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第四十六話 道中2

 それから再び馬車で最寄りの町まで進んだ。その間に二人からなぜ僕を追いかけてきたのか理由を聞いた。


 アニは僕がいないのならリーベルト家にいる理由はないとの事。実家同然の孤児院への仕送りの他にひそかに貯めていたお金を持ってきたらしい。今後の予定としてはしつけ小屋で雇ってもらえるならそこで働き、無理なら近所の町で酒場かどこかで働くつもりらしい。

 貴族に仕えた、それも伯爵家に勤めていたという実績はそれだけでその者の能力の高さを保証する。アニの場合は元々僕の母親が拾ってきた故、能力の高さで雇われたわけではないがそれは傍から見てもわからないだろう。

 更に言えば、アニは他の者よりも出自が劣る中で働いてきた。その結果今では他の者に劣る事のない能力を手にしている。


 フィーリネは僕の処罰について納得いっていないからだそうだ。親族とは言え、他家の子供の家出を見逃したとあっては父さんがフィーリネの実家から責任問題を追及されるのは目に見えている。

 それがフィーリネなりの抗議、意趣返しのつもりらしい。父さんからしたら迷惑甚だしい行為だが。


 しつけ小屋周辺にとどまるつもりのアニと違ってフィーリネには居場所が判明した時点でリーベルト家かエルネスト家から迎えが来るだろうが、それまでは僕と一緒に居るつもりらしい。


 まぁなんにせよ、僕としては二人がついてきてくれることが嬉しいのでその事だけで十分に満足している。






 それから十日ほど馬車で街道を進んだ。幸いなことに盗賊に襲われたり危険な魔物が襲ってくるという事はなかった。


 そしてしつけ小屋に一番近い町までたどり着いたのだった。


 今晩止まる宿の前まで行き、そこでアニがチェックインの為の手続きをしている。その間僕は表でムツィオさんとトゥールさんと共に手続きが終わるのを待っていた。


「この町から孤児院まではどのくらいの距離があるんですか?」

「子供の足で歩いて二時間ほどって感じだな。大人ならもう少し早い。馬車なら更に早いな」

「意外と距離があるんですね。孤児院っていうくらいですから普通なら街中にあると思っていたんですが」


 そうでなければ、孤児が集まらないのではないか? 町から二時間だと子供が一人で移動するのには随分と危ないように感じられるが。


「婆ちゃんが人嫌いなんだよな。だから町からは離れた場所に住みたいんだと」


 孤児院の院長なのに人嫌いなのか。僕の勝手なイメージなのだが孤児院の院長というのは聖人の様な優しい人で、博愛主義者の様な人間をイメージしていたので人間嫌いというのは意外だった。


「そうは言ってもそんなに離れていては孤児が集まらないのではないのですか?」

「その点は心配ないな。孤児院の連中がこっちに買い物に来たりした時にいつも街中に孤児がいないか見回りしてるしな。それに、このあたりじゃうちの孤児院は有名だからな。冒険者の子供とか、兵士の子供とかそういう死の危険がある職種の奴らは大物と戦ったり、魔物討伐作戦の決行前だったりに婆ちゃんにもしもの時はお願いしますって頼みに来るしな」


 そうしているなら親に捨てられた子供以外はほぼ確実に孤児院に行く事ができるだろう。そんな事を話しているとアニが宿から出てきた。


「アルノルト様、手続きが済みました。すぐにお部屋へ行かれますか?」

「うん、そうさせてもらうよ」

「よし、じゃあ、俺はここらの店で昔馴染みと飲んでくるかねぇ」

「明日の護衛に支障がないようにしてくださいよ? 明日はもう隊商が組めないんですから」

「大丈夫だって。それに明日はウチのガキ共も呼んでるから護衛の手は増えるから」




「ええ、わかりました。……ムツィオさん、ここまでありがとうございました。急な人数の増加もあったのにそれを快く引き受けてくださって」

「はは、別にどうってことは無いですよ。それに坊ちゃんの書いてくれたこの手紙で余計に掛かった経費も旦那さんが払ってくれるってことなら損失も出ないですしね。礼なら私より、この旅路ずっと馬車を引っ張てくれたこいつを褒めてやってください」


 そういってムツィオさんは馬車に繋がれた馬を撫でた。馬は嬉しそうな声で鳴いた。


「トゥールさんもありがとうございました。明日もお願いします」

「おう、それじゃあまた明日な」


 僕はアニと共に宿の中に入っていった。それから明日に備えて僕らは早々に床についた。



 翌日僕らはムツィオさんやトゥールさんとの待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせより早くついたつもりであったが既に待ち合わせ場所にはムツィオさんにトゥールさん、そして転生前の僕と同じ年ぐらいの少年少女が五人ほど一緒にいるのだ。


「おう、来たか」

「トゥールさん、彼らは?」

「ああ、紹介する。こいつらは孤児院の奴らだ。おい、お前ら」


 トゥールさんが少年達に視線を向ける。すると少年達の中の一人が一歩前に出てきた。


「初めましてアルノルト君。私はルークと言います。今日はトゥールさんの計らいでアルノルト君の護衛をさせてもらう事になりました」


 ルークと名乗る少年は僕に礼をする。薄茶の長髪が揺れる。ルークさんは体を起こし、後ろを振り返る。


「アルノルト君から見て右からサム、バフィト、アメリ―、ベラです」


 ルークさんがそう言うと四人がそろって頭を下げた。ルークさんは再びこちらを向いた。


「私たちは全員今年孤児院を離れます。これから冒険者になる者もいます。その時の為の練習としてアルノルト君の護衛をしたいのです。構いませんか?」


 僕の顔を見て微笑むルークさん。その表情は同性でもドキッとしてしまう程に魅力的だった。僕はルークさんから顔を逸らし少年達の背後に立つトゥールさんを見る。トゥールさんは僕の視線に築くとニヤッと笑った。同じ笑みでもこちらの笑みは神経を逆なでる笑みだ。

 まるで僕が断らないだろう?とでも言いたげな顔。



 ……まぁ断る理由もないのだが。

 他の貴族なら孤児なんぞというかもしれないが、僕がそういう子供でない事はこれまでの旅の間で判断したのだろう。


「ええ、それではお願いしますルークさん」


 僕は手を差し出した。それに答えてルークさんも手を出し握手をした。僕らは馬車に乗り、街を出発した。









 町を出てから一時間ほど経った。ここまでは平坦な街道を進むのみで大した道のりではなかった。しかし今僕らは街道から道を逸れ、野道を進んでいる。そして今僕らの眼前には広大な森が広がっている。


「よーしお前ら、こっからが本番だからな。ネズミ一匹強靭な魔物だと思え」


 馬車の進行方向からトゥールさんが少年達にそう叫んだ。


「へっ、この道なんてしょっちゅう通ってんだ。今更怖い魔獣なんているかよ」

「駄目ですよバフィト。私たちは今訓練中、それも本当に護衛対象がいるんですよ? 意識は高く持たなくてはいけません」

「そうよ? あんまりサボってるとお婆ちゃんに言いつけるからね?」

「わーったよ。ったくやりゃあいいんだろやりゃあ」


 馬車の外からそんな声が聞こえる。


「彼ら、随分仲がいいわね」

「孤児院というのは多くの場合孤児同士の仲は良くなるものです。自分たちだけでやらなければならない事が多く、協力は必須ですから。それに孤児という事で周囲から馬鹿にされますから、外に敵がいれば結束も固くなりますしね」


 彼らのやり取りを聞いてアニ達がそんな事を話している。彼らやトゥールさんの人柄や振る舞いを見る限り険悪な雰囲気のある孤児院というのはなさそうだ。


 貴族の人間だからと言って嫌われる心配もないし、アニやフィーリネもいてくれる。もしかしたら使用人が敵派閥の人間ばかりだった屋敷よりも住み心地がいいかもしれない。



 そんなことを考えながら僕は森の深くに沈んでいく。


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