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100話 その昔。

 その昔。 人間族と魔族の大戦が起こる更に前の事。


 シルヴェスタにはエルフという種族のみがこの地に住んでいた。 西は広大な海が広がり、南はゼータの樹海が他の者の侵入を拒む。 彼らはこの地を闇雲に開拓しようとせず、自然と共正して生活していた種族。 彼らには自然を操る力があり、草木を愛し、空や大地や海の恵みに感謝している現れだった。


 種族のリーダー的な存在はいたものの、王などの権力者は存在せず、国としての機能はなさない。 そんなシルヴェスタの地に、どこからか少数の手負いのドラゴニュートという種族が紛れ込んだ。


 エルフ達はその者を手厚く迎え、傷が癒えた後、シルヴェスタの外へと送り返そうとした。 が、ドラゴニュート達はシルヴェスタにいさせて欲しいと懇願する。 彼らは祖国を滅ぼされ、命からがら逃げて来たのだった。


 事情を知ったエルフ達は無理には追い出さず、彼らを受け入れる。 ドラゴニュート達はエルフの生活に倣って暮らし、やがて両者の間に子供が出来た。



 それから数百年…… 200人ほどだったエルフ族の数は、ドラゴニュート族との混血を含めて10000人を越える程になる。 少人数だったからこそ保てていたエルフ達の暮らしは困窮し、やがて村や町を作って統率者が現れた。 この村や町の統率者が、後の人間族と魔族の祖先になる。




 エルフとドラゴニュートの子孫らは、その容姿が似通った者達で集落を作り、やがて集落間の交流は途絶える。 人々の心からは過去の経緯も薄れていき、統率者達は独自の種族を立ち上げた。


 一つは純血のエルフ族。


 一つは混血でもエルフの能力を濃く受け継ぐ人間族。


 そして、異形と特殊な能力を手に入れた魔族。 


 人間族と魔族の繁殖力は強く、膨れ上がる人口に集落は森を開拓し、町を作り始めた。 自然と共生を望むエルフ族は、開拓を止めるよう両族に交渉する。 だが両族は、生活を豊かにする為だとこの交渉を破棄した。 それでも説得を試みるエルフの使者を、あろうことか殺してしまうのだった。


 仲間を殺されたエルフ族は強行手段に出る。 自然を操る力を使い、両族をシルヴェスタから追い出そうとしたのだ。 だが両族に数で圧倒的に劣るエルフ族は、数人を残して全滅してしまうのだった。



 元々子供が授かりずからかったエルフ族は姿を消し、シルヴェスタの地は人間族と魔族の地となる。 だが、息耐えたと思われていたエルフ族は、最後の子孫に『呪い』を施して両族に紛れさせたのだ。


 その『呪い』とは、純血と混血が交わると怪物を生み出すというもの。 そう、ダークエルフの誕生である。 エルフ達の最後の望みは、両族の繁殖力を利用した内部崩壊だった。



 エルフ族が絶滅してから数十年。 呪いは彼らの目論見通り怪物を生み出し、両族の脅威となった。 その原因が血によるものだと悟った両族は、自らの種族の成り立ちについて考えるようになる。


 エルフの血は、先住者の神聖なるものと噂される一方、両族を脅かす邪神のものという声もあった。 両族の混血がダークエルフを生み出すことが後押しし、やがて両族は対立していく。

 

 それから数十年後、エターニアの私欲を発端に、人間族と魔族の大戦が起こる。 勝利したエターニアは、エルフは邪神であると断言し、過去の書物の一切を闇へと葬ったのだった。 




「つまり、スレンダンはオレ達二人がエルフ族と言いたいんだな? 」


「純血ではありませんが、純血に近いと判断したのでしょう。 ですから私は引き取られた…… あなたがずっと彼の監視下にあったのもその為です 」


「なら、そうと早く言えばいいじゃねぇか。 回りくどい事しやがって 」


 舌打ちをしてふてくされるエンデヴァルドに、ファーウェルは答えずジョッキに口をつける。


「おい、オレは力を封印されていると言ったな? 」


「ええ 」


「その封印を解けば、今以上に強くなれるか? 」


「恐らく。 『イメージグローブ』と呼ばれる魔王グリザイアの能力も、元はエルフの力ですから。 20年生きてきた自分の体なら、もっと自由に立ち回れるでしょう? 」


 『そうかよ』と呟き、彼はジョッキの中身を一気に飲み干して立ち上がった。


「じゃあ早速解放しろ 」


「その前に体を元に戻さないと。 回りを見ずに先急ぎするのは、あなたの悪いクセですよ?  」


 更にふてくされた顔になる彼を見て、彼女はクスクスと笑った。 フンと鼻を鳴らして対抗した彼は、肩を怒らせながらドスドスとキッチンを出ていく。


「エル! 出てこいエル! 」


 夜も明けきらないうちに、廊下に響き渡るエンデヴァルドの声。


「「「何事だ!! 」」」


「きゃわあぁ!! 」


 廊下から聞こえてくるのは、次々と駆け付けて来る兵士達の足音と、エルの寝起きの悲鳴。 ファーウェルがジョッキを片手に、キッチンの出入り口からその様子を窺う。


「ああっ!? リュウはどこ行きやがったんだよ! 」


「ご…… ごめ…… 」


「夜中にうるさいんじゃ腐れ勇者が! 」


「落ち着いて下さいみなさん! 」


 側にいる兵士達の胸ぐらを掴まえて突っかかるエンデヴァルドに、寝ぼけ顔でパジャマ姿のエル。 杖を振り回すオッタルや、止めようと必死なグランとレテで、廊下は騒然となっていた。


「賑やかなこと…… いい仲間を見つけたじゃない、弟くん 」


 ファーウェルは穏やかな笑顔で『ふう』と息をつき、ジョッキを傾ける。


「美味し…… 」


 終いには『うるさい!』とマリアが参戦する。 そんな賑やかな騒動は、陽が上り始める頃まで続くのだった。

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