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118話 エターニアの行方

「エンデヴァルドさん! 」


 エンデヴァルドの横に急降下したリュウは、まだ熱を持っているえぐれた地面から彼を引き起こした。 右手は焼けただれ、肩と腹部は真っ赤に染まっている。


「勇者サマ! 勇者サマ!! 」


 彼の顔を両手で包み、必死に呼びかけるマリアの目には涙が滲んでいた。 回復魔法は使えないが、少しでも何かの足しになればと手のひらに僅かに残った魔力を込める。


「う…… あ…… 」


 エンデヴァルドの顔が歪むと、二人はハッと息を呑んだ。


「エンデヴァルドさん、リュウです! わかりますか? 」


「…… お…… う。 よおイケメン、元気か? 」


 傷だらけの顔でにやりとする彼に、リュウは苦笑いを向ける。 するととマリアは彼の両頬を挟み、無理矢理自分の方に向けて目線を合わせた。 その目には憎しみとも取れる殺気が籠っている。


「へへ…… やっぱお前の爆裂魔法は強烈だな…… 」


「まさか0距離でエル・バーストを撃ったんですか? バカですかあなたは! 」


 マリアはグイッと彼の頬を強くつねる。


「一朝一夕で撃てるものじゃありません! 私だって何回も死に目にあって、あれを撃てるのに何年かかったと思ってるんです!? これだから魔力初心者は…… 」


「そうも言ってられなかったんだよ 」


 エンデヴァルドはマリアの頭にポンと手を乗せる。 子供扱いするなとはねのけるところだが、マリアは涙を浮かべて大人しく受け入れていた。


「無茶しないって言ったばかりじゃないですか…… 私はこんなに側にいるんです。 頼ってくれてもいいじゃないですか…… 」


 頬に温かいものが零れ落ちる。 彼女の目に殺気はもうなくなっていた。


「泣くなよ、貧乳魔導士 」


「泣いてません。 汗と涙の違いもわからないんですか腐れロリ勇者 」


 罵り合うも二人は笑顔だ。


「エンデヴァルドさん、相手は誰だったんですか? 」


 二人のやり取りをあたたかく見守っていたリュウは、周りを見回して尋ねる。


「エターニアだ 」


「「えっ? 」」


 思いもしない人物の名前に、二人は戸惑いを隠せない。


「エターニアって…… 剣のですか? 」


「ああ、奴はあの聖剣の中で生きてやがった。 今まで封印を解く為に力を溜め込み、ヴェクスターを乗っ取って復活しやがったんだよ 」


「剣の中って…… 乗っ取ったって、まさか…… 」


 青ざめたマリアにエンデヴァルドは頷く。


「純血かどうかは知らねぇが、エターニアはエルフだ。 ヴェクスターを乗っ取ったのも多分『アンリミテッド・ムーヴ』だろ。 魔力も半端じゃねぇ…… ヴェクスターの体に慣れてたら恐らく勝てなかった。いや、勝てたかどうかもわからん…… 」


「それじゃエターニアさんは…… 」


 リュウは目をこらして辺りを見回す。


「ヴェクスターの体は爆裂魔法で溶けて蒸発したのは間違いねぇ 」


 ふう…… とリュウは肩の力を抜いたが、マリアは青ざめたままエンデヴァルドをじっと見つめていた。


「…… まさかとは思いますが…… 違うと言ってください勇者サマ! 」


 『勝てたかもわからない』という含んだ言葉に、マリアは眉を八の字にして声を荒げた。 エンデヴァルドは静かに首を横に振る。


「オレを殺せ、マリア 」


 彼はマリアに、初めてかもしれない優しい笑顔を向けた。 リュウは目を丸くして驚き、マリアは依然としてじっと彼を見つめる。


「なぜあなたを殺さなきゃならないんです?! 」


「…… 『アンリミテッド・ムーヴ』ですか? でも勇者サマ、あなたの精神はこの体に存在してるんです。 二つの精神が一つの肉体に収まるのはあり得ま…… !? 」


 マリアの表情が凍り付く。 片側だけだったエンデヴァルドの金色の目が、今は両目ともくすんだ光のない黄色に変化していたのだ。


「いつの間に本覚醒なんてしたんですか…… 」


 エンデヴァルドは『へへ……』と力なく笑った。


「あ…… あり得ません。 あなたはちゃんとここにいます! 」


「気付いてるんだろうが? 可能性は低いが、あの状況で逃げ込める場所はオレの中しかねぇ。 奴はこの国の人間族も魔族も、全てを滅ぼそうとしている。 やるなら今しかねえんだ 」


 冗談で言っている訳ではないと二人もすぐにわかった。 だが二人には現実離れした事象を飲み込めない。


「体の自由がきかねぇんだよ…… 」


「怪我のせいです。 治療すればちゃんと動きます 」


「時間がねぇんだ。 いい子だから言うことを聞いてくれ 」


「なんで時間がないんですか! その目が色を取り戻したら乗っ取られてしまうとでも言いたいんですか!? 」


 エンデヴァルドはマリアのとんがり帽子を取り、銀色のしなやかな髪をワシャワシャと撫で始めた。


「出会った頃のお前はオレをリゲルに捧げる贄としか見ていなかっただろ。 リゲルの(かたき)だと思って、お前の十八番(おはこ)をぶっ放せよ 」


「今その話を持ってくるんですか。 そうですか…… やはりあなたは腐ってます! 」


 白けた目を向けて彼から離れたマリアは、大きく息を吸って両腕を水平に広げる。 次の瞬間、かれの両頬を叩き潰すように両側からビンタを叩き込んだのだ。 そのまま痛がる彼を押さえ込み、目と鼻の先に引き寄せる。


「何が『殺せ』ですか! できるわけないじゃないですか! バカですか? バカですよね! バカだと言ってください! 」


 顔を歪めてボロボロと涙を溢すマリアを、エンデヴァルドはただじっと見つめる。


「こんなに惚れさせておいて…… 責任取って下さい。 エターニアになんか負けないで下さい。 私の大好きな腐れ勇者サマは、頭悪くて世間知らずで口が…… 」


「わかったわかった! 」


「ふぎゅっ!? 」


 エンデヴァルドは面倒くさそうにマリアを強引に胸に埋めた。


「おいリュウ、すまねぇがセレスを呼んで来てくれねぇか? 」


「えっ? いいですけど、離れて大丈夫ですか? 」


「少しの間こいつと二人にしてくれって言ってんだ! 」


 エンデヴァルドはイライラしながらリュウをシッシッと追い払う。 『そういう事ですか』と苦笑いしたリュウは、一気に上空に舞い上がってエレン方面へと向かっていった。


「んじゃ、責任を取ってやる 」


 エンデヴァルドは左手でマリアの腰を引き寄せ、顔を近付けてきた。


「ち…… ちょっと待って下さい! バカですか! こんないきなり…… 」


 早速キスを迫る彼にマリアは腕を突っ張らせて抵抗するが、やがて力を抜いて唇を重ねた。


 ー 聞こえるか? マリア ー


「んふっ!? 」


 彼女の頭に直接響くエンデヴァルドの声。 彼女は驚いて唇を重ねたまま吹き出す。


 ー なんなんですか! 何もこんな時にテレパスを…… ー


 ー これならエターニアには聞こえないと思ってな ー


 マリアは目を見開いてエンデヴァルドから唇を離す。


「じゃあ本当にあなたの言う通り…… ふぐっ! 」


 エンデヴァルドは彼女の頭に手を回し、強引に彼女の唇を塞いだ。


 ー うまく言えねぇが、気持ちの中に違和感たっぷりなんだよ。 恐らく奴は、オレの中に巣食ってやがる…… 両目が変化したのもそのせいだろ ー


 ー 歯が当たりました。 痛いです。 もっと優しくキス出来ないんですか? ー


「んふぅ!! 」


 エンデヴァルドはキスをしたまま眉間にシワを寄せ、鼻で大きなため息を一つ。 力を抜き、今度は優しく頭を撫でながら濃厚なキスをした。


「んは…… あ…… 」


「これで満足か? 」


「…… バカですか? ん…… いちいち聞かないで下さい 」


 くたっととろけてしまったマリアは、時折ピクッと体を震わせながら潤んだ目で彼を睨み付ける。 今度は彼女の方から唇を重ねてきた。


 ー それで? 何か策があるんですか? ー


 ー ああ。 まあ聞け…… うまく行けばエターニアも倒せるし、シルヴェスタも救えるかもしれねぇ ー


 エンデヴァルドとマリアはぽっかりとえぐれた大地の真ん中で抱き合いながら、テレパスで会話を続けるのだった。


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