悪夢の始まり
結露するフレームと外装、
ファンが回って出される熱は白く、
それがまた新しい結露を起こすと、
冷えた風が湿った全身の熱を下げる。
「アルファチームは五分後に出発する!各自最終チェックを怠るな!」
「「ハイ!」」
太陽のまだ上がらない灰色の空に、大きく響き渡る機械音声。
その声を切り裂く輸送ヘリの中へと、
速足で進み始める30人小隊5組、計150人編成の中隊。
彼らは皆重い防具を着こみ、
新品のライフルを担いでいる。
「デルタとエコーは現地でアルファチームと合流し次第、現場の指揮に従え。」
「「ハイ!」」
「はい!」
荒れ果てた平らな砂漠に鳴り響く返事、
中隊長が出した指示に皆が一斉に返事をする中、
一人だけ遅れて返事をする者がいた。
「ロイド二等兵、デバイスがまだ適応しきっていないのは仕方がないが、返事の一つもまともにできない様なら今すぐスクラップ行きだ。それが嫌なら今すぐ最適化しろ。」
「ハイ!大変失礼致しました!」
その者とは3104番、いやロイドだった。
相変わらず錆び付いたその体はみすぼらしいが、
ロイドの所属するエコーチームは皆同じように錆び付いた外装をして、
似つかわしくない新品のライフルを担いでいる。
「エコーチームの小隊長アルマ二等陸尉はこれで5度目の作戦となるが、その他の者は皆初の作戦となる。恐らく死ぬ者も居るだろうが、デバイスで設定されている通り作戦が第一だ。自身の命より味方の命、そして味方の命より作戦を優先しろ。」
「「ハイ!」」
「では作戦始め!」
「「ラジャ!」」
壊れたように同じ返事を繰り返す新兵達。
中隊長の合図とともに皆が一斉に敬礼をした後、
重い防具に上体を揺らされながら駆け足で輸送ヘリに乗り込み始める。
しかしそんな中、走り出すのが少し遅れるロイド。
それはデバイスの問題なのか体の問題なのか……
ほんの数秒遅れてロイドは皆に合わせて走り出すと、
それを歓迎するように太陽が地平線から顔を出した。
「死にたくない……死にたくない。」
輸送ヘリの出す風にかき消される小さな声、
誰にも聞こえないほど小さな声。
漏れ出して止まらない恐怖にロイドはどうすることも出来ず、
ただ無力に輸送ヘリに乗り込む。
「……絶対に生き残って見せる。」
付け焼刃の自己暗示で自分のCPUを安定させると、
ロイドは30席ある内の、操縦席に近い端の一席に座った。
それを待っていたように、
艶消し塗装された黒い装甲の軍人が、
全員に無線で話しかける。
「今回エコーチーム30人小隊の隊長を任されたアルマ05二等陸尉だ、今回の作戦内容は送られたデータの通り威力偵察ではあるが、おそらく殆どが民間人で構成されたこの部隊では接敵しても迎撃は出来ないだろう。むしろ撃滅される確率の方が圧倒的に高いと考えていい。」
「……。」
突然の戦力外通告に、先ほどまで壊れたように返事をしていた全員がフリーズした。
「まぁ……そういう反応になるだろうな、これも最適化の弊害だお前達に罪はない。」
「「失礼しました!」」
「かまわん、現地に着いたら中隊長から指示が出されるだろう、現在ブラボーとチャーリーが隠密偵察を行っている、それを引き継ぎ威力偵察することになると思うが、その時はしっかり私の指示に従ってもらう。いいな?」
「「ハイ!」」
「よろしい、では現地に着くまで各自スリープで待機。」
「「ラジャ!」」
少しの間がヘリのエンジン音にかき消されると、
全員のヘッドパーツが一気に下を向き、
ロイドも同じように下を向く。
すると同時にヘリはエンジン音を鳴らしながら90℃向きを変えると、
その音をかき切るようにプロペラは回転速度を増し、
機体は砂煙を上げ地面からゆったりと浮き始めた。
-------------------------------------
AM8:03
太陽が大地を温める気温の丁度いい時間。
体から漏れ出していた白い煙も、
気が付けば無くなっている。
「起動中……3%……20%」
いつものように暗い世界に鳴り響く機械音声。
「100%……デバイス起動、カメラ接続。」
しばらくして数字が100%になると視界には窮屈な輸送ヘリの中が映り、
正面と左右にはロイドと同じように錆びた外装の人間が並んでいる。
辺りからはヘリの音の合間を縫って、
銃声や爆発音が響く。
全員が起動し下を向いていたメインカメラが正面を見ると、
無線が繋がりアルマ小隊長からの指示が入る。
「全員起動したな、残り1分で到着だ。セットアップに時間がかかっている者は報告するように。」
「「問題ありません!」」
無論そんな者はいない、
誰も報告に出る者が居ないのを確認しきると、
続けてアルマ小隊長は指示を続けた。
「ではこれより目的座標に着陸する。ハッチが開き次第各自速やかに行動に移れ。」
「「ラジャ!」」
当然のように進行していく戦争、
つい先日まで工場で働いていたロイドにとって、
この現状はまるで別の世界だった。
「今から何と戦わされるんだ……威力偵察なんて体のいい使い捨てじゃないか。事前データも装備の取り扱いと基本的な立ち回りとサインのみ。」
さっきの小隊長の話を聞いて、
自身の所属している部隊がどんな部隊なのか、
薄々感づいてしまったロイド。
「こんなのスクラップ送りと何も変わらないだろ……ふざけやがって。」
そう、ロイドの所属するエコーチームは、
寄せ集めの民間人で編成されたいわゆる避雷針のような物だ。
地雷撤去から威力偵察と常に最前線で戦わされる使い捨ての部隊。
「せめて殺される相手位は知りたい。」
しかしそれに不安を唱える者は誰一人いなかった、
無論それはロイドも同じことである。
「装備が6.65mm弾って事は、軍の最低水準であるセラミック装甲すら距離によっては打ち抜けない、ましてや重歩兵の複合装甲なんて傷すらつかない……つまり敵は少なくとも民間人と同じ外装かそれ以下の耐久度しかないはず。」
なんとなく自分が殺し殺される相手の事を考えるロイド、
少なくとも民間人と同じかそれ以下の耐久度しかないと、
無理やり自身を納得させ、
着陸するその瞬間までに弱い気持ちを吹き飛ばした。
しかしアルマ小隊長の言った撃滅される可能性の方が高いという発言、
それが思考にこびり付き不安を助長させる。
「ハッチ開きます!」
操縦席から聞こえる合図。
同時にヘリが地面と接触し揺れがなくなる。
後部の分厚い扉が一気に開き、
日に照らされて間もない砂漠が視界を覆い尽くと、
中隊長から無線で指示が入った。
「デルタ、エコーチーム各員作戦行動開始、A3が2台待機している合流ポイントに警戒態勢で迎え。」
「「ラジャ!」」




