人間2
「起動中9%」
「99%……100%デバイス起動、カメラ接続。」
真っ暗な世界で淡々と話す機械音声。
デバイスが起動すると全身のモーターが回り始め、
内蔵されているカメラが3104番に世界を認識させた。
「ここは……」
UIを読み込みながら見上げる天井は、
とても広く50メートルほどの高さはあり、
そこには無数の太い鉄パイプが乱雑に絡み合っている。
「スクラップ場……ではなさそうだな。」
見たこと無い景色に動揺しつつも読み込みが終わると、
3104番は横を向いて自分が何処にいるのかを確認した。
「あぁなるほど。」
そこに映る光景を目の当たりにして、
自身の置かれている状態を当たり前のように、
とても簡単に理解すると、
3104番は上体を起こし寝ていた台座から足を下ろした。
「調子はどうですか?」
すると座っている3104番に対して、
片膝をついて質問をする白衣を着た人間。
辺りはとても広く、
他にも大量の人間が同じ方向を向いて寝ている中で、
他にも数人白衣を着た人間が歩き回っている。
「お陰様で随分マシになりました。」
「ならよかった、では今後劣化したバッテリーを液量不足の状態で使用し続けるのは控えてください、露出した金属がスパークを起こして水素ガスに引火すると、今回のように爆発する原因になりますので。」
「すいませんでした、以後気を付けます。」
「お願いします。バッテリーの方は新しいのに変えてありますのでご安心ください、壊れたサスペンションの方は内科では請け負っておりませんので、受付で再度外科を受診して頂けたらと思います。」
「色々ありがとうございます。」
「いえ、今後とも身体は大事にしてくだいね。」
「はい。」
3104番は自分に何があってここにいるのかが分かると、
少し安心して弾けたサスペンションに視線を向ける。
それを見た白衣の人、
もとい医師はモーター音を鳴らしながら立ち上がり、
背を向けた。
「……えっとその」
医師が立ち去ろうとするのを食い止めるように、
申し訳なさそうに声をかける3104番。
なにか言いたげな彼に対して医師は親切に応答する。
「どうかしましたか?」
「保険って……。」
「もちろん利きますよ、持ち合せがないようでしたらインビジブルコインまたはクレジットカードでのお支払いも出来ます。」
「そうですか、よかった。」
「では私はこれで、また何かあったら気軽にお声掛けください。」
「はい、ありがとうございました。」
あらかた不安要素が取り除けた事に改めて安心する3104番。
医師が遠くに行くのを確認した後、
近くに置かれていた自身のカバンの中を漁ると、
端末で所持金を確認する。
「これは……カードつかうしかないか。」
残金が少ない事が分かると、
3104番はしぶしぶクレジットカードを使うことを決意し、
ふらつきながら立ち上がる。
サスペンションが利いていない方の足をかばいつつ、
ゆっくりと歩きだすと、
それに合わせてモーター音は強くなった。
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その後言われた通り受付で外科を受診し、
サスペンション以外も諸々修理してもらった3104番は、
やっとの思いで帰路に着く。
彼の帰る足並みは修理前よりも軽快で、
人混みで溢れる夜の街を素早く抜けて行き、
地下鉄に乗った。
「普通に買い替えるより倍以上出費が嵩むとは……今度からは定期的にメンテナンスしよう。」
あまりの治療費の高さに愚痴をこぼしつつも、
今回の事故は3104番にとっては結果的に意識改善の一環になった事のかもしれない。
「なんなら外装も強化プラスチックにすれば錆びないし軽いしで、結果的にはお得だよなぁ。でもなぁ……高いんだよなぁ。」
金のない悪循環に気を落としつつも、
皮肉な事に身体の調子は良く、
地下鉄を降りるといつもよりも早く家に着く。
3104番は駅を降りてすぐの巨大な都市ビルに暮らす一般人、
ビルに住んでいると言ってもそこは会社の寮で、
社員合計5591人全員がこのビルに暮らしている。
しかしそれ自体はこの世界では普通の事で、
このビル街に立ち並ぶ殆どの建物が社員の寮であり、
会社である。
「そうだ、職場に連絡入れないと。」
ビルの前まで着くと3104番は現場監督に連絡を入れ、
端末コードをヘッドパーツ横の音声読み取り機に繋げると、
エントランスに向かいながら相手が連絡に出るのを待つ。
しかし……
「……でないな。」
何時まで経っても出ない。
いつもだったらワンコールで連絡に出る現場監督が、
今日は珍しく、というよりは初めて連絡に出なかった。
「もう夜も遅いし、明日かけ直すか。」
3104番は少し不思議に思ったが、
そもそもいつでもワンコールで出る事自体がおかしいのだと決めつけ、
ガラスで出来た自動ドアを潜った。
すると白い蛍光灯で照らされた無駄に広いエントランスが出迎える、
そこからしばらく進んだ先の、
鉄で出来た自動ドアまで歩くと、
声の高い機械音声が話し出す。
「型番と社員番号をお聞かせください。」
「ppp-3000社員番号3104番。」
機械音声の質問に対して3104番が返事を返すと、
再び機械音声が問いかける。
「製造番号をお見せください。」
「はい。」
それに答えるように慣れた手つきでヘッドパーツを上に上げて、
脊髄フレームに刻まれた番号を見せる。
「デバイスチェックを行います、コードを接続してしばらくお待ちください。」
言われたままに背中からコードを出して、
自動ドア横のプラグに差し込む。
ここまでが一連の流れで、
デバイスチェックを終えると自動ドアが開く。
「今日は疲れた……早く油挿してシャットダウンしよう。」
そう、
開くはずだった。
「エラー、製造番号が一致しません、現在こちらの機体は当ビルでは取り扱って無いとの事です。」
「は?」
「他ビルでの所持権をチェックしたところ該当する件数は0、国への個人情報を問い合わせた所、該当する件数が一件、中東アフリカ連合陸軍所属のロイド様でお間違いないでしょうか?」
いつもなら開く扉、
しかし閉ざされたままで語りかけてくる無機質な声。
「ごめん……メモリ足りなくてCPU処理が追いつかない。多分ロイドって人じゃないと思うんだけど……。」
「再チェック開始、製造番号G-55623 型番ppp-3000旧型、デバイス照合……チェック完了。」
まったく現状が理解出来ずに、
唖然と立ち尽くす3104番。
いや3104番だった者。
「管理局より得た情報によりますと、社員番号3104番は当会社を解雇され、明日付けで陸軍に配属された事になっております。ロイドとはその際書類上付けられた名前との事です。」
「……つまり首と。」
「肯定です。」
この世界の会社とは全て国が管理していて国が経営している。
よって配属も全て国が決め、
解雇もまた全て国が決める。
何処で生まれ、
何処で暮らし、
何処で働くか、
そしてどんな名前を持つか。
それらを決める権利は個人には存在しない。
人は国の為に生まれ、
国の為に働き、
国の為に死ぬ。
「次は死ねって事かよ。」
少しずづ自分が国にされた事を理解すると、
ロイドの握った拳からぽろぽろと錆が落ちていった。




