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21話 断罪

いつも誤字の指摘、ありがとうございます。


 

 シェリルは嘆願した。

 

「死罪だなんて、それは無いと思います」


 シェリルはローゼたちの前に立つと、ルーゲン国王陛下を見上げた。

 ローゼたち兄妹は何が起きているのか分からず、シェリルの行動に息を飲んでいた。


「……シェリル。この者が犯した罪を聞いてなかったのか?」


 ルーゲンは不快そうに眉をひそめた。

 自分たちの私欲のままに動き、ありとあらゆる人を虐げ、国王夫妻までも監禁した極悪人たちだ。死罪以外の何物でもない。ましては、シェリルは彼らのせいで父と姉を亡くし、天文学的な借金を背負うことになり、シェリル自身もローゼに虐め抜かれていたのだ。


「はい。もちろん、私は……この人たちを許せません、

 ですが、死を与えることが、はたして……償いになるのでしょうか?」


 シェリルは聖人ではない。

 ローゼたちに人生を狂わされたし、大好きな家族も殺されたし、冤罪をかけられたし、やっと出来た恋焦がれた人まで奪われそうになった。地獄のような日々だったし、死んでしまった方がマシかと思ったことさえある。人間としての尊厳を与えられなかったこともあった。


 ああ、それは許せない。

 決して、許してはいけない。鉄の乙女に閉じ込めて串刺しにしても、金属の檻に入れて燻製にしても、まだ足りない。この恨みは幾度殺しても足りないが、殺すのは一度しかできない。それで反省したと決めるのは、甚だ疑問である。


「これまでの行いを……きっちり、体感してもらうことこそ、反省に繋がるかと」


 それに、「シェリルに庇われた」という事実自体、ローゼたちには屈辱になるだろう。事実、シェリルの視界の端には、ローゼが憎悪の眼を向けてきていることが見えた。もっとも、それは一瞬で、すぐにか弱い美少女に戻っていたのは、さすがである。


「どうかお願いします」


 シェリルは令嬢らしく言葉を濁したが、国王陛下はしっかり理解してくれたらしい。


「分かった。1人ずつ、処分を下すことにしよう。

 まずは、リリー・ブロッサム。お主は確か、フランベルクに嫁ぎたいと言っていたようだな?

 マーレの搭に幽閉することにする。そこで、フランベルクを見ながら反省すると良い」

「ひっぃっ!」


 リリーは身体を縮ませる。

 マーレの搭……それは、獣国へ向かう船が出る港にある。檻と言っても港から五百歩程離れた海の上に、ぽつんと立てられた寂しげな塔だ。

 ただ寂しいなら良いが、塔と言っても小規模で、ほとんどが水に浸かっている。満潮時には檻に海水が入り、足まで海水に浸かるほどだと噂されている。


「わ、私は、何もしてないんですよ!? それなのに、こんな仕打ち、あんまりですわ!」


 リリーが必死になって嘆願するが、国王陛下は断固として譲らなかった。


「兄と姉を諫めることをせず、他人の婚約者を誑かそうとし、挙句の果てには奪おうとした。シェリルだけではなく、学校では気に入らない女子生徒に対する仕打ちが度を越していたと調査報告がされてる。

 しかも、堂々と嘘の婚約を発表したと聞く。それを罪と言わずして、何が罪か」

「ですが……!」

「……そこで反省できるのであれば、のちの処分を考えてやらんこともない。

 次に、ラドン・ブロッサム」


 ローゼの兄の身体が、びくりと震えた。


「権威に胡坐をかいたことが多かったな。先ほどまで、幾度となく『王太子妃の外戚』であることを宣言していた。

 ああ、権力に対する欲が強い。よって、全財産剥奪の上、奴隷に落とすことにする」

「―――ッ、はい、分かりました。国王陛下の、意のままに」


 ローゼの兄は悔しそうに唸ったが、すぐに従順した。

 ただすぐに甘受したところから見ると、彼は腹に一物を抱えているのかもしれない。たとえば『奴隷に落とされても、這い上がって見せる』的な奴だ。

 もちろん、陛下は見落とさない。


「ただ、お前の口は嘘を吐く癖があるようだ。ならば、その舌はいらないな」

「はっ……はぁ!? な、なにを!」

「連れていけ。来賓たちの前で血を流したくない。なにせ、舌を切るのは技量がいるのでな」

「や、やめろ! は、放せ! お、俺は男爵だぞ!?」

「もう既に奴隷だ。気にすることはない。行け」

「「はっ!」」


 国王の命に従い、騎士たちは駄々をこねる子どものように泣き叫ぶ男を引き連れていった。

 その様子をローゼが真っ青な顔で眺めている。そして、国王が自分の名を告げる前に、シェリルの後ろから飛び出した。セドリックの方へわき目もふらず一目散で駆け寄り、涙目でセドリックの足にすがりつくと頭を垂れていた。


「セドリック様。私は、私は心から反省しています。どうか、情状酌量を……」

「ローゼ……」


 セドリックは言葉を詰まらせる。

 そして、セドリックは、ローゼに対して


「すまない、俺はもう貴方を信じることができない」


 死んだような目を向けていた。


「俺に幾度となく嘘をついた。お前のせいで、父上たちの容体を確かめることはできなかった。サーシャ様は……あれほど美しく優しかった人が、死んだ。死なせてしまった。

 俺も罰を受ける。だから、お前も罪を償ってほしい」

「……そこに、もう少し早く気づいて欲しかった」


 国王陛下はしみじみと言うと、ローゼに対してではなく、まずは息子に対して処分を言い渡した。


「セドリック。お前は王籍を剥奪する。以後、別の者を跡継ぎとする。

 お前は『ただのセドリック』として一兵士に落とされる。二等兵から北の国境の警備に励むと良い」

「……はっ」


 甘い処分だ。

 だが、国境警備ほど寒く辛くて恐ろしいものはない。

 北の国境は常に雪が降り積もり、凍えるような厳しさだという。外敵が数か月に一度の割合で押し寄せて、それを追い払うのに死人が出るのは当然だが、寒さに負けて命を落としたり、パトロールや砦の整備中に熊などの獰猛な生き物に襲われたり、雪崩に巻き込まれたりと、過酷な現場だと聞く。

 ましてや、二等兵となったら……言い方が悪いが捨て駒として扱われ、死亡率が高いとも噂されていた。

 

 セドリックは静かに受け止め、国王陛下に首を垂れたあと、シェリルに向き合った。


「シェリル、申し訳なかった。君やサーシャ様の言葉にも耳を傾け、しっかり調査していれば、こんなことにはならなかった……」

「……」


 心がこもった言葉だった。

 前者二人からは謝罪も何もなかったので、こうして謝ってもらえて、胸の痞えが薄れた気がする。


「……過ぎたことです。もう二度と、サーシャ姉様は戻ってこない。

 ……私は貴方を許せそうにありません。ですが、謝罪は受け入れます。その身をもって、反省してください……セドリック様」

「……慈悲に感謝する」


 セドリックは頭を下げてくる。

 反対に、ローゼはシェリルの足元に駆け込んできた。


「ごめんなさい、シェリル。悪かったわ。貴方に酷いことをたくさんして、本当にごめんなさい。全部、お兄様に言われてやっていたことなの。兄を諫めきれずに、無理やりやらされていたのよ!」

「……ローゼ、様……」


 シェリルは目を伏せた。

 そして――


「私、我慢しませんよ」


 シェリルは短く言い放った。

 いつまでもこの女の言う通りに動くと思ったら、大間違いだ。ここまで散々、幾度となく我慢に我慢を重ねてきた。


「しっかりと罪を償ってください」


 この女だけは、絶対に許せない。





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