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102話 防衛ライン

「次弾装填用意! 急いで! 」


 リセリアはレンゼクリスタルが散りばめられたライフル銃を構えながら、魔導剣士隊の部下達に檄を飛ばす。 部下達はその銃から伸びたケーブルに接続されたクリスタルに、列を作って順に魔力を込めていく。 彼女が抱えているのは、スレンダンが開発した『魔導砲』だ。 あらゆる属性の魔力を取り込み、それを4つの細工を施されたクリスタルで増幅し、銃口から発射する。


「リセリア、決して人体には当てるな! 我々の目的は殺戮ではない! 」


「分かってます! 」


 彼女の背中を支えて指示を出すのはルイスベルだ。 魔導砲は発射の反動がすさまじく、彼女一人では支えきれない為、彼が撃つ度に吹っ飛ぶ彼女を受け止めていた。


「そ… 装填完了! 」


 全力で魔力を注入し、真っ青な顔で汗だくになりながら部下が叫ぶ。 リセリアがトリガー代わりのクリスタルに魔力をこめると、魔導砲は火を噴いて一直線に地面をえぐっていく。 逃げ惑う兵士達の手前で止まった軌跡は、大爆発を起こして周囲を吹き飛ばしたのだった。


「次弾装填! 」


「た… 隊長! これ以上は…… 」


 彼女の部下達は既に疲弊しきっている。


「ここで抑えないとなだれ込まれるの! 今、この兵器を扱えるのはあたし達魔導剣士だけ! みんな頑張って! 」


 彼女も疲れていないわけではない。 トリガーを引くのに膨大な魔力を必要とする為、彼女も一発撃つごとに疲弊していた。


「あたしだってキツイ! アンタ達はあたしの自慢の部下でしょ! 北方面魔導剣士隊としての意地を見せなさい! 」


「「「おおおぁ!! 」」」


 彼女の檄に、部下達は体を支え合って奮起するのだった。


「いつでも撃てる準備をしておけ。 少し時間を稼ぐ 」


 ルイスベルはそう言い残して、リセリアの元を離れた。


「上手く足止めになってくれたかしら…… 」


 大広間で待機していたセレスが、ルイスベルの姿を見つけて駆け寄る。


「相手の被害は? 」


「それほではないだろう。 後は貴女の交渉次第だが…… 本当に良かったのか? 」


 ホッと胸を撫で下ろしていたセレスが、彼の問いに首を傾げる。


「あれほどの兵器を借り受けたのだ。 ヴェクスター自ら出陣しているこの機に、奴を討ってしまった方がよかったのではないか? ということだ 」


「力でねじ伏せては、彼とやっていることは変わらないもの。 国が間違っていたと民が考えるようにならなければ、誰が国王になっても変わりはしない。 それをこのエレンから始めたいの 」


「…… そうだったな 」


 フワッと微笑むセレスの側には、モーリスやジールも控えていた。 セレス達は昨日、このスレンダンの屋敷の前で、エレンの民に向けて演説を行っていたのだ。


 魔族を虐げ、人間族を欺き、欲の為に国を動かした悪は勇者一族なのだと。





 ルイスベルは軍としてではなく、一人の人間族として民衆に『話を聞いてくれ』と呼びかけた。 名声も信頼もある彼に導かれて集まった民衆の前で、セレスは自分がダークエルフだと打ち明けたのだ。 驚く人々は彼女の言葉には耳を貸さず、時折罵声も飛び交う。 彼女が諦めようとしたその時、背中を押したのはジールとルイスベルだった。


  この子の母親が何故死んだのか、貴様らは真相を知っているのか!? 


 ジールはルクスを抱き、セレスと並んで訴えたのだ。 魔族というだけで理不尽な扱われ方。 人間族に対する憤り、悲しみ。 全ての者がそうなのかと問うと、『違う』と意義を立てたのはフェイという人間族の女性だった。


「セレス! 」


「フェイ! あなたずっと行方不明で…… 」


 セレスとフェイは宮廷踊り子の時の仲間だった。 ビュゼルの屋敷から助け出されて以来、二人はお互いの生死も確認できていなかったのだ。


「彼に勧められるがまま、ずっとこのエレンにいたわよ。 あなたこそ行方知れずだったのに 」


「彼って…… 」


「エンデヴァルド。 エリもサーラも、彼に従って元気でやっているわ 」


 フェイはウインクで締めくくり、壇上のセレスの前に正対した。


「まさかダークエルフだったなんてね…… どうして言ってくれなかったの? 」


「ごめんなさい…… どうしても言い出せなくて 」


 『馬鹿ね』とフェイは彼女を強く抱きしめた。


「少しは信用してほしいわ。 あの頃から私達は仲間…… ダークエルフだろうと、あなたはあなたなんだから 」


 思わぬ再会と優しい言葉に、セレスの目に涙が滲む。


「みんな! この子は亡き国王に代わって、この歪んだ国をかつての平和な国に導いてくれる! 種族なんて気にしない、賑やかなあの頃のシルヴェスタを取り戻そうと戦ってるの! 」


 セレスを抱きしめながらフェイは壇上からそう訴える。 ザワザワと騒々しくなる民衆からは、やがて拍手が沸き起こった。


「あなた、それをどこで…… 」


「ふふーん、実はわたしも『ジ・ハーデリア』の一員だったりして 」


 得意気な顔をするフェイに、セレスは驚きを隠せない。


「じゃあカナイからの返事は…… 」


「ええ。 あなたを次期国王として、全力でサポートすることが決定したわ 」


「え…… あ…… ここでそんな話をしていいの? 」


 『ダイジョブダイジョブ』と、フェイの反応は軽い。


「ビュゼルがいない今、ここは宰相様の領地も同然。 それに北方面軍がバックにいるんだもの 」


 フェイは横に並ぶルイスベルにウインクを飛ばす。 彼もまたセレスの肩に手を添えて、強く頷いた。


「エレンの民に宣言するといい。 必ずあの頃のシルヴェスタを取り戻すと 」


 ジールもセレスに強く頷く。 腕の中のルクスもまた、セレスの顔を見てキャッキャと笑っていた。 四人の後押しを受けて、セレスは民衆に向き直る。 口を開きかけたその時、諜報部のラウリーが馬に乗ったまま民衆を掻き分けて来たのだった。


「こちらに向けて中央軍が進軍中です! 恐らくここが目標かと! 明朝にはここまで来ると予想されます! 」


 セレスは『ご苦労様』とラウリーを労い、再び民衆に向き直った。


「ここで軍を迎え撃ちます。 残念だけど、ここは戦場となる…… でもあなた方は私が必ず守ります! ベルナローズまで避難してください! 」


 セレスの宣言に、北方面軍が敬礼して動き出す。 彼らが従うのならと、民衆も素直に避難誘導に従ったのだった。


    

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