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第六話 魔力の知覚

 今日の夕食は何事もなく終わった。クリスティアンさんはもう帰ってしまったようで、アンネローゼが随分とご機嫌になっていた。どうしてそんなに嫌いなのだろうか。アンネローゼとジギスがいたため父さんとも話せなかった。まぁそんなのはいつもの事だけど。



 食事を終えた僕はアニに頼んで風呂を用意してもらった。この世界に生まれて驚いたのは風呂がちゃんとあった事だ。


 なんとなく魔法のある世界では上下水道が整備されていないと思っていたけれど、この国はどうやらしっかりと処理されているらしい。まぁ何かしら魔法で上手くやっているのだろう。




「ふう~」


 僕は浴槽につかった。少し熱い位のお湯が気持ちいい。我が家の風呂は銭湯の様に大きいわけではないが、複数に一緒に入れるくらいの広さはある。


 大人用に作られているので四歳の僕としては大分深く感じてしまう。浴槽の端の方に壁に寄りかかりながら浸かっているのが楽なのだ。


 湯船につかりながら考える。魔力をどうすれば出せるのか。僕は両手で小さな器を作りお湯をすくう。

 このお湯にも魔力はあるんだよな……。


 僕は浴槽の中に潜った。体が浮力により水面に上がろうとする。僕は全身の力を抜いた。風呂の上にぷかぷかと浮いている。顔は水面の中に入ったままだ。


 ……息が続かなくなった。

 お湯にだって魔力はあるのだからこうやってお湯に全身入れば魔力を感じられるようになると思ったけど、そんな事はなかった。


 簡単にはいかないってことなのかな。




 風呂を上がった僕は自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。貴族なだけあって凄いフカフカのベットに布団だ。前世の僕は普通の家庭だったので、こんなにフカフカのベッドで寝た事なんてない。前世でも高級に分類されるだろうベッドだ。全身を優しく包み込み体を温めてくれる。


 目をつぶる。

 頭の中で今日の昼間の出来事を思い返す。魔力に魔術に魔法か、なんかこの世界でアルノルトとして生まれ変わって、一番異世界らしさに触れた日かもしれない。今までは生活の一部としてしか見なかった魔術がグッと近くまで寄ってきた。その事に興奮を覚える一方で、僕は前世とはやっぱり違う世界なのだという事を強く感じた。


 




 目が覚めたら魔力が覚醒していたなんてことはなかった。

 いつも通りの朝だ。


 アニが僕の事を起こし、顔を洗い、歯を磨く。そして朝の読書を終え、食堂へ行く。


 朝食はいつも通りアンネローゼがジギスをかわいがり、それを父さんに話す。僕はそれを聞いているだけ。食事の際は父さんが食事を終えるまで退席してはならないのが我が家のルールだ。


 僕は早くに食べ終わったが、ジギスはまだ食べるのが下手なのか、いつも食事が遅い。それを見かねたアンネローゼが使用人に食べさせるように命じる。そんなことをさせるからいつまでたっても食事が下手なままなのだ。


 ジギスは一瞬自分で使用人に食べさせられるのを不服そうにしたが、母の指示に黙って従い、大人しく食べさせられている。父さんはそれを待つようにゆっくり食べている。


 

 ジギスが最後の一口を食べ終えると父さんもそれに合わせて最後の一口を食べる。

 これで全員が食事を終えた。最初に父さんが席を立ち、次にアンネローゼがジギスを連れて立つ。最後に僕が席を立ち、食堂を去る。それと入れ替わるように食器を片付ける為の厨房の使用人達が中に入る。僕はそれを振り返らず一人部屋に戻った。




 さて、困ったものだ。昨日お湯につかって魔力を含むものに囲まれたら何か刺激があって、僕の魔力が出てくるんじゃないかと思ったけど、よく考えればそもそも僕らの周りにある空気にだって魔力が含まれているんだもんね。普段から魔力に包まれているわけだし、そりゃなんも変化はないか。



 そもそも魔力ってのが具体的にどんなものかよくわかってないんだよな、僕。入門編にも魔力とはって項目があるけど、それはなんというか、化学の授業で酸素とは火を燃やす働きがある……みたいな説明で、魔力の持つ効力は説明しているけど、魔力自体について説明されていないんだよね。この世界では魔力ってのがそもそもそんな疑問を抱かない程当たり前なのか、解明されていないから書かれないのかはわからないけど。



 そうだ、魔力が何かわからないなら僕のわかるように解釈すればいいんだ! どうせこの世界の人にも魔力がどんなものかわからずに使っているんだ。なら僕も僕なりに解釈して魔力を感じればいいんだ。




 そうなると何をイメージするかだ。前世の世界とこの世界で共通してあるもの。いや、形と言った方がいいのかな? 魔力という物質自体はあるわけだし。なら、魔力は原子の一つとでも考えればいいかな? 酸素とそして空気中にある様に、何か別の物、例えば水素と化合して水になるように。


 


 よし、そのイメージでやってみよう!


 僕は深く息を吸った。そして肺の中身が空っぽになるまで息を吐いた。そして、勢いよく空気を吸う。空になった肺に酸素が満ちていく。それは肺胞を通り、血液の中に入り、血管を通り、体中を回る。体のいたるところで古い酸素と新しい酸素の入れ替えが行われる。


 それと同じ流れを魔力でも意識する。


 僕はもう一度深呼吸を行う。体に酸素と一緒に魔力――いや、魔力の原子、魔素とでもいうべき物を取り込む。その魔素は酸素と同じように体を回る。


 


 その時かすかだが、あの時と同じ感覚が僕の中に芽生えた。体の中に何かがある。しかし、それはクリスティアンさんに魔力を流された時の様な抵抗する為にあふれるようにでてくるのではなく、ゆっくりと、しかし確かに僕の体を血の流れと共に駆け巡る。


「やったぁ!」


 僕は興奮したまま心の声をそのまま声に出した。


「やった! やったよ! 魔力を自力で知覚できた!」


 僕はもう一度深呼吸を行い、魔素を取り込もうとした。呼吸を意識的に行うと体の中で魔力が動くのがわかる。僕は興奮を抑えきれず、その後何度も深呼吸を行った。





 それからしばらくしてわかった事がある。大きく息を吸えば吸うだけ体の中にある魔力の感覚も大きくなる。そして息を吐き切ると体の中の魔力の感覚も小さくなる。やはり魔素――僕が考えた魔力を生み出す元となる物質――を考えた時酸素をモデルにしたからだろうか、僕の呼吸に従って魔力の大きさも変わるようだ。


 ちょっと不便だな。


 でも一歩前進したのがとても嬉しかった。



 部屋にある時計を確認すると、もうそろそろ昼食の時間だった。今はこの魔力の感覚を少しでも長く、そして多くつかんでおきたい。

 


 僕は紙に文字を書き、ドアの隙間から外に出した。

 内容は「体調がすぐれないので、今日の昼食は欠席します」だ。


 僕はこの世界で初めて仮病を使った。




 





ドアをノックする音が聞こえる。きっとアニだろう。僕が扉の下にメモをおいてからもうそろそろ二時間ほどだ。食事を終えたアニが僕を心配して見に来たのだろう。


 メモには寝るので開けないでくれとも書いたが、アニにとっては大事な母さん、リアの子供だ。心配してもしきれないのだろう。

 

 アニには悪いけど、僕は依然深呼吸により魔力を体に流していた。悪いけど扉を開けるつもりはない。


 すると、先ほどよりも少し強いノックの音がした。ノックで僕を起こそうとしているのか? 僕は布団を被り音を遮断しようとしたが、その前に声が聞こえてきた。


「アルノルト、入るぞ」


 父さんの声だ。父さんはこの部屋……というかこの屋敷の全ての部屋の鍵を持っている。

 僕は普段鍵をかけるのが面倒なので、部屋を空ける時以外は鍵を開けっぱなしにしている――元々僕が読書に熱中しすぎてアニがノックしているのに気が付かなかったから開けているのだが。

 

 今日は魔力の知覚を邪魔されたくなかったので珍しく鍵を閉めたが、そのせいで父さんを呼ばれるとは。


 扉の方からはカチャカチャと鍵を開ける音が聞こえる。そして鍵の開いた音がすると同時に扉が開かれた。


 真っ先に入ってきたのはアニ。彼女はベッドにいる僕の所まで駆けよると、涙を流して僕に抱き着く。

 僕としては仮病だし、ましてや朝はぴんぴんしていたのだから大げさだとは思ったが、続いてきた父さんの顔も少し、険しかった。



 そして父さんの後ろにいる人を見て僕は心臓がバクバクし始めた。魔力に流れも一層早くなる。こんな時には、あれほど楽しかった魔力の知覚が嫌になる。血の流れ――脈よりもよくわかる魔力の流れが僕の心理状況の焦りを自覚させ、加速させる。



 父さんの後ろにいたのは白衣を着た赤毛の女の人だった。その首元には前世でもよく見た道具、聴診器、手には大きなカバン。

 その女性は父さんの前に立ち、アニに少し離れるように促し、僕と目線を合わせた。



「君がアルノルト君? 私はリラ・エルネスト。君の母、リアの姉にして医者だ。なんでも君が突然体調を崩したと聞いてね、飛んで駆けつけたんだ」


 やっぱり医者だった。やばい――仮病がばれる。


ご指摘、ご感想などいただけたら幸いです。


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