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117話 これから始まったんだよ!

 地面にうつ伏せに倒れたエンデヴァルドは、貫かれた腹を押さえて呻く。 腹の中心を貫いたと思われた光の槍は、直前で体を捻って横腹をえぐっていた。


「まだ本調子とは言えんが、この体も悪くない 」


 エターニアは這いつくばっているエンデヴァルドの頭を踏みつけ、勝利の余韻に浸っている。


「俺に敵うと思ったか? かつて魔王を討ち取ったこの俺に 」


「うる…… せぇよ…… 」


 エンデヴァルドは力を振り絞ってエターニアの足首を捕まえたが、エターニアはその手を氷の矢で地面に縫い付けた。


「あぐっ!! 」


「もう一度問う。 俺と共に、愚族共を殲滅しようではないか。 若しくは本覚醒し、俺にその体を明け渡せ 」


「どっちもお断りだ。 調子に乗るんじゃねぇぞペテン勇者! てめぇはオレがぶっ潰してやる! 」


「強がるな腐れ勇者、その体ではもう何もできまい。 本当に惜しい…… その体があれば、かつての力以上のものを発揮できたものを…… 」


 エターニアは炎で槍を作り上げる。 顔を踏みつけていた足を避け、頭を串刺しにしようとしたその時だった。 足を離さなかったエンデヴァルドの手から、エターニアの足首が凍り始めたのだ。


「…… 悪あがきを……」


「オレをナメるなよエターニア! 」


 そう叫んだ瞬間、エンデヴァルドだけが氷に包まれる。それは以前シュテーリアがフェアブールトの自爆から彼を守った氷魔法のバリアだった。


「なにっ!? 」


 エターニアは足首に集中する魔力を感じて振りほどこうとするが、エンデヴァルドはがっちり握って離さない。


「貴様!? 自爆する気か! 」


「うるせぇよ! オレの旅はこれから始まったんだよ! これで終わりも悪くねぇ! 見様見真似だから手加減は出来ねぇからな! 」


 エンデヴァルドは握った手の中にありったけの魔力を全力集中させる。


「エル・バーストォ!! 」


「ぬおぉ! 貴様ぁ! 」


 加減を知らない爆裂魔法は両者を飲みこみ、爆風はカーラーン王城の城壁や木々を根本から吹き飛ばす。 半径数十メートルにも及ぶ爆発は範囲内の全てを消滅させ、噴煙がキノコ状に立ち上ったのだった。




 吹き飛んだ城壁の破片はカーラーンの城下町に降り注ぎ、民家の屋根を押し潰し壁を突き崩す。 夜も明けきらない早朝に突然起きた災害のような出来事に、城下町の人々はパニックだった。


「人々の避難誘導にあたって! 」


 人々の悲鳴を聞いてすぐに動いたのはカナイとウェルスだった。 彼女ら『ジ・ハーデリア』は王城の地下牢にトンネルを開通させ、下からの奇襲をかけていた最中だったのだ。


「俺達はどうする? 」


「僕達はエンデヴァルドに加勢する。 城内を制圧して、ヴェクスターの背後を取ろう! 」


 大広間を占拠しようと戦闘を繰り広げているこの場を同志達に任せ、二人は精鋭十数人を引き連れて王の間を目指して階段を駆け上がる。


「あ…… 」


 ウェルスを先頭に襲ってくる兵士らを蹴散らし、謁見の間に出たカナイが見たものは、衛兵達に囲まれて背中を合わせているマリアとファーウェルだった。


「あら、遅刻ですよカナイ 」


 呑気な言葉をかけるファーウェルだったが、倒しても増え続ける衛兵に疲れきっていた。 マリアも同様で魔力も底をつき、肩で息をしている。


「妙に衛兵が少ないと思ったら…… 」


 呆れ顔を向けるカナイ。 ウェルスはすぐに彼女達を取り囲む衛兵に突っ込み、同志と共にその輪を切り崩しにかかった。


「エンデヴァルドは? 」


「後宮の方でバカやってます。 何ですか今の爆発! 」


「ああ…… 多分彼の仕業だね。 それでヴェクスターは? 」


 マリアが首を傾げると、ファーウェルが衛兵の首を貫きながら答える。


「エンデヴァルドと戦闘になったのかもしれません。 気になります…… ここを任せていいですか? 」


「僕も行くよ。 王城を破壊するだけでなく、人々にも被害を出すなんて聞いてないからね。 文句を言わないと 」


 その時、二度目の爆発が起きて城が僅かに揺れた。 爆発音は後宮とは真逆の方向からで、マリア達は急いで窓辺に走る。 戦闘中だった衛兵やレジスタンス達も手を止めて、埃が落ちてくる城の天井を見上げていた。


「「「ぎゃあぁ!! 」」」


「「「うわあぁ! 」」」


 中庭で吹き飛ぶ衛兵達の真ん中には、ドラゴニクスを振り抜いたリュウの姿があった。 彼はエレンの防衛をルイスベルに任せて、一人ヴェクスターを追ってメゾットの転送ゲートを潜ってきたのだ。  


 爆発は『白龍の審判』であり、数十人の男が宙を舞う。 それを援護するように、城から飛び出したレジスタンス達が追撃をかける。


「あっ! マリアさん! 」


 城の窓辺にマリアを見つけたリュウは、背中の翼を大きく広げて風を呼び、崩れたままのテラスに降り立つ。


「無事ですね! 良かった! 」


 ギュッと肩を抱いてくるリュウに頬を染めるマリア。 彼女はリゲルの姿をリュウに重ねていた。


「エンデヴァルドさんは? 」


「こ…… 後宮の方でバカやってます。 何度このセリフを言わせるんですか! 」


 キョトンとするリュウに、ファーウェルが一礼して現状を端的に伝えた。


「僕はヴェクスターさんを追って来ました。 ということは、エンデヴァルドさんは彼と戦ったっぽいですね 」


 すぐに飛び立とうとするリュウの裾をマリアが握った。


「うん? 」


「私も連れて行って下さい! 」


 リュウは顔色が悪く、疲れた様子のマリアをじっと見る。 彼女の訴えるような真剣な目に、リュウは優しく微笑む。


「わかりました。 誘導して下さい、僕はカーラーン城は初めてなんです 」


「まったく…… 単身で乗り込んでくる無謀な所、リゲル様にそっくりです 」


 苦笑いしたリュウはマリアをお姫様抱っこすると、ゆっくりと大空に舞う。 晴れてきた噴煙に目を向けると、リュウは目をしかめた。


「なんだか嫌な気配を感じます…… 」


 マリアもまたその気配に気付いたようで、片手で押さえていたとんがり帽子を深く被る。


「あっ! 」


 やがて見えてきた湯気が上がる爆心地には、うつ伏せに倒れているエンデヴァルドの姿だけがあった。

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