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第五十話 孤児院生活一日目2

 訓練の見学をすると言ってルークさんが来たのは空き地、木々が一つもなく、地面には草も生えていない。学校の校庭のような場所だった。場所は先程服を着替えるのに寄った離れの側だ。

 

 そこについた時、僕はルークさんが僕らに見せようとした訓練が何なのか理解した。それは孤児院の人間による一対一の戦闘訓練だった。


「うわぁ、凄いわね」


 その光景を目の当たりにしたフィーリネが思わずといった様子で声を上げる。それもそのはず、彼らが行っている戦闘訓練は防具を付けたうえで、互いの武器が木製とは言え、魔法や身体強化を使った模擬戦だった。

 あたりには炎の痕跡や、水の痕が残っていた。

 それを見て、僕は王都でのベネディクトゥスとの決闘を思い出す。僕は傍から見たらこんな戦闘を行っていたのか。いや、勿論戦闘のレベルはこれよりも格段に下なのだろうが。


 僕らが見物を始めた事に気が付いたのだろうか、模擬戦中の人のうち、金髪の男がこちらに目をやる。


「隙――ありです!」


 それに合わせて赤毛の男が瞬間的に速度を上げて金髪の男に近づき、剣を横なぎに振るう。


「ばーか! わざとだよ」


 金髪の男は赤毛の男の攻撃を軽くかわしカウンターとして腹部に回し蹴りを放つ。赤毛の男は防御行動をとれず、その蹴りをくらう。

 無防備な状態で食らった蹴りは男の体をくの字に曲がらせる。それで止まらず、金髪の男は追撃の掌底を腹部に入れる。その掌底は赤毛の男を吹き飛ばす。


「そこまで」


 すると直ぐに近くにいた女性がそう声を上げた。その声を聞き、金髪の男は戦闘態勢を解いた。


「いててて、ちょっとバフィト! もう少し手加減してくださいよ。昼食後なんですよ」

「うっせぇ、それを言うならサムだって俺があいつらに視線を逸らしたのを狙ったじゃねぇか」

「それは模擬戦中に気を逸らすのが悪いでしょう」

「はん、お互い様だね」


 そんな会話をしながら二人は僕らの方に近づいてくる。


「ルーク、どうしたんだよそいつら。今日は農作業とか教えるんじゃなかったのか?」

「休憩ですよ、そのついでに模擬戦でも見学させようかと思いまして」

「なるほどな……。つっても俺らも今終わっちまったばっかだし……サム、もう一戦やるか?」

「なに言ってんですかこの馬鹿は。人の腹を容赦なく蹴っといて。僕は休憩でーす。しばらく休みまーす」


 そういうとサムさんは僕らから離れて地べたに横になってしまった。


「ったく……年中組の模擬戦見せてもしょうがないか?」

「そうですね、できるなら私たち年長組の模擬戦を見せてあげたいですね」

「ベラ……と俺の戦闘見てもあんま面白くねぇか。年中組の模擬戦見せるか?」

「う~ん、できるなら私たち年長組の戦闘を見せてあげたいですね。……よし、なら私が戦います、バフィト、お願いします」

「この後まだ案内あるんだろ? いいのかよ」

「怪我しなければ問題ありませんから」

「はっ! 余裕ぶりやがって」


 そういうとバフィトさんが孤児院の建物の方に歩いていった。


「まぁ、今見てもらったように私たちは普段仕事の無い時や合間に模擬戦を行っています。先ほどの試合を見てもらえばわかると思いますが、魔法も身体強化もありですね」


 そういうとルークさんは屈伸や伸び、体のストレッチを始めた。

 そうして時間を過ごしているとバフィトさんが手に何かを持って戻ってきた。


「ほらよ」

「ありがとうございます」


 バフィトさんが投げたのは木製の武器、レイピアと呼ばれる武器だった。

 ルークさんはそれを受け取ると軽く剣を振るう。


「うん、大丈夫ですね。それでは始めましょうかバフィト」

「はん、その余裕面をすぐに崩してやんよ。ベラ、合図だぁ!」


 先ほどの試合での審判を務めていた女性、ベラさんが二人の間に立つ。僕も二人の戦いをよく見えるように、ベラさんと対面するような位置に陣取る。


 両者武器を携え、構えを取る。

 バフィトさんは右手にナイフを逆手に持ち、左手を前に出し、半身になっている。

 ルークさんは右手に持ったレイピアの切っ先をバフィトさんの喉に向けるように構え、軽い半身になっている。

 二人がにらみ合い、互いの呼吸を合わせているように思える。そんな二人の様子を見てベラさんが手を頭上に構える。


「始め!」


「ファイアーボール」


 ベラさんの合図に合わせてバフィトさんが目の前に三つの火球を生み出す。火球は緩やかな曲線を描きながらルークさんに向かって飛んでいく。火球はプロ野球選手のストレートのような速さで飛んでいる。


 それをルークさんは後ろに飛ぶ事でかわした。しかしその間にバフィトさんはルークさんとの距離を詰めている。

 互いの武器の間合いを考えればナイフを持つバフィトさんの方が距離を詰めたがるのは当然だ。その陽動に魔法を使ったのだろう。


 ルークさんは宙に浮いてしまっていて、回避をすることができない。

 バフィトさんとの距離が残り一メートルになるかという所で突如地面が隆起する。


 あれはアースウォールという魔法で地面を板状に隆起させる魔法だ。バフィトさんの特攻に合わせてルークさんは壁を作ったのだ。バフィトさんが壁にぶつかる、そう思った時にバフィトさんが叫んだ。


「アースランス」


 アースウォールと同じように、しかし形状を槍型に変えて地面が隆起し、壁に激突する。その結果土の槍と壁は両者砕ける事になった。バフィトさんはそのまま勢いを殺す事なく、崩壊した壁の礫を浴びながらルークさんとの距離を詰める。


そしてその先にはすでに着地を終えて、剣をいつでも突き出せるように構えているルークさんの姿があった。そして壁の崩壊と同時にルークさんは剣を突き出しバフィトさんの胸部を狙う。


バフィトさんは体をひねり回避しようとするがこのままでは間に合いそうにない。そこでバフィトさんは右手のナイフを狙われた場所に構え、ナイフの腹で受け止める。その結果ルークさんの刺突は狙いを逸らされ脇腹の当たりをかすめた。

攻撃をかわされたルークさんだが、そこで攻撃は止まらず、ルークさんの攻撃後の隙を補うように火球がバフィトさんを襲う。


先程とは逆にバフィトさんがその攻撃を避ける。しかし今度の追撃者、ルークさんはバフィトさんに距離を開けさせず、自分の剣の間合いを保ったまま刺突を続ける。

 しかしバフィトさんも流石のものでナイフで刺突を弾きながら体を左右にスウェイさせたりバックステップを使い巧みにルークさんの攻撃を避けている。


 そんなやり取りがいつまでも続く。僕がそう思った時、一人の男が勝負に出た。


 バフィトさんだ。


 彼はルークさんの刺突のタイミングに合わせてバックステップではなく前に一歩踏み出した。木剣に頬をかすめるようなギリギリを避けた。そして低い姿勢でルークさんの突き出した腕をくぐりそのままその腕を左手でからめとる。左手をからめとられ、バランスを崩されたルークさんは前方によろける。その動きに合わせて下から突き上げるような肘内をルークさんの顔めがけて放つ。

 それをルークさんは左の手の平で受け止める。それに対しバフィトさんが掴まれた肘を支点にし、肘から先を回転させ、ルークさんの顔に向けてナイフを向けて腕を振るう。


 バフィトさんの攻撃が決まる――そう思った時――

「そこまで」


 ベラさんが二人の模擬戦を終える合図を出す。それを聞いて二人は動きを止める。


「っくそ!」


 バフィトさんが悔しそうな声を上げる。

 え、何でだ? 今の試合はバフィトさんの勝利ではなかったのか? ナイフでの攻撃が決まる、それが決定打と判断されベラさんが試合を止めたのだと思ったのだが。


僕のその疑問は戦闘を終えた二人が立ち上がった時に解消された。僕の位置からではバフィトさんの背に隠れて見えなかったのだが、バフィトさんの居た位置には一本の槍が飛び出ていた。その槍は先の尖っているだけの簡素な造りで槍というよりは地面から杭が露出しているように見える。あれはアースランスだろうか?

その杭は低い位置、具体的には先程までバフィトさんの腹のあったであろう高さで止まっている。


「ふふ、油断しましたね」

「あーくそ。言い返せねぇ。なんだ、俺を懐に入れたのもわざとか?」

「いいえ、それはわざとではありませんよ。ただ、段々とバフィトの回避が洗練されてきていたので少し警戒していただけです。懐まで入られてしまったのはバフィトの上手さですよ」

「はぁ……その上から目線の発言がむかつくんだよ……。俺が言っても負け惜しみにしかならねぇけどよ」


 そういって、二人はこちらに向かって歩いてくる。


「私たちの模擬戦はどうでしたか?」

「お二人はいつもこんな模擬戦を?」

「俺らがってより孤児院の奴ら全員だな、流石に年少組は身体強化も魔法も使えないからもっと低レベルだけどな」


 二人の言葉を聞いてフィーリネが怯えた様な声で尋ねた。


「その、怪我とかは毎回しているんですか?」


 フィーリネはバフィトさんの脇腹と頬に視線を送る。ルークさんの攻撃を受けた箇所だ。頬の方は血が滲むように出ていて、脇腹の方は服が破け、その周辺に血が染みてしまっている。


「いや、こっち程度の傷はよくできるけど、腹ん所の傷はあんまりねぇな。これくらいの傷だとちゃんと治せる奴すくねぇしな」

「それに対人の模擬戦で武器を使うのは十歳を過ぎてからです。それまでは素手での格闘ですよ。互いに模擬戦での加減を覚えてから武器での訓練に移ります」


 模擬戦での加減……それは僕の出来なかった事だ。僕が無意識に身体強化を使ってしまったからジギスを傷つける事になってしまった。

 その事を考えると体が少し震える。額から血を流し倒れるジギスの姿が脳裏をよぎる。


「どうしました?」

「え、ああ、すみません。少しぼーっとしてました」

「で、お前はどう思ったよアルノルト。俺らの模擬戦は」

「フィーリネと被りますけど、やっぱり模擬戦とは思えない位本気に見えましたね。それが恐ろしく思えます」


 僕の体験した戦闘はジギスとの訓練を除けば、ベネディクトゥスとの決闘、ニクラウスの配下との戦闘、その程度のものだ。それらの実戦と比べても遜色ない迫力を二人の模擬戦から感じた。


「まぁ、年少、年中組は年長者がいない所での模擬戦は禁止していますし、ここで過ごしていればそのうち慣れますよ」


 そういうルークさんは苦笑した。


「……まぁそんなとこか。俺はいい加減腹がいてぇから婆ちゃんのとこ行ってくるわ、アルノルト達はこの後も作業がんばれよ」


 そういってバフィトさんはこの場を去った。


「それじゃあ気を取り直して、次の作業の場所に行きましょうか」


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