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101話 黒龍と白龍

 スレンダンによってウェルシーダに無事到着したリュウとヘレン。 フー深く被っていたとはいえ、エンデヴァルドの姿のリュウは流石に目立ち過ぎた。 早速西方面軍に追われ、フリューゲルの工房に立て籠ることになっていた。


「ごめんなさい、大騒ぎになってしまいました…… 」


「もう聞き飽きた! 大人しくそこに座って待っとれ! 」


 つるピカ頭にたっぷりとあごひげを蓄えたドワーフ族のフリューゲルは、外を見る度に頭を下げるリュウを窯を見ながら叱りつける。


「礼儀正しいのは認めるがな、その優男っぷりはガラハールにそっくりじゃ 」


 彼は焼きを入れていたドラゴニクスの刀身を一度取り出して見つめ、再び窯に戻して(ふいご)を煽る。


「残念ながら父の記憶は僕にはありませんが…… 喜んでいいのか悪いのか、困りますね 」 小さな体にムキムキ筋肉の彼は、苦笑いで丸椅子に腰かけるリュウを横目で見つめる。


「誉めとりゃせん。 奴は儂の最高傑作を使おうともせんかった。  この剣がここまでボロになったのも奴のせいじゃ! 」


「えっ? 」


 首を傾げるリュウを他所に、彼は鞴の手を止めて窯の炎の様子に目を向ける。 その表情は、決して怒っている訳ではなかった。


「この剣は、主の精力を吸って刀身を維持する。 魔力のないリゲル専用に、儂がそう仕立てたのじゃ。 それがガラハールに渡り、長い年月を精力が吸えない状態で放置されていたのじゃから当然、『黒龍の審判(イディオン)』になど耐えられる筈がない 」


 フリューゲルは再び刀身を取り出して、真っ赤になったドラゴニクスの状態を確かめる。 頃合いと判断した彼は、愛用の鎚で刀身を叩き始めた。


「…… 鍛冶屋冥利に尽きるな。 見事に破壊されたものじゃが、粉々にならず原形を維持出来たのはお前さんのおかげじゃろう 」


 カン、カン、と響く鎚の音に、リュウは耳を傾ける。


「どうでしょう…… 僕が何をしたわけではありませんから 」


 じっとリュウに寄り添っていたヘレンが、彼の背中に声をかけた。


「あの時、リュウ様は皆を守りたい一心でドラゴニクスを振られました。 その想いが、粉々になる筈だった刀身を繋ぎ止めていたのではありませんか? 」


「そういうことじゃ。 さすが儂が認めた剣士じゃな! わかっておる 」


 鎚を振るうフリューゲルから笑顔が溢れる。 刀身を水平に持ち、刃の修正をしたフリューゲルは、まだ熱を帯びているドラゴニクスをリュウに差し出した。


「ほれ、仕上げじゃ。 お前さんの真なる想いを、こいつに吹き込むのじゃ 」


「真なる? 」


 受け取らずに刀身を見つめる彼に、フリューゲルは武骨な顔で笑顔を作る。


「なぁに、何の為にコイツを振るのか願うだけでいい。 今まではリゲル専用じゃったが、お前さんの想いを吹き込むことでお前さん専用になる 」


「願い…… ですか。 それじゃあ 」


 リュウはドラゴニクスを受け取り、刀身を見つめて目を閉じる。 


「僕は、皆を守りたい…… 」


 呟いた言葉に反応するように、ドラゴニクスは焼かれた鈍色から真っ白な刀身へと変化していく。


「ほぉ…… 黒龍から白龍か。 リゲルの黒い刀身にも驚かされたが、これも見事じゃの。 満足じゃ! 」


 ガハハと豪快に笑うフリューゲルを前に、リュウは純白の刀身を見つめていた。


「これが僕専用…… 」


「リュウ様の心の表れですね。 白の刀身は、私も初めて拝見しました 」


「えっ! いや! 僕の心はこんなに綺麗じゃありませんよ! 」


「ほれ! 見とれてないでソイツで外の連中を蹴散らしてこい! お前さんの想いが強ければ強いほど、ソイツは応えてくれる。 イディオンでもなんでも試し撃ちしてこい 」


 鞘に丁寧に納めたリュウは、『はい!』と笑顔になって工房を飛び出した。 すぐに後を追おうとしたヘレンを、フリューゲルは彼女の愛剣をスッと奪って制する。


「なっ!? 何をされるのです! 」


「お前さんのこれもメンテナンスが必要じゃろ 」


「こんな時に何を言うのです! メンテナンスなど後でも…… 」


「メンテナンスをバカにするでない! それに、あやつ一人で十分じゃ。 任せればよい 」


 そう言ってフリューゲルが剣の状態を確認した途端、工房の外からけたたましい爆発が起きた。 呆気に取られるヘレンと、クツクツ笑うフリューゲル。 工房の外では、早速リュウが放つ『白龍の審判(イディオン)』に、西方面軍の兵士達は吹き飛ばされていたのだった。




 ウェルシーダでリュウが西方面軍を蹴散らした事は、すぐにヴェクスターに報告された。 ホセの村周辺にいた筈のエンデヴァルドが、遠く離れたウェルシーダに出現した情報は、中央軍をパニックにする。 その誤報の原因は、兵士達が姿だけで判断し、リュウをエンデヴァルドだと思い込んでいたことにある。


 転送ゲートが使用不可の今、ヴェクスターはスレンダンの仕業だと断定して、自ら軍を率いてエレンへと出陣した。 ルイスベル率いる北方面軍は離反。 東方面軍はカーラーンに向けて進軍中であるものの、到着にはまだ時間がかかり、西方面軍は両隊長負傷で統率が取れない。 シュテーリアにおいては未だに行方不明で、兵士達の間では先の王城での爆発で死亡したのではないかと噂されていた。


「逆賊スレンダンの屋敷を包囲せよ! 」


 エレンの町の手前で、ヴェクスターは総勢3000名の兵に命令を下す。 呼応した兵士達がエレンに突入した途端、弓矢と魔法攻撃が先頭の騎馬兵を襲ったのだ。


「重歩兵隊、前へ! 」


 魔法防御を付与された重歩兵の壁は、矢や魔法攻撃をものともせず突き進み、家屋を破壊しながら北方面軍を追い詰めていく。


「おかしい…… 」


 無理に抵抗しようとはせず、徐々にスレンダンの屋敷に後退行く北方面軍の動きに、ヴェクスターは進軍を止めさせる。


「どうされました? こちらが優勢でありますが…… 」


 側に寄ってきた部隊長が彼に問う。


「民衆が一人もいない。 もっと逃げ惑い、困難を極めると思っていたが…… 誘われているのか? 」


 その時だった。 林の奥から閃光が見えたかと思うと、前衛の重歩兵をかすめて扇状に軌跡を残す。 次の瞬間、その閃光の軌跡は爆発して轟炎を上げたのだ。 重歩兵には直撃しなかったが、爆風をまき散らして兵士達は吹き飛ばされる。


「全軍後退! その光には決して触れるな! 瞬時に蒸発するぞ! 」


 ヴェクスターは声を張り上げて命令を出す。 が、左右に展開していた騎馬兵には届かず、爆風にさらされながらも進軍を止めない。


「退け! 退けー!! 」


 冷や汗を浮かべて彼が叫んだ瞬間、二発目が林の奥から発射された。 スレンダンの屋敷を中心として、今度は半円状に軌跡を描いて爆発する。 地面をえぐり、家屋を吹き飛ばし、射線上のものは跡形もなく消えていた。 その奥には、屋敷の上で巨大なライフル銃のようなものを構えるリセリアが、ヴェクスターに照準を合わせていたのだった。

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