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11話 退路

 予定通り、エンデヴァルト一行は夜中のうちに8合目ベースキャンプを出発していた。 馬車の四隅に松明をくくりつけ、前方から襲ってくる蟲をエンデヴァルドが薙ぎ払って道を開き、側面後方からの襲撃をマリアの魔法で蹴散らす。 10合目までは崖をジグザグに上っていく岩場で、足場も徐々に狭くなっていく。 馬車がすれ違えないほどの道を塞ぐように沸いていたムカデに、エンデヴァルドは苦戦していたが、マリアの風魔法で切り刻みエンデヴァルドが崖下に蹴落として道を切り開いた。


 下りに入って馬車のスピードが上がる。 岩壁を切り崩して崖に沿うように作られた山道は狭く、脱輪すれば暗闇に覆われた崖下に真っ逆さまに落ちてしまう。 セレスは巧みに手綱を操り、壁を這うように馬車を走らせた。 


「伏せて下さい! ゲイルストライク! 」


 突然マリアが叫び声を上げて馬車の屋根に飛び乗った。 右手を前に突き出し、風の魔法を岩壁の反対側に向けて連射する。


  パァン  パパァン


 マリアが放った風魔法に撃ち抜かれ、弾けた閃光が辺り一面を眩しく照らした。


 「しまった! ライティングアローですか! 」


 馬がその光に驚いて止まってしまう。 立ち上がって嘶いた馬によって馬車はバックしてしまい、片輪が路外に外れて底を地面に打ち付け、身動きが取れなくなってしまう。


「嘘っ! もう追い付いてきたの!? 」


 弾けた照明魔法が消えて辺りは再び暗闇に包まれる。 奈落のような崖を挟んだ木々の間には松明の灯りが見え隠れし、その数はどんどん増えていく。 それは軍がすぐそこまで到着していることを意味していた。


「なんてことを! 蟲を呼び寄せてしまいますよ! 」


 グランが真っ青な顔で叫ぶ。


「グラン、レテ! 馬車を立て直して! 逃げるわよ! 」


 セレスもまた青い顔で額に汗を浮かべ、パニックを起こしている馬を必死になだめていた。


「仕方ないですね…… 」


 マリアは馬車の屋根から飛び降り、一人下ってきた道を引き返し始める。 と、エンデヴァルドがマリアの襟首を捕まえて、馬車の荷台にポイっと放り込んだ。


「乙女は荷物じゃないですよ。 痛いじゃないですか  」

 

「マリア、こいつらを連れて先に行け。 足止めならオレがする 」


 エンデヴァルドは口をへの字に曲げ、フンと鼻息を鳴らしてズカズカ歩いていく。


「何カッコつけてるんですか。 あなた一人で足止め出来る数じゃないと思いますが? 」


「うるせぇよ。 女を盾にして逃げるほどオレはおめでたくはねぇんだよ 」


 マリアは、ガニ股で肩を怒らせながら聖剣エターニアを担いで歩いていくエンデヴァルドと、馬車の脱輪を懸命に直そうとしているグラン達を見比べ、フウとため息をつく。


「消耗が激しいので、残り少ない体力ではあまり使いたくはないんですが 」


 荷台から飛び降りたマリアは両手を胸の前に掲げてブツブツと詠唱を始めた。


「マリア? 」


「エル・バースト! 」


 マリアの前に出現した魔方陣から次々に光の玉が飛び出す。 松明の灯りが見える林に吸い込まれていった光の玉は、一拍遅れてけたたましい爆発を起こした。


  チュドーン  チュドドドーン


 噴煙を上げ、宙に吹き飛ばされる木々。 その中に兵士の悲鳴や怒声が混じる。


「何してくれてんだポンコツ魔導師! 」


 慌てて戻ってきたエンデヴァルドがマリアに掴みかかる。 


「何って、爆裂魔法ですが? 」


「バカかお前は! 帰り道までブッ飛ばしやがって! 」


「これが一番手っ取り早いですから。 まだ魔王様のお屋敷に行く前からもう逃げ道の心配ですか? 」


 そんな押し問答をしている間にも、向かいの噴煙の中から二人を狙って反撃の光の矢が降ってくる。


「あぶねっ! セレス! 馬車を出せ! すぐに追い付く! 」


 脱輪から復帰したセレスはエンデヴアルドに大きく頷いてすぐに馬車を走らせた。 エンデヴァルドは光の矢をヒョイヒョイとかわしながらマリアを引き寄せる。


「そうじゃねぇ! って、おい…… どうした? 」


 マリアは真っ青な顔でフラフラっとその場に崩れ落ちていく。 爆裂魔法はその威力に比例して体内のマナを消耗する。 それを連発したのだから、マリアはマナを使い果たしてヘバってしまったのだ。


「大丈夫です、すぐ回復しますから。 先に行っててくだひゃ! 」


 エンデヴァルドは軽々とマリアを抱き上げ、先にこの場を離脱した馬車を追いかけた。


「少し休めば自分で歩けます。 先に…… 」


「いいから黙ってろ! っていうか、帰り道どーすんだよ!? 」


「本気であなたを捕らえるなら、軍なら道を作ってでも追ってくるでしょう。 道がなければ私が作りますよ…… ていうか降ろして下さい。 恥ずかしいです 」


 お姫様抱っこされているマリアは少し顔を赤らめてエンデヴァルドをじっと見ていた。


「この状況で置いていくなんて出来るか! いいから大人しく担がれてろ! 」


「…… お尻触らないで下さい 」


「触ってねーよ! ベルトポーチだ、ポーチ! 」


「次触ったら即、メテオで瞬殺します。 即メテです 」


「だから触ってねーって言ってんだろ! 」


 文句を言われながらもエンデヴァルドはマリアを降ろそうとはせず、マリアもまた文句を言いながらも大人しくエンデヴァルドに身を任せていた。






 軍の襲撃から逃れた一行は、夜明け頃にルーツ山脈最後の5合目ベースキャンプに辿り着いた。 グランの言う通り6合目辺りを境に蟲の襲撃は激減し、辿り着いた5合目ベースキャンプには犬耳の魔族が常駐していた。 エンデヴァルドやセレスの姿を見た犬耳の魔族ベアウルフは、最初こそ警戒していたが、グランとレテの説得でキャンプ内の一角を使う事を承諾し、作り置きのスープを出してくれる。

  

「もしかしたらご迷惑をかけるかもしれません 」


「長居はしないんだろ? 君達の姿がなければ、軍だって無理に俺らを捕らえよう思わないだろうさ 」


 スープ皿を受け取ったグランとレテとは軽く会釈を交わし、セレスがやんわりと微笑むとベアウルフ達は真っ赤な顔をしていた。


「嬢ちゃん、食べるかい? 」


 ベアウルフの一人はエルに声をかけていた。 エルはスープ皿とベアウルフの顔を見比べる。


「嬢ちゃんじゃ夜中の山越えはキツかったろ? よく越えられたな 」


「え? 」


 ポカンと口を開けたのはベアウルフの方だった。 『どういうことだ?』とエンデヴァルドはベアウルフの一人に訪ねる。

 

 「俺ら魔族は蟲を遠ざけるが、ワーウルフはちょっと特殊でな…… 蟲を集める気配を持つんだ。 旦那達は相当蟲に出くわしたんじゃないかい? 」


 「山道はあんなもんだと気にしなかったが? 」


 再びベアウルフはポカンと口を開け、こりゃ参ったと豪快に笑った。


 「スゲェな。 わんさか湧いてくる蟲をものともしないなんざ、旦那達はタダ者じゃねぇ。 まぁそれはおいといて…… ワーウルフの気配は蟲を呼ぶ。 周りに大勢の魔族がいりゃ、ワーウルフの気配も掻き消されて気にする必要はねぇんだが、魔族排除の風習があるこのご時世ははそれが難しい。 よって人間ども…… っといけねぇ、人間族達が真っ先に標的にしたのがワーウルフだ 」


 「………… 」


 エンデヴァルド達は一斉にエルを見た。


 「ワーウルフは単独では生きられねぇ。 個人差もあるが、非力で体力もなく、他の魔族に混じって守られながら生きるしか術がねえんだ 」


 「…… やっぱりいらない子だったんだ…… アタシ 」


 エルがボソッと呟いた。 俯き、どこを見るともなく一点を見つめる。 誰もが沈黙する中、ガンと椅子を蹴り飛ばしたのはエンデヴァルドだった。


 

 



 

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