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第1話 コンサルトギルド

はじめましてです。よろしくお願いします。

 人間にはその数だけ悩みがある。

 将来。仕事。老い。夢。恋愛。エトセトラ、エトセトラ…。


 しかし「悩みを持つのは人間だけ」と言うのは、この星では傲慢な考えだ。


 スライム、エルフ、ゴブリン、オーク、獣人、悪魔、ローパー。エトセトラ、エトセトラ…。

 さまざまな種族が、さまざまな悩みを持っている。


 ここは、コンサルトギルド。

 通称、「お悩み相談ギルド」だ。戦士やレンジャー、魔導士のそれとは違い、特殊なギルドだった。


「娘が俺様のことを臭いというのだ! パパの子だと思われると嫌だからと言って、運動会にも参加させてくれやしない! 私は、勇者も黙る、ベルベット・フォートリース様だぞ!!」


 そう言っておいおいと泣くのは、魔王に仕え、数々の勇者や戦士を屠った魔将軍だった。


「ベル、気難しい年ごろなんだよ。まぁ、時間が解決するよ。無理に仲良くしようとするなよ。それ、逆効果だからな。――次の方!」


 誰もが悩みを抱えている。内容はそれぞれ。


「息子が旅に出ようとせんのだが、何とかしてくれ!! 我々の家系は、代々高ランク戦士を輩出してきた名誉ある家柄じゃ。旅もせず、食っちゃ寝、食っちゃ寝……これでは、ご先祖様に顔向けできん!!」


 そう言って皺の寄る顔をさらにシワシワにするのは、戦いの国・アーシルの国王だった。


「戦士の他にやりたい夢があるんじゃないのか? もっとよく息子と話してみろよ。ニートの職に就きたいって答えたら、もう一度俺を呼べ。喝を入れてやる。――次の方!」


 誰もが悩みを抱えている。大きさもそれぞれ。


「なんか、クラブのお客のひとりが、あたしにドーテー奪って欲しいってウルサイのよねぇ。プライベートで吸うのって、好みのタイプじゃないとイヤだし。でも『魅了』の魔法で追い払うと、それはそれでギルドがウルサイしさ。ねぇ~ん、何とかしてぇん」


 そう言って色気のある身体をくねらせるのは、瞳だけで数々の男を魅了する魔物、サキュバスだった。


「わかった、わかった、だからすり寄ってくるな! そのストーカーに会って、言い含めておくよ。あと、法務院に接近禁止令を申請しておけ。そうすれば、奴も法的に近づけなくなる。――次の方!」


 誰もが悩みを抱えている。いつだって。


「近所の子どもが、スライムの俺っちにシロップをかけてくるんすよ。ぶよぶよしてるけど、俺っちだって痛いんですよ!? 今月で体重が何キロ減ったと思いますか!?」


 そう言って透き通った青い肉体をプルプルさせるのは、飲み込んだ者を溶かして吸収する魔物、スライムだった。


「かわいいじゃないか……じゃ、すまないよな。オーケー、その子の両親と話してくるけど、もしかしたら、お前と仲良くしたいだけなのかもしれないぜ? ――次の方!」


 誰もが悩みを抱えている。どこでだって。


「ラルバザス率いるオークの軍勢が、我らの街を攻撃する計画を立てているという報告があった。

奴らは、すでに街より数キロ離れた渓谷に簡易的な基地を設営して展開しており、貴殿には……」


 名のある騎士が。


「ここはコンサルトギルドだ。戦闘に関しては、戦士ギルドに行ってどうぞ。――次だ!」


「幸運のポーションを作る材料のひとつが見つからないんだよね。もう数年ぐらい色んなところを旅して探してるんだけど、これじゃノイローゼになっちゃうよ。助けて」


 名のある錬金術師が。


「材料探しはコンサルトギルドの仕事じゃない。魔術師ギルドはあっちだ。――次!」


「どうも隣の家で人間やエルフを解体しているようなんです。夜中に窓から覗いてみたら、部屋のあちこちに血が……あぁ、恐ろしい、恐ろしい……」


 善良な市民が。


「治安維持局に行ってくれ!」


 人間と多種多様な者たちが、コンサルトギルドを訪れる。

 さまざまな悩みを抱えて。


「はぁ、今日も悩める人が多いねぇ……」


 そう言って机につっぷしたのは、親しいものから「レビン」と呼ばれる青年だ。

 

 レヴェニー・カシュトレス。

 彼は、かつてSSSランク、それも「最高」とされる「伝説級」に属する勇者だった。


 だが今は、ただのしがない、コンサルトギルドのカウンセラーのひとりでしかない。


 *


 2年前、魔王軍と連合軍――人間と他種族で構成された軍隊の戦いが、ついに終わりを迎えた。

 

 魔王に仕えていた幹部や魔将軍たちの大半が、和平を申し入れ、連合軍はこれを受け入れる。

 端的に説明するとあっけない話だが、和平は多くの者たちによる「活躍」があって成し遂げられた。


 種族にもよるが、そもそも魔物たちと人間は、大戦前から共通のコミュニティを築いていた。

 いにしえの頃から人間は、自分たちと違う種族の文化や技術を尊敬し、魔物たちもまたそうした。

 もちろん、始めから仲が良かったわけではない。和平と同じく、これまた多くの者たちによる活躍によって、人間は1つ、また1つと他の種族と手を取り合ったのだった。


 そして魔王軍との大戦は、人間と魔物の絆をさらに深めるという結果となった。

 未だ魔王軍の残党が暴れまわっているが、大きな問題ではない。

 こうして世界にいちおう平和が訪れたのだ。


 しかし戦争の終結は、良いことばかりではない。

 戦いの場を失うと同時に、職を失った者たちが増えた。

 

 勇者である。


 特に「伝説級」に位置する勇者は、そのあまりに強大な力を持つゆえに、国々も扱いに困った。

「抱え込み続ける資金がない」「他の国との摩擦を起こしかねない」「謀反を起こす危険性がある」といった理由で、彼らは「丁寧な態度」で閑職に追いやられるか、豪勢な住まいを宛がわれて隠居を薦められた。


 この扱いに、伝説級の勇者たちは不満を言わなかった。


 彼らのほとんどが、こう言う。


「戦いは、もううんざりだ」


 一方、国々が大戦の事故処理をしていると、国民や兵士たちが心に「大きな問題」を抱えていることがわかった。大戦が終結しても尚、戦争の幻聴に苦しむ者たちがいる。なかには、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こし、療養所に長期入院する者もいた。

 

 この事態について、国々は重く考え、カウンセラーという職業が求められた。大戦によって負った心の傷を癒す者が必要とされたのである。


 また世界では、種族の「差別」の問題が永らく放置されていた。

 

 オークだからといって、粗暴な者として差別される。

 サキュバスだからといって、娼婦として扱われる。

 悪魔族だからといって、魔の者として忌み嫌われる。


 種族同士が手を取り合っているとはいえ、差別はなくならない。


 一定の種族たちは、「差別」という名の刃に傷つけられ、心に深い傷を負っているのだ。


 このような経緯により、新たなギルドとして、コンサルトギルドが生まれた。

 大戦がもたらした心の傷を癒すため。

 種族たちの悩みを解決するため。


 *


 元最強の勇者であったレビンは、「国の事情」と「個人的な事情」があって、カウンセラーの仕事をしている。

 今日も大量の悩める者たちが現れ、いくつかを解決し、いくつかは「進行中」となった。


 最後のひとりを片付けると、時刻は正午を過ぎていた。

 午後のパートが始まる14時になるまで、しばらくは身体を休めることができる。


 机に長時間座っていたレビンは、大きく伸びをし、机に広がった書類を片付け始めた。


「レビンさーん」


 すると部屋の扉にノックがされ、レビンが返事もしないうちに、二房の三つ編みを肩に垂らしたエルフの少女が現れた。


 ぱりっとしたスーツを着た彼女は、コンサルトギルドの受付嬢、パーニャ・ルトヴィン。ギルドを訪れる患者に対応し、彼らの診断書をまとめることを主な仕事にしている。

 エルフ特有の三角耳には、耳にかけるタイプのエコーボックス――声を飛ばし、遠くの者と会話する機械を装着されていた。


「おぉ、パーニャ。何の用だ?」


「お疲れのところ悪いんですが、外部のカウンセリングの依頼でーす」


 間延びした声を出すパーニャは、見た目は少女にしか見えないが、レビンは彼女の年齢を知らない。エルフは長命かつ身体の成長が遅い。幼女のような姿をしたエルフが、じつは100歳を超えている場合もあるのだ。


 急な仕事の依頼に、レビンは「えぇー」とぼやいて、とても嫌そうな顔をした。


「俺は昼食も摂れないのか? 朝から何も食べてないんだぞ」


と、レビンは抗議するが、パーニャは「そんなこと知らん」という態度で肩を竦める。


「まぁ別に、レビンさんが好きにゆっくりしてくれても良いんですけどー。これはマーティン市長の仕事ですって、いちおう言っておきますよー」


 パーニャはどこか棘のある言い方で、レビンに忠告した。


 マーティン市長は、レビンの住む「トヴァール」という街を治める男だ。コンサルトギルドは世界にいくつもあるが、コンサルトギルド・トヴァール支部は、ギルド本部だけでなくマーティン市長のサポートがあって運営されている。


 すなわち、マーティン市長の「お願い」は断るべきではないのだ。


「あぁ、ちくしょう。はいはい、いま行きますよ」


 依頼主を聞いたレビンはがっくりと頭を垂れ、上着を取って立ち上がった。


 顔の知らない誰かの心を癒すために。 


 *


 トヴァールの中央にあるコロニアン商店通り。

 通りの真っただ中で、背の低い少年と銀髪の少女が二匹の人外の者に絡まれていた。


「おうおうおう、ねーちゃんよー。オレのイケイケな服にジュースなんぞかけおって、どぉしてくんのじゃあ、ゴラァ!」


 一匹は、狼人族だった。花柄のTシャツに半ズボン、サンダルを身に着けた二足歩行の狼が、少年と少女に因縁をつける。


 狼人族は見た目は恐ろしいが、じつは聡明な種族だ。種族の誇りと歴史を大事にし、とても義理堅く、そして犬のように人懐っこい。大戦でも人間に真っ先に加勢した種族のひとつである。人間との関係性は、とても良好だ。


 しかし、この狼人族は違った。どんな種族にも「イレギュラー」が存在する。鮫のように牙が生え揃った口を大きく開ければ、少年と少女をひと口で飲み込んでしまいそうだった。


「ど、ど、ど、ど、どうしてくれんのじゃー。こらー」


 もう一匹は、触手の塊だった。ウネウネと蠢くピンクの触手が丸っこい人間の形を取っている。人間でいうと顔がある場所に、2つの黄色い光が浮かび、爛々と光っていた。


 この触手の塊は、魔族の一種、ローパーである。触手を伸ばして獲物を捕まえ、体内に蓄積された酸性の粘液で装備や肉体を溶かしてしまうという、恐ろしい種族だ。野良のローパーは他の種族に駆除されることが多く、国や街の住居権を持つ個体は少ない。


 ところが、このローパーには魔族としての威厳がなく、まったく無害なように見えた。


「スミマセン、スミマセン、ユウシャサマ、タスケテー」


 二匹にからまれた少女が、壊れた機械のように助けを求める。しかも、なぜか腕を組んで仁王立ちをしていた。


 まるで人形のような少女だ。著名な芸術家が生み出した人形の如く、すべてのパーツが完璧に整っている。雪のように肌が白く、銀色の長い髪をバレッタで後ろにまとめている。彼女の肌の色とは対照的に、身に着けているエプロンとスカートが一体化した服の色は、闇よりも暗い。


「や、やめろ! け、汚らわしい魔物め! この人に、て、手を出すな!」


 少年が銀髪の少女をかばいながら叫んだ。腕を広げて少女を後ろにやるまでは良いが、完全に腰がひけている。

 彼は一般的な冒険服を身に着け、胸には勇者候補生を証明する紋章があった。


 大戦が終わり、勇者の仕事は少なくなったが、すべての仕事がなくなったわけではない。戦士ギルドでも手に負えない危険な魔物の討伐に、低~中堅クラスの勇者の手が駆り出されることがあるのだ。また、名のある家柄によっては、古くからの伝統として息子や娘に勇者の「洗礼」を受けさせ、冒険の旅をさせることも多い。


 勇者候補生の少年と銀髪の少女は、先ほど会ったばかりの仲だった。少年が通りを歩いていると、少女が突然追いすがり、間髪入れずに狼人族とローパーが現れたのだ。


「おぉ、ちっこいのがいっぱしに勇者気取りかい。オレとやんのか、ワレェ」


 銀髪の少女をかばう少年に対し、狼人族は牙をむき出しにして威嚇した。


「ち、ちち、ち、チビのくせに、やや、や、や、やんのか、われー」


 ローパーの方は相変わらずだ。威嚇しているのか、恐れているのか、全身の触手をブルブルと震わせている。震えの理由は、もちろん後者だろう。


「ど、どうしよう……ぼ、僕だけで勝てるかな? 二匹とも強そうだし……」


 小さな勇者は、誰にも聞こえないようにつぶやいた。

 人狼はともかく、怯えまくっているローパーの方を強敵と見定めるのは、勇者としては「節穴」と言わざるを得ない。


 援軍を求めて顔を左右に振るが、コロニアン商店通りにはまったく人がいない。見物人はおろか、国の平和を守るために常駐しているはずの「治安維持局」の職員の姿もなかった。


「待ちたまえ!」


 噂をすればなんとやら。コロニアン商店通りに警告の声があがる。

 

「貴様たちは法を犯している! 無駄な抵抗はやめろ! 死か牢獄か、今すぐ選べ!」


 鋼鉄製の装備で固めた治安維持局の男が現れた。男の頭は、フルフェイスのヘルメットに覆われており、その表情は窺い知れない。


「うるせぇ、治安維持局の犬が!! これでも食らいやがれ!!」


 突然現れた新たな敵に対して、狼人族は過激に反応した。

 彼が巨大な腕でアッパーカットを繰り出すと、治安維持局の職員が苦痛の悲鳴をあげて吹き飛ぶ。その先には果物を詰めた木箱があり、鎧に包まれた身体が激突すると、けたたましい音を立てて砕け散った。


「こ、こ、こんにゃろ!! こんにゃろ!! ま、参ったって、い、いい、い、言え!」


 果物の残骸まみれになった男に、ローパーが追い打ちをかける。ピンクの触手を鞭のように振るい、ビタンビタンと男を打ち据えるが、あまり効果があるようには見えない。触手を振るいながらローパーは、「ご、ごめんなさい」と謝罪の言葉を重ね続けた。


 一秒も経たないうちに叩きのめされた男はもちろん、ローパーも、何とも情けない様だった。


「ゆ、勇者さま……ど、どうかお助けを……」


 ローパーに触手をペチペチされつつ、治安維持局の男は力ない悲鳴をあげた。


「ユウシャサマ、タスケテー」


 銀髪の少女も力ない悲鳴をあげた。こちらは抑揚のない声で。

 

 二人に助けを求められた少年は、しばらく迷っていた。しかし、人のいないこの場で彼らを助けられるのは、自分しかいないと察すると、意を決して背中の鞘から剣を抜き出す。装飾の多い片手剣だった。


「僕は、僕は勇者なんだぁぁぁぁぁ!!」


 勇者候補生の少年が力の限り叫ぶと、ロングソードの刀身がまばゆい光を発する。


 目を焼くような青白い光の奔流に、狼人族とローパーは驚愕し、反射的に後ずさった。

 少年も自分が発現させた力に驚き、目を丸くして刀身を見つめる。

 ちなみに、銀髪の少女はどうでもよさそうに事態を眺めていた。


 驚きを頭の片隅にやって、少年は剣を真横に振るう。刀身を覆っていた青白い光が飛び出し、それは三日月となって狼人族とローパーに襲い掛かった。


「ぎゃおん!」


「いひゃい!」


 手にした武器に自身の魔力を集中させて飛ばす技、「スプレッション」が直撃した二匹が、それぞれ悲鳴を上げる。

 

 スプレッションは、熟練の者が使えば、人体はおろか建物すら両断する技だ。しかし少年のそれは威力が低く、魔力の収束も不安定だった。三日月の形をした魔力が二匹にぶつかると切断ではなく小爆発を起こし、すぐさま霧散してしまう。


「ちくしょお、なんて力だ! これが覚醒した勇者の力ってやつか! こいつは敵わねぇ!」


 だが、魔物を撃退するには十分だったようだ。狼人族はビシリと少年を指さすと、「覚えてろよぉぉぉ!!」と、漫画のような捨て台詞を吐きながら逃走した。


「お、覚えてろよー!!」


 狼人族に追いすがるように、ローパーも逃げ出した。


 かくして悪は罰せられ、勇者は少女を助けることができたのだ。


「アリゴトウゴザイマス、ユウシャサマ。アナタハ、イノチのオンジンです」


 肩で息をする少年の服を、ぐいと引っ張り、銀髪の少女が頭をさげた。

 少年は何も言えず片手を振り、緊張が解けたのか大きなため息をついた。


「あいたた……」


 治安維持局の男が復活していた。二匹の魔物がいないことに気づくと、落とした武器も拾わず少年へと駆け寄る。


「おぉ、勇者どの。悪漢たちを倒したのですね。なんと素晴らしい!」


「でも逃がしてしまって……僕、ぜんぜんうまくやれませんでした」


 少年の顔には後悔が張り付いている。もし二匹の魔物が好戦的であったのなら、自分も少女の命がどうなっていたかはわからない。


 明らかに力不足。勇者の卵は至らなさを痛感した。

 

「いやいや、自分の身を盾にしてか弱き者を守ることなんて、なかなかできることではありませんよ。少女が襲われているにもかかわらず、みんな見ているだけだった」


 治安維持局の男は、自己嫌悪にひたる少年の肩を叩き、右手をゆっくりと振るって周囲を示した。

 

 いつのまにか通りに人が集まっている。彼らは何事なのかと、野次馬根性をむき出しにして少年たちの様子をうかがっていた。


「ぼ、僕は、ただ……いっぱい、いっぱいで。訓練も失敗ばかりで、仲間には笑われるし……僕は、勇者なんかじゃないんです」


「最初からうまく立ち回れる者なんていませんよ。大事なのは心意気です。大切な者やか弱き者を守りたいという、気高き心が大事なのです。あなたは少女を守り抜いた。そんなあなたを勇者と呼ばず、なんと呼びましょう? あなたは勇者のなかの勇者だ!」


 治安維持局の男は、勇者の心構えについて熱く語った。


「ありがとうございます!! 僕、もっと頑張ります!! そして、今度はモンスターに襲われる前に倒せるような立派な勇者になりますから!!」


 熱い思いというものは伝播する。少年は両手をぐっと握りしめて誓った。


「あなたなら、必ずや大きなことを成し遂げるでしょう」


 治安維持局の男が力強くうなずき、直立不動で敬礼した。


 それから勇者の少年は、男と銀髪の少女に挨拶し、マントをなびかせて去っていく。通りを歩く少年の横顔は、自信と決意に満ち溢れていた。


 遅れて治安維持局の部隊が現れて現場を確保し、野次馬たちもばらばらになった。


「はーい、状況終了」


 少年の姿が完全に見えなくなると、彼を勇気づけた男が手を叩き、兜のひさしを上げる。


 フルフェイスの兜から現れた男の顔は、レビンだった。

面白かったら、ぜひ続けてお読みください。

もしよろしければ、ブクマ&評価もお願いします。

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