暑い夏の日に、クーラーのよく効いた4畳半にて
私の身体を、彼の舌先が這う。
そうすると私は、自身の輪郭がぼやけるような不思議な感覚に襲われた。
固く冷え切った私自身が、彼の熱によって次第に、溶かされていく。
”ああ、私、愛されているんだわ”
彼は決して、私に歯を立てることをしなかった。
きつく、私を吸い上げることもしなかった。
彼はただ、その舌先のみで、私の身体をなぞり上げ、その熱と柔らかな圧によって、じわじわと私の身体を削りとっていくかのようだ。
”……じれったい。とても、気持ちいいけれど”
私は今日が、初めてだった。
”けれど、男というのは、こうも丁寧に全身を舐めてくれるものなのかしら”
彼は、まだ若かった。
独りよがりで自身の悦を求めるだけの行為であってもいいはずだし、それが自然な在り方だとも思える。
さらに言えば、私は、そういった男の野蛮さを、全然嫌いではなかったのに。
私の身体の至るところに噛みついて、私を終始悶えさせるような、夏らしい行為を期待しないでもなかったのだ。
けれど、私のそんな予想に反して、彼は私を一生で一度の宝物のように優しく、丁重に扱おうとしているようだった。
――私のような、安物の女を。
私は、こっそりと彼にバレないように涙をこぼす。
しかし、彼はその涙にすぐに気づいて、そっと優しく、それを舐めとった。
彼の舌先は、私の身体を下から上へと、ゆっくりとなぞり上がっていく。
時折、彼は焦らされて漏れだす私の体液を、そっとキスをするように優しく吸い上げる。
更には、全身を舐め終えた後、お互いの体液でぐちょぐちょになった私のことを楽し気に見渡した。
私はその度に我慢できず”早く入れて”と懇願するのだが、彼は聞く耳を持たない。
彼は、愛することに集中しすぎるがあまり、彼自身が心地よくなることを後回しにしているようだった。
本当は彼だって、私にむしゃぶりついてしまいたいはずなのに……
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永遠のような長い時間は、ようやく終わりを迎えようとしていた。
私は、最後の最後まで彼の舌先で全身を舐められ続けるだけだった。
”ああ、アイシてくれてありがとう。”
そう言い残し、私はその生を終えた。
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男が部屋の中で一人、小さな棒切れを手に持って、満足気な表情を浮かべていた。
暑い夏の日に、クーラーのよく効いた4畳半にて -終-