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左遷された元SSSランクの最強勇者がカウンセラーになって、人間だけでなく、モンスター(!!)や魔王(!?)の心をケアする  作者: N2digtal
カウンセリング番号001 そして刃を振ったのは誰なのか?(人間とゴブリン編)
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第3話 エルダーの呼び声

ここから章完結で、レビンたちがトラブルを解決していきます。楽しめたら幸いです。

面白かったら、感想と評価を頂けたら喜びます!!

 診療の午前のパートを終えたレビンは、カウンセラー室を出ていき、職員の控え室に向かった。

 控え室の扉を開けると、コットン、マックス、ロキシーの三人がひと足先に仕事を終え、談話用の椅子に座っていた。


「よぉ、レビン。ナイスタイミングだぜ。昼メシを食いに行こう!」


「レ、レ、レビン、お、お疲れさま。よ、よかったら、ボ、ボクたちと一緒に、ごはん、た、食べよ?」

 

 マックスとコットンが、軽く手と触手を上げて挨拶し、レビンを昼食に誘う。


「いいね。でも、先に交信室に行かなきゃならないんだ。エルダーたちが話があるらしい。すぐ済むから、ちょっと待っててくれるか?」


「うん!」と二人は快くうなずき、レビンもうなずき返した。


「おまえも一緒にどうだ、ロキシー」


 我関せずとしているロキシーに、レビンが声をかける。ロキシーはちらりとレビンの顔を見ると、手に持っていた輸血液パックを振るった。


 輸血液パックは、医療ギルドが支給しているもので、吸血鬼の合法的な食事のひとつである。他種族との共存を選んだ吸血鬼は、おもにこれを食す。対立を選んだ者の食事は、もちろん他種族の血だ。


「これがありますから」


「でも、別に血以外の食事でも栄養は取れるんだろう? たまには一緒に行こうぜ」


「血で済むのに、わざわざお金を払って食事を摂る意味がわかりませんね」


 相も変わらずロキシーの態度はドライだ。


「おまえは、人見知りの中学生か。わかった、こうしような。俺がみんなの昼メシ代を払う。だから付いてこい」


 この提案に対して喜んだのは、ロキシーよりもマックスとコットンだった。


「わっふー!! マジで!? 何でも頼んでいい? ハンバーガーのつもりだったんだけど、レビンのオゴリならステーキが良いなぁ」


「にぇへへ、レビンのおごりっ♪ レビンのおごりっ♪」


「あぁ、好きなものを頼んでくれていいぞ。それでロキシー、来てくれるよな?」


「それは命令ですか?」


「あー……好きなように受け取ってくれ」


 ロキシーはレビンの顔をじっと見つめると、それから喜んでいる同僚二人に視線をやって、不愉快そうに鼻を寄せた。


「知ってますか? これってパワハラですよ?」


「難しい言葉を知っているな、ロキシーは。でも、これも知ってるか? SSSランクになると、国の法律だって変えられるんだぜ。つまり、『ロキシーって名前の奴は、レビンって名前の奴と食事をしなければならない法』を施行することもできるんだ」


 レビンの言っていることは、半分だけ本当だ。SSSランクに到達した勇者は、国から政治的な問題に口を出すことができる。受理されれば法律だって変えることも可能だ。しかし当然、国が権利を許可を与えなければ話にならないし、訳のわからないことを言い出せば門から蹴り出される。

 

 そのことを知らないコットンとマックスは「すげぇ!」「す、すごい!」と驚き、真実を知っているロキシーは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「どうも拒否権はないようですね」


 だが、ロキシーは押し問答を繰り返すつもりはないらしく、降参とばかりに両手を挙げた。


「悪いようにしないからさ。みんなで食べた方がおいしいぜ。特に、自分の金じゃなかったらな」


 レビンはロキシーの肩を叩き、マックスとコットンにウィンクした。


「だな! オゴリ最高!」


「ごはんっ♪ ごはんっ♪」


 二人は楽しそうにしながら店を選んでいる。


「それじゃ、またあとで」


 レビンはそう言い、控室を後にした。


 * 


 廊下を進み、レビンはコンサルトギルドの建物の奥にある交信室に足を運んだ。

 

 交信室は、通話用の魔法結晶が設置された部屋だ。球体に加工された魔法結晶が、通話相手の立体映像を作り上げ、音声を運んでくれる。通話可能な範囲に制限があるエコーボックスと異なり、交信室の魔法結晶は、相手が世界の裏側にいてもリアルタイムで会話することができる。


 魔法結晶に手をかざして操作しつつ、レビンは顔を歪める。これから通話を行う者たちは、一番仕事を断れない相手だった。二番目は、マーティン市長だ。


 魔法結晶が青く輝き、無数の光の帯が乱舞する。しばらくすると、光の帯は幽霊のように青白く透き通った虚像を作り出した。


 虚像の数は三つ。ローブを身に着けた人型が出現した。彼あるいは彼女たちは、みな顔の上半分を目と鼻を隠した仮面で覆い、下半部を黒いケープで包んでいる。仮面の形はそれぞれ異なり、レビンから見て右から月、太陽、星を模していた。

 

 

「こんにちは、レヴェニー・カシュトレス」


 太陽の仮面をかぶった者が口を開く。その声は、男なのか女のか、老人なのか子どもなのか判別がつかず、さまざまな要素を混ぜ合わせたように奇妙だった。


「あなたの仕事ぶりは耳に届いていますよ。先日も勇者候補生の心を救ったのだとか。よくやりましたね」


 相手のねぎらい対し、レビンは「どーも」と軽く返す。


 通話相手の存在たちは、「エルダー」と呼ばれるギルドの最高幹部だった。

 ギルドは職務の内容に合わせてさまざまな種類に分かれるが、そのすべてを統括するのが「アークギルド」と呼ばれる組織だった。アークギルドは、ギルド全体の方針を決定し、国など大きな取引相手との調停を行う。


 また組織の「問題」を速やかに処理することも、アークギルドの職務のひとつだ。もしギルドのひとつが横領など腐敗的な行為を取れば、アークギルドから勇者よりも恐ろしい存在が派遣される。


 レビンをねぎらったのは、中央の太陽の仮面をかぶったエルダー・クエンティンだ。月の仮面はエルダー・パクストン、星の仮面はエルダー・ヴァイゼンという名前である。


 エルダーは常に顔を隠しており、全員の種族は知られていない。年齢も経歴もすべて不明だ。知られているのは、ギルドの最上位に位置する存在であり、武術と魔術に秀でているということだけ。

 

 エルダーたちの実力はレビンも知らず、一対一なら良い戦いができそうだが、三人まとめて戦うとなると分の悪い賭けになりそうだった。レビン個人の考えでは、エルダーがその気になれば、世界を容易く支配できると信じている。


 実際、ギルドはこの世界において、なくてはならない存在だ。ギルドは、治安、物流、研究といった世界に必要となる分野に深く関わっている。


「さて、それでは仕事の話をしましょうか」


 クエンティンが本題に入った。


「われわれは、情報ギルドからカーダインという村で問題が発生しているとの報告を受けました。カーダインは、人間とゴブリンが共に生活している村ですが、原因不明の理由で彼らの関係に軋轢が生じつつあります」


 カーダインは、レビンの住むトヴァールの南からかなり離れた位置にある田舎の村だった。


「痛ましいことに、カーダインの人間とゴブリンは敵対心を育み続け、両者の関係は日に日に悪化しています。今は大事には至っていませんが、ゴブリンあるいは村人の忍耐が限界を迎えれば、村がどうなるかはお分かりですね?」


「情報が少なすぎて何とも言えんが、どう考えても戦いになりそうなお話じゃないか? 事態の鎮圧なら、戦士ギルドに任せてみてはいかがですかね」

 

 エルダーの意図がわらかず、レビンは首を傾げた。


「勘違いしてもらいたくありませんね。これはお願いではなく、命令なのです」

 

 クエンティンは冷たく言い放ち、レビンの意見を切り捨てた。

 

「あなたは罪人です。罪人は、罪を贖わなければなりません」


 それが世界の理だと言わんばかりに、クエンティンは告げた。


「あなたの『罪』、お忘れになったわけじゃないでしょう?」


 太陽の仮面を見つめるレビンは、顔の下半分がケープに覆われているにもかかわらず、クエンティンが笑ったような気がした。


「忘れやしない」


 レビンは硬い声で応じた。

 あらゆる感情を歯で磨り潰したような声だった。


「おまえらの『やり方』は知ってる。それが気に入らないだけだ」

 

 そう告げるレビンの様子は、いつものお調子者で社交的な青年ではなく、エルダーと同じくどこか機械的な印象を受けた。その表情は、鋼の剣のように冷たく、そして鋭い。


「そうですか。それでは、任務を遂行しなさい」

 

 レビンの刺すような言葉をさらりと流し、クエンティンは命じる。話し合いが終了したことを示す合図だった。


「おまえを見ているぞ、レヴェニー・カシュトレス」

 

 それまで黙っていたパクストンが、性別や年齢がわからない声で警告した。


 ヴァイゼンは最後まで一言も口を利かなかったが、右手を拳銃の形にし、親指でできた撃鉄を引くジェスチャーをした。


 じつに〝チャーミング″な二人に対して、レビンは微笑み返した。そして三者に背を向け、交信室から出ていこうとする。


「みなの心を救いなさい、レヴェニー・カシュトレス。あなたには、それしか道がありませんよ」


 魔法結晶から離れるレビンの背中に、クエンティンの声がかかった。


 レビンは「それじゃ、俺の心を救ってくれるのは誰なのかな?」と減らず口を叩きそうになったが、すんでのところで言葉を飲み込み、交信室から出て行った。



 まるで何かから逃げるように。



 *


「それでゴブリンの討伐ですか?」


「そんなわけあるか」


 レビンたち四人は、鋼鉄製の馬車の荷台で揺られながらカーダインへ向かっている。

 馬車の四角い窓から見えるのは、山と畑のみ。商業施設はおろか、列車やドラグーンの飛行場といった交通機関も整っていない田舎だった。


「じゃあ、人間の討伐ですか?」


「ふざけんな。討伐なんかしない。お互いに何が問題なのか聞いて、解決に導く。俺たちの仕事は種族間の調停だ」


 カーダインまでは早馬の馬車でもトヴァールから三日もかかった。

 蒸気機関の乗用車やドラグーンを使えばもっと早く到着するが、あいにく予算不足だった。新設にして、あまり周知されていないコンサルトギルドの予算は、他のギルドと比べておどろくほど少ない。


「今回も面倒な仕事ですね」


「だるいぜー。川遊びしたいぜー」


 ロキシーとマックスが不満の声をあげた。


 皮のジャケットを身に着けているマックスは、最初は元気だったが、ずっと馬車の荷台に閉じ込められていると次第に笑顔を失ってしまった。今では椅子にも座らず、荷台の床に倒れ、スライムのようにぐんにゃりとしていた。


「そう言うなよ。こっちまでげんなりしてくる。やめて」


 言葉どおり、げんなりした顔でレビンが返した。


「超めんどくさい仕事ですね」


「超だるいぜー。お昼寝したいぜー」


 やめろと言うのに、ロキシーとマックスは嫌がらせのように不満を口にする。


「……臨時ニュース。レビンは、おまえたちのことが大嫌い」


 レビンが疲れた声で返し、山と畑しか映さない窓に頭を預けた。


「ボク、どんなお仕事でも頑張るよ。こ、怖いのとか、痛いのはイヤだけど、レビンが付いててくれるなら、ボク、頑張るからね」


 四人のなかでテンションが下がっていないのは、コットンだけだった。レビンを触手で軽く突くと、コットンの黄色の目が笑みに形どられた。


「おまえは本当に良い子だな、コットン」


 仕事に意欲的な同僚に対し、レビンは抱きしめて褒めてやった。コットンが「にぇへへ」と笑う。


 十分後、馬車はやっとカーダインに到着した。馬車は村の入口の門で停止する。

 四人が荷台を降りると、山を周囲に囲まれ、畑と一体化した村が見えた。目につく住居と農場のみ。酒場や宿泊施設もなく、村の娯楽は動物を追い回すか読書しかなさそうだった。

 

 正門をくぐると、村の広場が出迎えた。きれいに地面をならしており、木製のスピーチ台と村のできごとについて記された看板が置かれている。


 広場には人だかりができていた。最初は出迎えと思ったが、そうではない。

 彼らは四人に目もくれず、言い争っていた。集団は二つに分かれている。一つは人間、もう一つは、緑色の肌を持った小型の人外――ゴブリンである。


「なんなんだ」


 レビンがつぶやく。

 

 たしかにレビンたちはカーダインの問題を解決しようと、はるばるやって来たわけだが――


 カーダインでは、今まさに問題発生中のようだった。

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