明日は忘れる僕らの歌
”手放したくないもの”
”傍に置きたい記憶”
”忘れたくない何か”
――貴方には、ありますか?
これは 遠い 何処かの島の
今はもう 忘れ去られた 誰かの記憶
貴方は 傍にいたい誰かと
ずっと一緒に、いられますか?
まぶたを 透かす何かがまぶしくて、目を開けた。
そうしたらもっとまぶしくて、思わずぎゅっと、また目をつぶってしまった。
それから今度はゆっくりと目を開いて、辺りを見まわした。
きらめく陽の光,冷たい風,耳に心地好い波の音,鼻腔をくすぐる潮の香,
少し離れた所には、互いにささやき合う木々……
ここは、何処だろう?
僕は目をこすった。
ぼぉっとしていても、仕方無い。
とりあえず、森に足を踏み入れてみた。
幅の広い葉の木と細くとがった葉の木とが入り混じるその森の木々は意外と明るくて
それでも確実に
少しずつ、少しずつ、深みを増していった。
突然 カサリと音がして、僕はびくりと身を震わせた。
ひらりと、少女が現れた――さっきまで、気配もしなかったのに。
「あなたは、誰……?」
澄んだ声が、彼女の小さな口から零れ出る。
ぼくは、答える事が出来なかった。
答えようとしたけれど――僕にも、わからなかったのだ、
自分が何者なのか。
お互いひとりだった僕等は、
特に理由があるわけでもなく、ふたりで歩き出した。
開けた場所に辿り着いた。
花々の香りに囲まれて
陽光に短い髪をきらめかせ
彼女は嬉しそうに笑った。
彼女も、自分が誰か、知らないという。
僕等は、気が付いたらひとりで
しばらくして また歩き出した僕等は、森を抜けた。
川を見つけた。
のぞき込むと、きらきら きらきら 魚が泳いでいるのが見えた。
そぉっと、そぉっと手を伸ばす、
影が魚にかからぬように,
魚が逃げてしまわぬように。
僕の手が、水面の僕の顔を 崩した。
裸足の彼女は、何か口遊みながら
川に足を踏み入れた。
僕は靴を脱いで、
透明な水に
足をぬらした。
僕等は水のきらめきを跳ね上げて
この
澄んだ水より透明な彼女の笑い声が、
光に 満ちた 空気に、
はじけて、消えた。
時々川の中を、時々川の外を
彼女は、僕を片手に
僕は、両手に 君と 靴を 持って、川に沿って歩いた。
時々名も知らぬ木の実をかじりながら、時々笑いながら。
話の合間に彼女の歌う歌を、気付けば僕も、覚えていた。
――そしてとうとう、海に出た。
僕がいたのと別の海で、いつの間にか星が瞬いていた。
どうやらここは 小さな島か何かのようだ。
広い砂浜の 海から少し離れた所の 少し大きな 岩。
そこにはさまっているのは、白い、紙……?
”僕は、僕と同じように 過去を知らない女の子に逢った。
短い髪の、澄んだ声の、女の子。
どうやら昔、会った事があるらしいが、僕等は2人とも覚えていない。
これと同じような手紙を見つけたんだ。
僕らはきっと、これから、互いを忘れるだろう。”
ふたりは無言で、寝転んだ。
どんな力がはたらいているのか知らないが
明日はまた、今朝の海岸で
独りで目覚めるのかも知れない。
「可哀想」
君の声に、ぼくは星から彼女に目を移した。
「星って、可哀想。
昼間にも出ているのに、私達は、存在に気付けない。
ねぇ、人間は、”忘れて覚える”生き物だから、
傍にいないと、忘れちゃうんだね――」
その声を聞きながら、僕は目を閉じた。
どちらからともなく、歌い始めた。
繰り返し、繰り返し。
そして、拒む事の出来ぬ 明日を待つ。
――明日の僕を、僕等を
明日の君を、おもいながら……
まぶたを 透かす何かがまぶしくて、目を開けた。
そうしたらもっとまぶしくて、思わずぎゅっと、また目をつぶってしまった。
潮騒は まるで
澄んだ声の誰かが懐かしい歌を 歌ってくれているようだった。
ここは、何処だろう?
僕は目をこすった。
そしてたったひとりで、目の前に広がる青緑色の海を、見渡した――。
ここまでお読み頂き有難う御座いました。こんにちは、風音です。
この作品は、一昨年の家庭科の、絵本を作る授業で作った絵本です。スペースと時間が少なかった事もあるのですが、そんな中でも、読み終わった後心にじんわりと何か伝わるものがあるように……と努力し、結果は微妙に終わりました; っていうか、少なくとも児童向けではないですよね、家庭科で作ったのに……。でもとりあえず、"ほんわり絵本ムードのなかで、小さくても重要な事を提示する"という目標は、達成出来たのではないかな、と思います。
今回は挿絵機能が付いたとの事で投稿に踏み切りました。"当時の感覚"というものもありますので、絵も文も、殆ど手は入れていません。(挿絵に関しては、携帯ユーザーさんの事も踏まえ――因みに私は両用ですが――軽くなるよう画質を削ってアップさせて頂きました) きちんと文章の、"形式段落があって……"という形に直したり、内容を足したりした方が良いのかな、とも思いましたが、あえてそのままで投稿させて頂く事にしました。前書きも、ちょっと違和感はあったのですが、絵本の前書きそのままを採用してみました。絵本の雰囲気と、前作"My fair lady..."同様音の響きを味わって頂ければ幸いです。
――ただ、間違えちゃったんですよね; 挿絵をアップする時に、挿絵のタイトル。"朝日"なのに、思わず、"入日"って……。はい、すみません。正しくは"朝日"なんです。
この物語は、絵本作りの授業中から、解決編を書くつもりでした(因みに今回のものは"提示編"と、頭の中で勝手に呼んでいます)。両方読んだら繋がっているけれど、どちらか片方だけ読んでもちゃんとわかるものにしよう、と思っています。形式も絵本ではなく普通の小説形式の予定です。
まだ今は熟成中で、来年には受験も控えている事もあり、そちらの方はいつになるか、実現できるかもわかりませんが、その時にはまた全く異なる味で、自分なりに精一杯頑張りたいと思いますので、よろしければまたお付き合い願います。