ニュース
「有人さん額を怪我しているじゃないですか!」
「大したことないって」
「だめです!ほら膝の上においで」
有人は帰るとすぐに額の怪我について八重花に聞かれ、無理やり膝枕させられて治療を受けていました。膝枕なんてされたことのない彼にとって膝の柔らかさに少し幸せ気分を感じていました。
「しかしこの怪我、ただの怪我ではないですね」
「えっ」
「すごくキレイに切れていますから。日本刀で斬られたのですか?」
「そんなわけあるか!!」
「ですよねー」
内心、ただの怪我ではないと言われた時は少しドキリと有人はしていました。とはいえ背の小さな黒ずくめの女の子に攻撃されて怪我しましたなんて言えず、転んだと終始ごまかしていました。
「……なんか今日は疲れたな、ご飯食べたら今日は寝よう」
「お疲れ様です有人さん、ご苦労さまです」
本来なら嬉しいんだろうな、と思いましたが少し複雑な心境でした。
翌朝のことでした。
「昨晩、何者かに都市開発研究センターが襲撃される事件がありました。幸い怪我人はありませんでしたがセキュリティは犯人の動向を調べています」
有人は箸を落としました。彼の中で昨日起きたこととニュースの事件は何らかの関係があるんじゃないかと結びついたからです。
「有人さーん、もしもーし、大丈夫ですかー?」
「あ、はい」
八重花の一言で正気に戻ります。
「大丈夫ですか?顔色、悪いですよ」
「い、いや大丈夫です。……ちょっとお昼から出掛けてくる」
「あら、どこへ行かれるのですか?」
「そのへんをちょっとブラブラとするだけ。夕方には帰るよ」
「はあい、お気をつけて」
有人はどうしても心につっかえているものを確かめずにはいられませんでした。現場までは10分ほど軽く走ったところにあります。彼は少し息を切らしながらも現場へとたどり着きます。
「うへえ、思ったよりひどいな」
研究所の入口は雑に破壊、所々で爆破された形跡がありました。立ち入り禁止のテープが門には貼られており、入ることもできません。
「……ん?」
彼以外にも現場を見に来ていた野次馬はいましたが、中に一人気になる人物が目に付きました。他の人達は不思議そうな眼差しで眺めていましたが、気になる人物は違ったものを彼は感じました。そしてその人物と目が合います。
「あっ……」
目の合った人物はすぐにその場を立ち去っていきます。気になった有人は後を追います。
しばらく追いかけると人気のない路地裏にいました。必死に追いかけていた有人はしまったという表情であたりを見ます。そして目の前には逃げていた男がいます。
「お前、どこかで見たことあると思っていたが昨日のガキだな?」
「もしそうだとしたらどうするんだよ」
男は頭をひねり、うーんと唸りながら思考します。
「なんだこいつ……」
「お前、昨日あいつと戦ったのに元気だなぁって思ってな。俺たちの仲間内でも上から数えた方が強いんだよあいつ」
「へえ、じゃああんたらも大したことないんだな」
「そーなんだよなぁぁぁぁ。めんどくさいと思わないか?」
「何がだよ」
「いやな?俺、あんまり全力出すっての好きじゃなくてな。適度に手を抜いて、適度に仕事をこなす、これが俺のポリシーなのよ」
突然の自己主張に有人は少し困惑します。
「そんな俺が神から授かった力がこいつでね」
手を横に伸ばすと、手のひらには骨格が浮かび上がり、そして短めの曲刀が浮かび上がってきます。
「簡易実装か!」
「正解、優秀だねえ。まぁ雑な性格してるからそんな能力だったんだろうねえ。さてと、そろそろやろうか」
ゆっくりと有人に男は歩み寄っていきます。それを迎え撃つために彼も戦闘態勢をとります。
「やる気満々っていいねえ!お兄さん、楽しくなっちゃうよ!」
刃を有人へと振り下ろします。有人は避けることなくなく、受け止めることもなく構えたままです。振り下ろされた刃は有人に直撃します。しかしその攻撃は弾かれ、さらに刀身にヒビが入ります。
「な、なんだこのコンクリートを叩いたかのような衝撃は!」
「残念だったな、俺を殴りたいんだったらもっと硬いものを用意しておくんだったな」
腕をボキボキと鳴らしながら男に詰め寄ります。次の武器を生成しますが、男は怯えた表情で後退りをします。
「なんなんだよ、お前のその能力は」
「ひとまず、話を聞かせてもらおうかなぁ」