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122話 剣で語れ!

 エンデヴァルドを取り囲む5人の隊長と魔王。 収まってくる砂埃の中から、エンデヴァルドは彼らをぐるっと見渡す。


「無駄な抵抗は止めて投降しろ、エンデヴァルド。 いや、エターニアと言うべきか? 」


 ルイスベルの援護にまわっていたいたタウルースがエンデヴァルドに警告すると、ゲッペルが『ガハハ』と豪快に笑う。


「エターニアだと? 勇者エターニアを名乗るほど頭がイかれたか? 腐れ勇者! 」


 それにつられてマルクスも小さく笑ったが、ルイスベルやシュテーリアの緊迫した表情を見て口をつぐんだ。


「マジかよ…… 魔王と同化したんだから不思議じゃねぇが。 よりによって伝説の勇者とはな 」


 ゲッペルはドンとアイギスの盾を地面に突き立てて完全防御の構えを取る。 それに合わせてマルクスもいつでも電撃魔法を放てるよう身構えた。


「くく…… 我を恐れるか? まあ無理もない…… お前達6人掛かりでも我を倒せるか微妙なところだ 」


 エンデヴァルドは転がっていた槍を拾い上げ、魔力を付与して光を纏わせる。 投降する気はないと感じ取った彼らが戦闘態勢を取った時だった。


「もう止めてくださいエンデヴァルドさん! 」


 一触即発の空気を破ったのはリュウだった。 彼はドラゴニクスを鞘に納め、一歩、また一歩とエンデヴァルドと距離を縮めていく。 


「命乞いか? 魔王の末裔 」


「僕の名前を呼ぶことくらいできるでしょ? エターニアさんのフリをしたって、僕の目はごまかせませんよエンデヴァルドさん 」


 踏み込んで突けば届くくらいの間合い。 リュウはそこで立ち止まり、真剣な目で彼を見つめた。


「エンデヴァルドはもういない。 我はエターニア…… この国の行く末を担うものなり 」


「いいえ、あなたは間違いなくエンデヴァルドさんです。 語尾がおかしいですし、言葉の使い方を間違えてますよ 」


 ニコッと笑うリュウにエンデヴァルドは舌打ちを一つ。 ルイスベル達はリュウの言葉にどちらを信じればいいのか訳がわからなくなっていた。


「ならばその剣で語れ! その剣で真実を見極めればいいだろう? 」


「そのつもりです。 そうエンデヴァルドさんに教えてもらったのですから! 」


 リュウは荒々しく地面を蹴る。 かつてエンデヴァルドがやったように、イメージグローブで周囲の地面を隆起させて岩の壁を作り出したのだ。


「誰にも邪魔はさせません。 いきます! 」


「フッ…… 来いリュウ!! 」


 リュウは深く沈み込んだと同時に抜刀し、対するエンデヴァルドは光の槍をリュウの眉間目掛けて繰り出した。 剣と槍がぶつかりあう瞬間、エンデヴァルドがふわっと微笑む。


「!? 」


 リュウはその一瞬を見逃さなかった。 エンデヴァルドは槍の狙いを外し、腹を晒して『白龍の審判』を受けようとしたのだ。 だがリュウは、全力で振り抜いた一閃を止められない。


  約束は果たしたぜ、スレンダン……


 エンデヴァルドは目を閉じて最後の一撃を待つ。 ドラゴニクスの刃がエンデヴァルドを捉えたその時だった。


  冗談ではない!


 エンデヴァルドは目を見開き、ドラゴニクスが触れた一点に魔力を集中させて受け止めた。 息を潜めていたエターニアが体を乗っ取り支配したのだ。


「ぐおおっ!! 」


 渾身の魔力で白龍の審判を耐えたエターニアだったが、その威力を完全には防ぎ切れずに腹を裂かれ、血を撒き散らしながら岩壁に激突する。


「がああっ!! 」


 岩壁を突き崩し、クレーターから転がり出たエターニアはゴロゴロと地面を転がる。


「エンデヴァルド、貴様がこうするだろうと予想はしていた。 だが甘かったな…… 我は貴様が全てを投げ出すのを待っていたのだ! 」


 深手を負った腹を押さえながらエターニアは不気味に笑う。 心の奥底にエターニアの存在を感じていたエンデヴァルドが、死を確信して気を許した一瞬を突かれたのだった。


「ようやくこの体が手に入った…… もう焦る必要はない 」


 エターニアは傷の状態と戦況が不利と判断して、この場から撤退しようと後ろに飛び退いた時だった。


「うっ!? 」


 ズンと体の中心に響く衝撃。 痛みを感じる間もなく、深紅の刀身のナイフが胸の中央から飛び出ていた。 気配を消したファーウェルが音もなく忍び寄り、体当たりをするようにエターニアを背後から貫いたのだ。


「逃がしませんよ、エターニア 」


 ゴフッと血を吐いたエターニアは、上体を捻ってファーウェルの横顔に肘を入れる。 もんどり打って吹っ飛んだファーウェルは気を失い、城壁に激突する寸前でセレスに抱き止められた。


「おのれ! 出来損ないのエルフが! 」


 エターニアはその場に膝をつき、短剣を抜こうともがく。 が、背中の中心に突き立てられた短剣には手が届かず、傷口から滲む血は短剣に吸い取られていく。


「ぐおおっ!! まさか留結晶か!? 」


「その通りよ! 未完成の留結晶はあなたの血で完成するのよ! そのまま精神をも吸い取られて永遠の眠りにつきなさい! 」


 ファーウェルを抱きながらセレスはエターニアを見据える。 彼女達は完成すると脆くなる留結晶の特性を考えて、敢えて完成直前の状態で留め置いていたのだった。


「悪しきダークエルフが! そのような小細工、我には…… ぐああぁ!! 」


 エターニアは胸を押さえてもがき苦しむ。 胸から突き出た短剣を強引に抜こうと刃先を握るが、背中から突き立てられた短剣は抜ける筈がない。


「うおおぁ!!  」


 天を仰ぎ、両腕を広げてエターニアは魔力を体中から放出させながら吠えた。 その咆哮はビリビリと空気を震わせ、その場の全員を硬直させるほど恐ろしく、その咆哮に応えるように留結晶は輝きを増す。


「がああぁ…… 」


 見開かれた目は金色と黒色が交互に入れ替わる。 エンデヴァルドとエターニアが精神でせめぎ合っているのだ。



  オレと共に果てろペテン勇者がぁ!


  ぬかせ! 果てるのは貴様だけだ腐れ勇者!



「…… おお…… あ…… 」


 やがて咆哮は途絶え、エターニアは顔からうつ伏せに倒れ込んだ。 その拍子に留結晶の短剣は抜け落ち地面に転がった。


「エバ様!! 」


 セレスは抱えていたファーウェルを放り投げてエンデヴァルドに駆け寄る。 大きな体格のエンデヴァルドを抱き上げようとするが血糊で何度も手を滑らせ、やっと仰向けに寝かせて覗き込む。


「エバ様! エバ様!! 」


 エンデヴァルドは目を閉じたままピクリとも動かず、抜け落ちた短剣の傷口から溢れる血はみるみるうちに地面を染めていく。 胸に耳を当てて彼の心臓が動いていないことに気付いた彼女は、すぐに唇を噛み切り、唇を重ねて彼の口に流し込んだ。


「セレスさん! 」


 リュウを先頭に、各隊長もセレスの周りに集まってくる。 彼女は周りに目もくれず一心不乱に唇を重ね、エンデヴァルドに自らの血を流し込む。


「エンデヴァルドさん…… 剣で語れと言ったのにどうして…… 」


 リュウが止めを刺したわけではないが、彼は彼女の横にへたり込んで涙を浮かべる。


「大丈夫、エバ様は必ず帰ってくるわ! 」


 腫れて血が出にくくなった唇を諦め、親指の母子球を噛み切って口に含み、再びエンデヴァルドに口移ししようとしたその時だった。

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