長らに目線を向ける。 胸と腹の傷はエナジードレインによって黒いモヤを上げながら蘇生していく。


「なんという非常識な…… 」


「エナジードレインをも飲み込むのかよ! 」


 驚くタウルースやゲッペルを他所に、エターニアはリュウに抱えられたセレスに近づいていく。


「馴れ合いだけの貴様らの行動など至極読みやすい。 我を留結晶に閉じ込め、封印しようなどと甘いのだ 」


 超蘇生能力を手に入れたエターニアは、勝利を確信しているかのように口元をつり上げながらゆっくりと歩を進める。 その威圧感に、リュウはセレスを抱き寄せてドラゴニクスを構えた。 


「セレスさん…… 彼はもう…… 」


「エターニアでしょうね。 でも心配ないわ 」


 明らかに雰囲気の違うエンデヴァルドに、リュウは諦めの言葉を口にするが、セレスの目は絶望に染まってはいない。


「…… 何が可笑しい? 」


 エターニアを見据えるセレスが微笑む。 何を狙っているのかとエターニアが踏み留まったその時だった。 彼を中心に紫の光が辺りを覆い尽くしたのだ。


「甘いのはあなたですエターニア! 」


 エターニアの背後にはより大きな紫の光に包まれたマリアが、左手をエターニアに真っ直ぐ向けて立っていた。 彼女の右手は、足元の留結晶の短剣に向けられていた。


「!? まさか! 」


「そのまさかです! 『アンリミテッドムーヴ』なら強制的にあなたと彼を入れ替えられる! 」


 目を見開いて驚くエターニアは、ハッと気付いてニヤリと笑った。 


「フッ! 膨大な魔力を必要とする秘術を、今の貴様に発動できるものか! 」


 クルリと向きを変え、エターニアはマリアに向かって飛びかかる。


「させません! 」


「なにっ!? 」


 一瞬のうちにエターニアの頭上に飛んだリュウが彼を背中から叩き伏せる。


「今ですマリアさん! 」


 エターニアをうつ伏せに押さえ込んだリュウが叫ぶ。


「無駄だ! 奴自身の生命力を使ったとしても、補助具なしであの秘術を発動できる筈がない! 」


 『発動できない』と豪語するその言葉とは裏腹にエターニアは焦っていた。 リュウを力任せに撥ね飛ばし、なおもマリアに襲い掛かる。


「そうですね、その通りです。 ですが私は一人じゃない! 」


 彼女の体がより強く輝く。 彼女を中心にルイスベルやシュテーリア、マルクスが正三角形に囲み、三角錐の結界を張って魔力を頂点に集めたのだ。 三人の隊長の魔力が集中した頂点は炎を中心に冷気を渦巻き、稲光を纏う。


「放てマリア! 」


「ダークエルフの秘術を見せてもらうよ! 」


「臨界点です! いきなさい! 」


 渾身の力で拳を突き出すエターニアは、もうマリアの目と鼻の先。 殴られればひとたまりもない一撃に臆することなく、マリアは三人の檄に吠えた。


「アンリテッド・ムーヴ! 」




 

 音をもかき消すほどの紫色の閃光を発してアンリミテッド・ムーヴは発動された。 目を閉じても目が眩む光に誰もが顔を覆い、残像に苦しみながらも一人、また一人と目を開けて状況を確認する。


 そこには地面に倒れて抱き合うエンデヴァルドとマリアの姿があった。 アンリミテッド・ムーヴがエターニアとエンデヴァルドの精神を入れ替えた瞬間に、エンデヴァルドはマリアを押し倒して覆い被さったのだった。


「…… 」


 エンデヴァルドは鼻と鼻が触れる距離で、うつろな目をマリアに向ける。


「…… 勇者サマ、ですよね? 」


 右目だけが金色のエンデヴァルドの頬に両手を添えながら、マリアは不安な目で彼を見つめた。


「まったく…… 死に損なったじゃねぇか貧乳魔導士め 」


 マリアは引きつるような微笑みをした彼の頬を力いっぱいつねる。


「過去の勇者なんかに体を乗っ取られて、なんてザマですか 」


 そう言うとマリアはエンデヴァルドの首に手を回してギュッと抱き付いた。


「おかえりなさい、勇者サマ…… 」


「悪かったな、助かった 」


 エンデヴァルドもまた彼女に覆い被さったまま腰に手を回して抱き寄せる。 ようやく視界が戻ってきたルイスベルやシュテーリアは、二人の様子にようやく肩の力を抜いた。


「エンデヴァルドさん! 」


 リュウは耳から流血しているセレスを抱えながら走り寄ってきた。


「よぉリュウ、お前の一撃はヤバかったぜ 」


「何を言ってるんです! 直前で胴をさらけ出して、真っ二つになったらどうするつもりだったんですか! 」


「真っ二つになるつもりだったんだよ。 エターニアを葬るにはそれしかなかった 」


「それしかって…… 」


 エンデヴァルドはキッとリュウを睨みつけてんで黙らせる。 彼にとって自分の生死はどうでもよく、顔半分を血に染めたセレスに文句を言いたかったのだ。


「セレスお前なぁ! オレを助けようと飛び出してくるんじゃね…… !? 」


  バチン


 頬を打つ乾いた音。 セレスはフルスイングでエンデヴァルドを平手打ちしたのだ。


「おいっ! 痛ぇじゃ…… !! 」


  バチン 


 返す手の甲でもう一度振り抜く。 エンデヴァルドが顔を向ける度に、彼女は彼の頬をひっぱたいた。 その腕が三往復してやっと止まる。


「セレス…… 」


「…… 私が化け物化したら殺してやるって言ったじゃない。 先に死のうだなんて許さないわ 」


 彼女頬を大粒の涙が流れる。


「どうして一人で行動するの? どうして一人で抱え込んでしまうの? 私と貴方の関係ってその程度!? 」


 凛として見下ろしていた彼女の表情は徐々に崩れ、口を歪め眉間にしわを寄せて歯を食いしばる。


「勇者のケツは勇者が拭かなきゃならねぇんだよ。 泣くんじゃねぇ…… お前は国王としての使命を果たせよ 」


 セレスは目を見開いてエンデヴァルドを見つめ、やがて俯いて肩を震わせた。


「そうね…… 貴方は勇者一族だもの、この国には必要ないわ。 誰かこの人を拘束して 」


「セレス…… !? 」


 セレスの見限った言葉にマリアが怒って歯向かおうとしたが、エンデヴァルドはマリアを腕で制止した。 彼はセレスが自分を罰することで、注目する兵士達に彼女の威厳を見せつけたかったのだ。

  

「…… それでいい。 だがその前に一つやることが残ってる 」


 彼はマリアの肩を借りながら立ち上がり、鮮やかに赤く光る留結晶の短剣に寄った。 心臓の鼓動のように光を増減させる短剣を見下ろし、彼はその直上に手をかざして光魔法の槍を作り出す。


「終わりだエターニア 」


  やめろ…… ヤメロォ!!


 手首を捻って振り下ろされた光の槍は、留結晶の短剣の中心を貫いて粉々に砕いたのだった。

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