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第四十七話 孤児院に到着

お久しぶりです。

「よーし、お前らよくやった。無事ここまで着いたな」


 馬車が止まるのとすぐに外からトゥールさんの声が響く。僕らは何事もなく孤児院にたどり着く事が出来た。


 途中馬車の中に休憩に来たトゥールさんによるとこの森の中に魔物が全くいないわけではなく、今回一匹も出くわさなかったのは運がいいとのこと。


「さて、それじゃあ降りよっか」

「う、うん」


 少し緊張したような声でフィーリネが返事をした。まぁ、無理もない。僕は馬車から降りて馬車の通ってきた道を見る。


 そこには馬車の車輪によって踏みつけられた草の後が続いている。そこから少し視線を上にあげると太陽を遮るように生い茂る木々の葉たち。まだ午前中だというのに僕らの元には太陽の光は届かず、薄暗い景色が広がる。木々の隙間から何かしらの動物の鳴き声やそれらが動く音が聞こえる。

 薄暗い場所で得体のしれない音。いくら聡明だとはいえ、七歳の女の子には少し怖い風景かもしれない。


 そして僕は馬車の進行方向を向く。そこには石造りの建物が見える。建物は一階建てで二階がある様には見えない。建物の周りには柵の様な物はなく、建物のすぐそばのみ草が綺麗に刈られていて土の色が見えている。


 僕が馬車を降りた後すぐにアニが降りてくる。そしてその後に――


「やっぱり……なんだか不気味ね」


 ――声を震わせたフィーリネが馬車の中から恐る恐る降りてくる。馬車の中にいても外の明るさが暗くなっているのはわかったため、途中からフィーリネが少し怖がっていたのだ。それは今もまだ続いているようで、その目は周囲を警戒しているように見える。


 アニの服の端を指先でつまんでいるフィーリネの様子は以前聞いた父さんへの反抗を企てていた少女と同じ人間とは思えないほどに弱弱しく、微笑ましく思える。


「それじゃあ院長の元まで案内させてもらいます。アルノルト君、ついてきてくれるかな」

「わかりました。お願いしますルークさん」

「よし、ルーク以外の奴は今の護衛の反省会だ。お前らから後でルークにも伝えとけよ」


 トゥールさんがそう言って少年達を一列に並ばせる。それを横目にムツィオさんが馬を馬車と繋いでいた


「私はここでしばらく待たせてもらいますよ。馬に休憩をさせてあげたいので」

「わかりました。それじゃあアニ、フィーリネ行こうか」


 僕らはルークさんについていき、孤児院の建物の中に入った。





 建物の中は予想よりも綺麗にされていた。実家の屋敷とは比べるまでもないとしても、この世界の一般の住民の家と同程度の清潔さなのではないだろうか。壁や床が古く、使い込まれているせいで多少汚く見えるがそれでも埃の量から毎日掃除されている事がわかる。


 廊下を進んでいくと、いくつかの扉が見えるが、全て閉じている。


「こちらの扉は?」

「教室や作業部屋ですね。後でそちらも案内しますが、今は院長の元に行きましょう」


 僕らは廊下を真っすぐ進んだ。



「院長、ルークです。今戻りました」

「はいりな」


 ルークさんが廊下突き当りの部屋の前に立ち、ノックと共に帰宅を告げると中からしわがれた声が帰ってきた。


「失礼します」


 ルークさんが扉を開け、中に入っていく。僕はその後についていく。


「よく来たね」


 僕たちが部屋に入るやいなやそう声が聞こえた。声の主は僕らの正面にいて、机に向かって何か書き物をしている。

その人物は真っ白になった髪を頭の上でお団子にしている老婆だった。そして髪をお団子にしている事で老婆の耳があらわになっている。そこにあったのは僕らの持つ耳とは別の形――細く長く伸びた――エルフの耳だった。


「とりあえず座んなよ。そこに椅子が重ねてあるから勝手に使いな」


 老婆が指さした所には木製の装飾もない、簡素な椅子が五脚程積み重ねられていた。アニがその椅子を人数分持って僕らの前に並べる。


 僕らがその椅子に座ろうとしたとき、再び老婆が口を開いた。


「ルーク。あんたは席を外しな。……そうだねぇ、少し早いが表にいるトゥールや御者の分も含めて昼食の準備をしておきな」

「わかりました。それでは失礼します」


 ルークさんは彼用にアニが用意した椅子を先ほどと同じ場所に戻し、部屋から出て行った。


「まずはアニ、フィーリネ、あんた達がここに来た理由から話しな」


 目の前の老婆はルークさんが部屋を出て行くなり、僕らにそう尋ねた。


「あんた達は元々ウチにくる予定じゃなかっただろう? 何でこの坊主についてきたのかって聞いてんだよ」


 老婆は荒っぽいい言葉で話しながらフィーリネとアニを睨む。その眼光にフィーリネがたじろぐ。それを見てアニが意を決した様な顔で老婆を睨み返し口を開く。


「私はアルノルト様にお仕えしています。それはアルノルト様がお屋敷を追い出されたからとて変わりません! アルノルト様が遠い地に行くというのなら私もご一緒する……この答えでは満足していただけませんか?」

「ふん、まぁいいさ。じゃあ次」

「わ、私は……」


 フィーリネが大きく息を吐き、顔を上げる。


「私はアルの父親への抗議の為です。彼のした事は確かに罪になる事ですが、屋敷から追い出す程の事だとは思いません。それに彼の母親の実家を全く慮らない措置に抗議する為に私ができる事は彼の父親の管理責任を問われるような行動をする事だからです」

「はん、小娘が何を言ってるのやら。それがあんたらの実家同士の関係を悪くする事だとは思わないのかい」

「……今回の場合悪いのはアルの父親です」

「正当性の話はしてないよ。どちらに正当性があれ、家同士の関係は悪くなるのは避けられないだろうね」

「それでも!」

「その関係の悪化をあんたがより深刻にしたって言っているんだよ。それに私はその坊主の親が絶対的に悪いとも思えないね」

「あなたは彼がどんな扱いを受けてきたか知らないから!」

「あんたは坊主の父親がどんな人間か知っているってのかい?」

「……」


 その言葉にフィーリネが言葉を詰まらす。フィーリネが父さんについてどんな印象を持っているのか詳しくは聞かなかったが、どうやら相当に悪い印象を持たれているようだ。


 僕としては、父さんの言葉を信じているから僕が捨てられたとはあまり考えていないが、フィーリネにとっては違ったようだ。


「ふん、まぁいい。虐めるのはこれくらいにしようか」


 老婆は立ち上がる。


「アルノルト・リーベルト。あんたがここに来た原因はあんたの親から手紙で伝わっている……が、あんたの口から話しな」

「わかりました」


 それから僕は事の顛末を話した。その間老婆は一度も瞬きする事なく僕の事をじっと睨んでいた。


「なるほどねぇ。あんたの事情は分かったよ。……さて、それじゃああたしも名乗っておこうかね。あたしはロザリンド・ウォロノフわかってると思うがこの孤児院の院長だ。各々に理由があるだろうが、孤児院うちはあんた達を歓迎するよ」


 ロザリンドさんはそう言うと椅子から立ち、歩き始めた。


「ロザリンドさん、どこに?」

「あんた達を子供達に紹介してやるのさ。ついてきな」


 そう言われ、僕らは慌てて席を立ちあがった。


「アニ、椅子はそのままにしといて構わないよ」


 椅子を片付けようとしていたアニにロザリンドがそう声をかけた。

 僕らはロザリンドさんの後ろについて部屋を出た。


お読みいただきありがとうございます。

ご指摘ご感想等いただけたら幸いです。


8/28 部屋の配置についての発言を一部修正

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