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99話 新たな真実

「御主人様がお亡くなりになりました 」


 ファーウェルのその言葉に、マリアの頭の中は真っ白だった。


「…… え…… 」


「貴女にこれを、と 」


 ファーウェルは呆けているマリアの手を取って、レンゼクリスタルと一通の手紙を強引に握らせた。


「もう逝っちまったのかよ? あのジジイは 」


 マリアの後ろから、吐き捨てるようにエンデヴァルドが問う。


「老いた体でディクライン・ゲートを受けて、二年維持したのです。 流石だったと言うべきでは? 」


 彼女は言葉こそは嫌味たっぷりだったが、その表情は至って穏やかだ。


「主が逝ったにしては、さして悲しそうではないな? 」


「私と御主人様は、契約での主従関係ですから。 御主人様が亡くなられれば、行く末の不安はあれど感情はありません 」


「契約だけの関係か…… じゃあお前はカーラーン王城に戻るんだな 」


 俯いてクリスタルを見つめるマリアを一度見て、彼女はエンデヴァルドに視線を戻す。


「意外に鋭いのですね。 なぜそう思うのです? と、一応聞いておきましょう 」


「お前、国王付きの特務兵だろ。 王を影から守り、ベビーシッターから暗殺までやる、表には知られていない部隊があると聞いたことがある 」


 彼を見据える彼女の目が細くなる。


「ええ、その通りです。 まったく…… 好き勝手にボーッと生きていれば良かったのにと、見ててヒヤヒヤします 」


「…… なに? 」


「ただ二つほど訂正しておくと、私は部隊ではなく個人です。 私の真似を出来る者など、他にはいません。 二つ目は、カーラーン王城には戻りません。 次の就職先をどうしようかと検討中です 」


 彼女はマリアの背中にそっと手を回し、椅子を用意して座らせた。


「御主人様との契約に従って、少し長いお話をしましょう 」


 ファーウェルはもう一つ椅子を用意し、自分とマリアの分のワインを注いで腰を下ろした。


「…… 私はあなたの姉。 よって、ヴェクスターとは腹違いの弟です 」


「なん…… だと? 」


 彼は目を見開いて彼女を見ていた。


「私はあなたの母親ミーファの第一子。 あなたが生まれる前に、御主人様に引き取られました…… 」



 ファーウェルは、ミーファがエンデヴァルドを身籠った時にスレンダン自らに引き取られた。 スレンダンはファーウェルの存在が、この国にとって危険な存在になりうると予想していたのだった。


「私の人並み外れた身体能力と、あなたの類い稀なる能力。 不思議に思った事はありませんか? 自身だけがどうしてエターニアを扱えるのかと 」


「…… ある。 他の奴には鞘からすら抜けねぇ 」


「私の…… いえ、私達の体には特殊な血が流れています。 でもそれはダークエルフのものではない…… わかりますか? 」


「勿体ぶらずに言え。 もう、何を聞いても驚かねぇ 」


「エルフの血です 」


 彼女の言葉に反応したのはマリアだった。  口は半開きになり、目は見開かれ、考えが追い付かない…… そんな表情を浮かべている。


「童話等で神的な存在として扱われるエルフですが、おかしいと思いませんか? 信仰にしろ宗教にしろ、エルフを祀る祭壇は一切ありません 」


「…… 邪神とされていれば祀られることはねぇ 」


「その通りです。 童話でもエルフの役割は、世界をまっさらにしてこの地を誕生させたとあります。 そんな存在である私達が現代に生きていたら…… 御主人様はそれを懸念して私を引き取ったそうです 」


「姉様は…… スレンダン様はどうして知っているんですか? 」


 呆けた顔でマリアは訪ねる。


「賢者様ですからね。 私達には想像も出来ないお考えを持っていたとしか説明出来ません。  彼はまさしく賢者だった…… 手紙を読んでご覧なさい。 文字は私のものですが、彼の言葉そのままを書き綴ってあります 」


 マリアが手紙を広げるのを見て、ファーウェルはエンデヴァルドに視線を戻した。


「いけすかねぇな。 なぜ今この話をしに来た? 」


「御主人様が亡くなられたとの報告でしたが、全てを話すようにとの契約もありましたので 」


 ワイングラスに口をつけ、『美味しい』と驚く彼女をエンデヴァルドは睨み付けた。


「何を狙ってやがる? 」


 丁寧にジョッキを置いた彼女は、彼にフワッと微笑む。


「体を元に戻しなさい、エンデヴァルド。 あなたの体に眠らせた、エルフの力を解放して差し上げます 」


「解放だぁ!? 」


 彼の驚く声と同時に、マリアの涙が手紙の上にポタッと落ちた。 文字は涙に滲んでぼやけ、その数は徐々に増えていく。


「どうして……  なんで今更こんなことを言うんですか…… 」


 マリアは頬を懸命に拭うが、止めどなく溢れる涙を止めることは出来なかった。 スッと伸ばされたファーウェルの腕がマリアを包む。


「リゲル様とのお約束もあったのでしょうが…… 御主人様はあなたの事を本当の孫のように思ってらっしゃいました。 あなたの役割は重要です…… その意思を継ぎ、果たしなさい 」


 マリアは涙でぼやけるレンゼクリスタルを見つめる。


「はい…… 姉様、おじい様 」


 彼女はそう言ってクリスタルと手紙を胸に抱く。 内容を知らないエンデヴァルドが手紙に手を伸ばすと、彼女はプイッとその手を拒んだ。


「何が書いてあるんだよ! 」


「触らないで下さい、手紙が汚れます。 あなたにはデリカシーってものがないんですか? バカですか? 変態ですか? 」


「おい…… 最後のは余計だろうよ? 」


 席を立ってファーウェルだけに一礼し、キッチンを出ていく彼女の背中を二人は見送る。


「さて、エルフについてお話しましょう。 と言っても御主人様の推測と、私の私的な見解が入りますが 」


 彼女は彼のジョッキに視線を落とす。 『先ずは空けなさい』との無言の圧力をかけると、彼はため息一つで残りを一気に流し込む。


「とても美味しいワインですね 」


「この地の民がリュウの為に精根込めて作るんだ、美味くない筈がねぇ 」


 彼女は『そうですか』と微笑みながら受け取ったジョッキに注ぎ、彼の横に椅子を移動して腰を下ろしたのだった。




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