第七話 リラ
昨日は寝落ちしてしまい投稿をし忘れてしまいました。
この小説は八月の間は出来るだけ毎日投稿したいと考えています。
やばいやばいやばい。何で父さんもアニも医者なんて連れてきてるんだよ。
仮病がばれるのは僕の家の立ち位置的にやばい。仮病を使ったのがアンネローゼにばれたらまた、僕の立場が危うくなる。父さんが医者を呼んで、その結果が仮病だったなんて絶対アンネローゼまで知られるにきまってる。
「なんでも今朝は普通だったのにお昼前に急に体調を崩したんだってねぇ」
リラさんはベッド脇に座り、僕の顔を見る。リラさんは柔らかな笑みを浮かべ僕の側にすり寄る。そして耳元に口を寄せ、そっとささやいた。
「仮病」
僕の血の気が引いた。それはもう全力で。
リラさんはそんな僕の様子を面白そうに見ながら顔を離した。体からリラさんの重みがなくなる。
「アルノルト君の診察をするから、アニちゃんとヘロルド君は部屋から出て行ってよ」
「リラ姉さん。私はアルノルトの親だ。診察に同席するくらい構わないだろう」
「アルノルト君の病気が心因性のものかもしれないから、極力、人の目は少ない方がいいんだよね」
「心因性?」
「心の病とでもいうのかな。嫌だなぁ、とか辛いなぁとか、そういう人間の嫌な気持ちによっておこる病気の事。ほら、ヘロルド君だって何か問題のあった年の王国会議の際はお腹痛くなったりするでしょ?」
「精神状態が体に影響するとでも?」
「そのとおりだよ」
「そのようなことが本当に起こるのか?」
「まぁ、世間じゃそんなのは心が弱い、軟弱なだけ、とか言われるけどね。私は立派な病だと思っているよ」
「……わかった。リラ姉さんを信じよう」
リラさんは父さんとアニを部屋から追い出した。僕の仮病には……気づいているんだよな?
「さて、邪魔者は追い払ったよ、アルノルト……長いし、アルでいいか。アル、どうして仮病を使ったんだい?」
「邪魔者……ですか」
「そう、邪魔者。だって、ヘロルド君がいたら君は本当の事を話せないだろう? アニちゃんはいても別に良かったんだけど、それじゃヘロルド君は納得しないだろうしね」
父さんが邪魔者……か。僕の屋敷内での立場の弱さをわかってくれているのかな?
「その、最初に聞きたいんですけど、どうして僕が仮病だと?」
「そんなの、見れば一発だよ。病気の人はもっと元気がない、それにつらそうだ。大体、体調を崩したからって部屋に鍵はおかしいだろう。アニちゃんに話を聞けば君は普段は鍵をかけていなかったようだしね」
ああ、確かに言われてみればその通りだね。看護の人が入りにくくするように鍵なんてしないか。
「えっと、それじゃあ二つ目の――」
「いや、先に私の質問に答えてもらおう、順番だよ。君はどうして仮病を使ったんだい?」
さっきの発言からして僕の仮病をストレスとか、そういう心因性のものと考えているようだけど、実際はただの魔力を感じたかったからですなんて、ちょっと言いづらい。
「あの、仮病の理由なんですけど……」
「ああ、安心してくれていいよ。私は君の――母の姉だ。甥っ子の事を害そうなんて考えてないよ。勿論、ヘロルド君にもチクったりしない。だから、話を聞かせてもらえないかな」
「……心の病気じゃないです。その、ただ、ちょっと時間が欲しかったから昼食を食べるのも億劫だっただけで、別に大した事はないんです」
「……え、あ~そうなの。あ、そうなんだ。へ~」
見るからに落胆している。それに顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。そのしぐさが少し可愛く見えた。
リラさんはベッドの上に倒れこみ、布団に顔を埋めながら話す。
「じゃあ、あれかい? 君はちょっと昼食を食べるの面倒くさかったから仮病を使い、私が呼ばれたと」
「ええ、まぁ」
リラさんは布団から顔を離し、こちらを見る。
「……ヘロルド君も心配性だなぁ。でも、まぁ病人がいなかったのならよかったよ」
リラさんはベッドから起き上がり、僕の勉強机の椅子を持ってきて、僕のベッド脇に座る。
「じゃあ、アルがどうしてそんな仮病を使ってまで何をしてたのか話してもらおうかな」
「別に、大したことじゃないですよ?」
「いいの、私は君の事が可愛くて可愛くてしょうがないんだよ。やっと会えた甥っ子だしね。アニちゃんからちょくちょく手紙はもらってたけど、やっぱ直に話したいじゃない?」
そういえば、僕の伯母という割に今まで一度も、それも存在すら聞いたことがなかったな。どうしてだろう。
「まぁ、そういう事なら。この間エルフのクリスティアンさんが来たんですよ」
「ああ、クリス先生ね、私も子供の頃先生にはお世話になったよ」
「僕もお世話になることになったんですよ。それで、最初の課題として魔力の知覚をできるようにって言われたんですよ」
「うっわ、早いね。普通魔力の知覚なんて六歳、下手したら七歳くらいの頃にやるもんだよ? アニちゃんから聞いてはいたけど、アルは優秀なんだね」
「それで、魔力の知覚を今朝できたんですよ。それで、なんというか、その感覚を忘れないように反復しておきたくて、昼食を休んでずっと反復練習をしてたんです」
「え、なに。もうできちゃったの? ちなみに始めたのは?」
「昨日からです」
「わーお」
リラさんは大きく驚いた様なそぶりを見せる。若干演技臭いが。
「本当にアルは賢いんだね。それに、クリス先生の事だからやり方とか教えてくれなかったでしょ? 『魔力とはこの世界のどこにでもあるものだ~』とか言っちゃて。まぁ自分で知覚やり方を模索した方が今後の魔力量に差が出るから、このやり方も難しいだけで悪くはないんだけどね」
「魔力量に差が出るんですか?」
「うん。魔力の知覚ってさ、要は自分なりの魔力の生成法なんだよね。で、貴族の子供だったりすると、家によっては親が手取り足取り教えてあげるんだよね。そうすると子供でも簡単に魔力の知覚ができるようになるんだけど、それって他の人の魔力の作り方をまねしているってことでしょ? ……私も詳しい事はよくわからないんだけど、誰かの方法で魔力の知覚を終えると、あるところで魔力が増えなくなっちゃうんだよね」
「自分で見つけたやり方ならそうじゃないんですか?」
「……私には断言できないかな。というのもね、この考えはクリス先生が何年か前に学会で発表したの。で、その先生の発表が周りに酷く批判されたの。さっきも言ったけど貴族社会じゃ魔力の知覚は親から子へ代々伝授されていく、いわばその家の伝統だったんだよね。だから学会のお偉いさん、つまりは貴族のおいぼれだね、彼らは先生の発表を間違っている、貴族への冒涜だと罵ったの。だからこの考えはあんまり世間に浸透してなくてね、実例が少ないの。今までは魔力はあるところで成長を止めるものって認識だから」
「父さんやリラさんはクリスティアンさんの方法で知覚したんですよね?」
「そうだね。私隊は先生が発表する前、いわばテスト段階の実験対象って感じかな?きっと私たちの頃には理論の構築は終わってたんだろうね」
魔力量……か。僕の考え――魔素の考え方的には一度の呼吸で取り込める魔素の量が増えるとかそういう事かな? 他の人はどんな方法で考え付いたのかな?
「リラさんはどんな方法で魔力の知覚をしたんですか?」
「私? 私はね……」
それから僕とリラさんは小一時間話した。
どうもリラさんはこの世界の中では前世の人間に近い価値観をもっているようで、話があう。僕の仮病の原因と考えられていた心因性の病気についても話した。
「そういえば!」
「どうしたんですかリラさん」
「私さ、アルにあったら話そうと思ってたことがあったんだ」
「何ですかそれ」
「姉さん――アルのお母さんの事」
「何で、それ忘れちゃったんですか? 結構大事な話ですよね!?」
「アルと話すのが楽しかったから。てかアルがこんな話できると思わなかったんだよ。ほんと、こんなに盛り上がったのは久しぶりだし」
まあ僕の精神年齢は高校生プラス四年で僕は前世の二十歳位……のはずだしリラさんは今二十四歳だと言っているし、それなりに年が近いからね。
ちなみに父さんは二十三。意外と若かった。てか若すぎた。この世界じゃ十八で成人らしく、成人してすぐに父さんは僕とジギスを産ませた事になる。
父さんの年齢を聞いたのは初めてだった。いや、なんか雰囲気とか物腰とか顔つきとかから三十代くらいだと思ってたよ……。ぶっちゃけ老け顔……。
「それで、リアの話なんだけどさ――」
その時ドアをノックする音が聞こえた。
「あの、リラ姉さん。アルの診察が終わったのなら私も話を聞きたいんだが。……その、ずっと外で待っていたんだが、もう診察は終わっだのか?」
僕らが見たのは扉の隙間からこちらを覗く父さん二十三歳だった。
父さんの事忘れてた。
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