9.CLOSED
はい、これで大型連休中の連続投稿終了!
誰に誓ったわけでもないけど無事達成できてよかったです。
今後の投稿については、5月中は1日一話投稿を目標に頑張りますので、よかったら読んでください。
「……歯ブラシは、どこで、てにいれる、の?」
「あぁ、俺の友達が経営している何でも屋があってな……そこで歯ブラシを毎回交換してもらっている」
正確にはリピアが営んでいるのは魔導具屋さんで、交換してもらっていると言っても俺は対価に金なんか払ってはいない。
一応、土下座という名のプライドは支払ってはいるが……あいつはいつも困った奴を見るような目で見てくるだけなので、正直に言って歯ブラシの代わりになんかなるはずもないだろう。
……まぁ、そこらへんは友達なりのサービスみたいなものと無理やり解釈しているが、どう考えても無理すぎるので、そのうち何か侘びの一つでもしてやらないといけないかな、なんて思っている。
以前ならばまだしも、スキルを手に入れた今ならばそれなりにできることもあるだろうし……リピアの願い事を何個か叶えることで手打ちにしてほしい。
そんなことをグダグダと考えながら、俺は歩みを進めていく。
リムは黙って隣をついてきているのだが……いかんせんワンピースの丈が短すぎるものだから、チラチラと下着が見え隠れしていてものすごく落ち着かない。
もうちょっと露出控えめな格好にしてくれないか、後で相談してみるか。
うん、そうしよう。
◆
なんて取り留めのないことを考えながら歩くこと約40分。
当初の予定では20分程度で着くつもりだったが(と言っても、時計なんか持ってないのであくまで俺の体感になるのだが……)、その倍近くかけて目的地に到着した。
原因はおそらく、リムの下着を長く見たいがために途中から彼女の後ろをゆっくりとついていくようになったためだ。
リムは当然、ここら辺の土地勘なんてないものだから何度も立ち止まっては「こっちで、いいの?」という確認を取らないといけなかったので、そこのタイムロスがかなりあったような気がする。
道中でちょっと迷子にもなってたし……。
リムとは良き隣人でありたいので、俺としてもできるだけ彼女にふしだらな視線を向けたくはないのだが……。
こればっかりはオスの本能に刻まれたものなので、ある程度は許容してほしいと思っている。
もちろん、最後の一線を越えるようなマネはするつもりはない。
まぁ、リムの下半身をガン見している今の俺の有り様では、言ったって誰も信じてはくれないだろうが……。
そんな俺の邪な思考に気付く様子もない純真無垢なリムは、目的地が何でも屋ではなくて魔導具屋であることに若干の戸惑いを見せていた。
「……ホントに、ここ?」
「おう。ここが、俺の友達が経営している場所なんだ。リム、ちょっと話をつけてくるからそこで待っててくれ。ーーーしつれーい、しまーすッ!」
CLOSEDという札がかけられた扉には見向きもせずに、俺はドアを開けた。
◆
「……一応、言うけどさ。君……確か、王国語は読めたはずだよね?」
「ああ、リピアが熱心に教えてくれたおかげでな。いや、本当は休みの日に来る予定はなかったんだが……ちょっと、入り用でな」
ドアを開けると、魔女が着るようなローブと帽子を身につけたリピアが、カウンター近くの椅子に腰を下ろして本を読んでいる姿が目に入った。
リピアは、閉店の看板がぶら下げられているのに堂々と入ってきた俺に対して辟易としたため息を吐きながらも、特に本から目を離す様子はない。
おそらく、いつものことだ、と内心で呆れかえっているのだろう。
まぁ、閉店開店に関わらず勝手に入ってくる俺が悪いのは認めるが……。
俺も一応、鍵が開いてないときは入らないようにしたりと、それなりに配慮しているつもりであるので、そこまで呆れる必要はないと思う。
「それで?君は今日はどういう用件で来たんだい?……君の称号とスキルについてだったら、まだ何もわかってないけど?」
「ああ、別にそれは良いんだ。それよりも俺の家に同居人が出来てさ」
俺が同居人、という言葉を口にすると、今まで本に向けていた視線を俺の顔へと変えた。
「ふーん……“同居人”ねぇ……。珍しいねぇ……あんなゴミ溜めの都市に君みたいに暮らしている人間がいるだなんて、さ」
それは確かに俺も不思議に思ったが……。
今更、それをほじくり返しても仕方がないしなぁ。
「まぁ、それに関しては俺にもよくわかんねえから本人にでも聞いてみてくれ」
「本人……?なんだ、ここに連れてきているのかい?」
「あぁ。ーーーリム、入ってきてくれ」
「……しつれい、します」
外で待たせていたリムを呼ぶと、一拍遅れて彼女が入ってきた。
「そいつが同居人かい?」
「あ、あぁ、そうだが……」
“そいつ”って、なんか口が悪くないか?
普段から礼節を重んじているリピアらしくない言葉遣いに、俺は言葉が少し詰まった。
「ふーん……」
「…………」
リピアが値踏みするような視線をリムへと向けると同時、リムも無言ではあるものの微かな苛立ちを思わせる雰囲気を漂わせながらリピアを眺めていた。
それから更に見つめ合うこと数秒。
リピアとリムは、示し合わせた様子もないのに同時に視線を切ると、2人して俺を見つめてきた。
「な、なんだよ……?」
「「…………いや、別に」」
明らかに何か言いたそうな顔をしているにも関わらず、“別に”なんて言われても俺は納得出来ないんだが……。
しかし、俺がそれに関して尋ねるよりも早くリピアが話を進めた。
「……それで?態々、同居人が出来たことを知らせるためだけにここに来たわけではないんだろう?何か用件があるなら、聞くけど?」
そう尋ねるリピアの顔には既に先ほどの不機嫌さはなく、ただいつもの気だるそうな表情だけが残されていた。
うーん、これなら大丈夫なのか……?
まぁ、とりあえずは当初の目的を達成するべきだろう。
そう考えて、俺はリム用の歯ブラシが欲しいことを伝えた。
「ふーん、歯ブラシ、ねぇ……。じゃあ、昨日は磨かずにそいつは寝たってことかな?」
いや、なんだってそんなことが気になるんだ?
別にリムが昨日歯を磨かず寝ようがどうしようが勝手だろう?
俺がそう言おうとして口を開けたが、それよりもはやくリムが答えていた。
「いえ、きのうはバスラのをつかわせていただきました」
「……はっ?お前、今なんて言った?」
うぉおおおッ!
リピアさんの“はっ?”、怖すぎでしょッ!
殆ど関係ないはずの俺がぶるったもん。
というか、2人ともなんだか口調が変じゃないか?
リムはいつの間にかに敬語になってるし、リピアも日常会話でお前なんて言葉使ってるの初めて聞いたわ!
そんな俺の動揺もよそに、2人の会話はどんどんデッドヒートしていく。
「あれ?もしかして、そのとしでもう難聴なんですか?でしたら、お医者さんにでもみてもらってさっさと家でねてたらどうですか?」
「はぁ?別に僕は耳が悪いから聞き直したわけじゃなくて、お前が笑えない冗談を口にするから訂正するチャンスを与えているんだけど?」
「ああ、それでしたらとくに訂正するひつようはありません。ーーーだって、事実なんですから」
そう言うと、リムは口元を三日月のように歪めて笑って見せた。
その笑顔がホラーチックで背筋がひんやりとしたのは、俺だけではないと思う。
しかし、リピアはリムの不気味な笑顔にも意に介さず俺に質問してきた。
「ーーーって、言ってるけど……本当なのかい?」
「へぁ……ッ。あ、あぁ……本当だな。だって、一本しかなかったから……」
「……あっ、そう……」
……こんなこと言うのも失礼なのかもしれないが、“あっ、そう”って言うと同時にガリッと爪を噛み切るのは結構ヒステリックに見えて怖いのでやめていただきたい。
というか、2人して雰囲気がなんか怖いんだが……俺、なんかした?
「……わかった。とりあえず、歯ブラシは用意するから……今日のところは、帰ってくれるかい?ちょっと気分が優れないんだ」
「なんだ、風邪でも引いたのか?だったら、あんまり無理せずに休んだ方がーーー」
「ーーー別に。大丈夫だよ。君が気にするようなことじゃない。……それよりも、はいこれ。新しい歯ブラシね。今はそれしか予備がないから失くしたりしないでくれよ」
カウンターの引き出しをゴソゴソと弄った後、歯ブラシを俺に押し付けると乱暴に奥の部屋の扉を開けた。
ーーーガランッ!
という荒々しい音が響き、どう考えても普通じゃないのはわかった。
なんか隣でニヤニヤしているリムも気になるし……。
とりあえず、今日はもう帰ろう。
別れの挨拶でも一言言おうとして俺がリピアに声をかけると、意外な一言が俺に帰ってきた。
「別に気にはしてないけどさ……ダークエルフと連むのは、感心しないな」
「ーーーッ!?」
その一言は、先ほどまでニヤニヤしていたリムの笑みを消すには十分な効果を持っていた。




