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第四十四話 離郷

 あの日、ジギスに負けてから僕とジギスの勝負は勝ち負けが半々くらいになった。ジギスがめきめきと剣の腕を上げるのに対し、僕の上達の程は緩やかだった。

 最初は喜べたジギスの成長も僕と同じ位の実力になると疎ましく感じるようになった。


 そして、事件は起こった。




 いつもの様に模擬戦をしていた時、僕は隙をつかれジギスに剣を振るわれる寸前だった。その時僕は負けたくない、その一心で剣を振るった。手には自然と力が入る。


それは本当に咄嗟のことだった。ジギスに負けるという事が僕の心に焦りを産んでいたのか、僕は無意識のうちに身体強化を使い、剣を振るっていた。


当然強化された僕の腕力で振るわれた剣と打ち合ったジギスは剣を弾かれ手から落としてしまう。

無防備となったジギスに僕は強化されたままの体で木剣を振るった。




ここまでが僕が後に聞いた話。


 その瞬間僕の記憶にあったのは額から血を流し、蹲るジギスと駆け寄ってきたトーマスさん。そして血の付いた木剣を手に立ち尽くす僕だった。







 その後すぐにジギスは医務室へ運ばれた。それと入れ替わりになるように父さんがやってきて、僕に自室で待機するように命じた。


 それから夜まで屋敷の騒ぎが収まる事はなかった。アニが自室待機を命じられた僕の為に夕食を取りに行ったときに耳にしたそうだが、父さんとアンネローゼが大喧嘩をしているらしい。僕の処罰についてだろう。


 アンネローゼとしては元々嫌いだった女――僕の母親――の子供である僕は可能ならこの家から追い出したいだろうから。その上、今回は大事な一人息子であるジギスに怪我を負わされたのだ。僕を殺せと言ってもおかしくはないだろう。


 父さんは……どうなのだろうか。僕は父さんに心配をかけたり、迷惑をかけてばかりな気がする。父さんにも見限られてもおかしくないくらいに。それでもアンネローゼと意見が分かれているという事は僕の処罰についてアンネローゼよりは軽いものを検討しているのだろうが……。


 それから、夜が更けても、僕の部屋に父さんからの連絡はなかった。








「ああ、それではアルへの言伝、頼んだよ」

「かしこまりました旦那様」



 話声が聞こえる。声のする方に顔を向けると、丁度ドアが閉まるのが見えた。ドアの内側には頭を下げているアニがいる。

 アニは頭を上げると、こちらに向かって歩いてきた。


「アルノルト様起こしてしまいましたか?」

「いいよ、気にしないで。それより、今誰か来てた?」

「ええ、旦那様が来ていました。アルノルト様に言伝を預かっております」

「父さんはなんて言ってた?」

「起きたら旦那様の執務室に来て欲しいとのことです」


 ……僕に対する処罰が決まったか。僕は大きくため息を吐く。覚悟を決めるしかないか。どんな結果が出ても僕はそれを受け入れるしかない。


「わかった。アニ、服を用意して、すぐに行く」

「かしこまりました」








「入れ」

「失礼します」


 僕は執務室の扉を開けた。中には険しい顔をした父さんと手に何かの書類を持った執事のカルステンさんがいた。


「来たか。アルノルト、自分がなぜ呼ばれたかはわかっているな」

「はい」

「ならば単刀直入に言おう。お前の処罰が決まった。お前を“しつけ屋敷”に預ける事が決まった」

「しつけ屋敷……ですか?」

「ああ、そうだ。カルステン」

「ええ」


 カルステンさんが手に持っていた資料を机の上に広げる。それは一メートル四方の大きな紙で、上部に「婆のしつけ小屋」と大きく書かれている。詳しくみてみるとそこには子供の教育なんでもお任せ、未成人なら学生も可などと書かれている。


「お前にはこの“しつけ小屋”に行ってもらう」

「それは……勘当という事ですか?」

「アンはそのつもりだろうな。だが、私にその様な意図はない。アンはお前を殺そうと提案してきた」


 まじかよアンネローゼの野郎。いよいよ父さんの前でも猫を被らなくなってきてんじゃねぇか。


「当然、そのような事をするわけにはいかない。だが、ジギスムントは額が割れ、本当に死ぬかもしれない程の大怪我だった。そんな怪我をさせたお前に何のお咎めも無しというわけにもいかないんだ。そこでこの“しつけ小屋”だ。私たち貴族の間ではこの“しつけ小屋”に入れられるというのは実質の勘当だと言われている。あくまでも実質であって籍はそのままだがね。お前が勘当と同じ扱いになる事でジギスムントが当主筆頭になる。その事でアンを納得させた」

「僕がその“しつけ小屋”に預けられるのは期限があるのですか?」

「当面はお前が十歳になるまでの予定だ。そしてそのままリドゲード学院に入学してもらう予定だ」



 それは……僕のリーベルト家の相続権の実質的放棄になるのではないのだろうか。リドゲード学院は全寮制だ。“しつけ小屋”に三年間、リドゲード学院で卒業まで過ごせばすぐに成人を迎える。その頃には伯爵家の人間と縁が出来ているのはジギスのみで、当然家督の相続もジギスになるだろう。


 僕自身は伯爵家の当主になる事にそこまでのこだわりはないのだが。


「さて、昨日の件についてのお前への処罰は以上だ。何か質問はあるか?」

「ジギスには面会できますか?」


 僕はこの地を離れてしまう。ならば、最後に昨日の事を謝罪したい。


「残念だが、それは無理だ。アンがジギスムントとお前を合わせようとはしないだろう」

「そうですか」

「他に質問はないか」

「僕の付き人という扱いのフィーリネはどうなりますか」

「付き人やメイドを連れて“しつけ小屋”に行くという話は聞かない。彼女はエルネスト家に送還されるだろう」


 フィーリネとも、ここでお別れか。アニもこの屋敷に残るのだろう。つまり僕は本当に一人でここを出て行くことになるのだ。


「アルノルト……」


 僕の頬を一筋の涙が伝った。視界がにじむ。目に涙が溜まっているのだ。瞬きをするたびに涙がこぼれ頬を伝っていく。


「……出発は明日の朝だ。準備をしておきなさい」

「わかりました」


 僕はその場を後にした。






「というわけで、僕はこの屋敷を出て行くことになった。今までありがとうアニ、フィーリネ」

「というわけでじゃないわよ! そんな……だって」

「僕はそれだけの事をしちゃったんだよ」

「私がお付き添いすることもできないのでしょうか」

「ありがとうアニ。でも、そういうのは駄目なんだってさ」


 部屋に戻った僕は二人に僕の処罰を伝えた。フィーリネは怒り、アニは悲しんだ。僕は自身の処罰だけ伝えるとベッドに潜り、ふて寝した。




 そして夜が明けた。


「それでは、父さん、行ってまいります」

「……元気でな」


 僕は屋敷の入り口で父さんと向かい合っている。その場には他に誰もいない。伯爵家の長男が家を出て行くというのに使用人たちは誰一人として見送りには来ない。僕の母についていた使用人も少なからずいたはずなんだけど……今回の事で見限られちゃったかな。


 朝起きた時、アニもフィーリネも部屋にいなかった。いつも僕が起きる頃には二人とも僕の部屋で僕の支度の準備をしていたのだが、今朝はそれがなかった。

 そのうえ二人も見送りに来ていない。それが少し……寂しかった。


「……何か困ったことがあれば手紙を送れ。必ず力になる」

「え、わかりました」

「アルノルト」


 父さんが僕を抱きしめる。


「お前がどこに行ってもお前は私とリアの子だ」

「はい」


 僕は父さんを軽く抱き返した。


「それでは本当に行ってまいります」


 僕は今朝用意した幾らかの手荷物を持ち、屋敷の外に付けられた馬車へ向かう。この馬車は家の馬車ではない。御者の人も知らない人だ。


「御者さん、よろしくお願いします」

「もういいので?」

「ええ、僕に見送りは……いませんから」

「……わかりました。まずはこの町の正門に向かいます、そこで同じ方面に向かう馬車と合流します。そちらで護衛の者とも合流する手はずになっています」

「わかりました。お願いします」


 そうして馬車は屋敷から離れて行った。









「さて、正門には着きましたが……何やらもめているようですね、ちょっと様子を見てきます」

「ええ、お願いします」


 御者さんは正門前で一度馬車を止めると騒ぎの起きている馬車に向かっていった。僕はそんな騒ぎをどうでもいいと思い、馬車の中で眠りについた。




「ん……」

 

 馬車が揺れている。どうやら既にリトホルムの町を離れているようだ。僕は体を起こし周囲を確認する。僕の乗る馬車には布がかぶせられており、外からは見えない様になっている。前方には馬を操る御者さんが見え、後方は布がカーテンの様になっていて、それをどけて外の景色が見られるようになっていた。


 カーテンを開け、そこから顔を出す。周囲にはいくつかの馬車や護衛と思われる人間が見えた。

 すると僕の乗っている馬車の後方を歩いていた護衛の者が僕を見て馬車のすぐ近くまで接近する。


「おや? 坊ちゃん起きたのかい? おーいムツィオさーん。坊ちゃん起きたんで俺も馬車乗っていいっすか?」

 

 その男は馬車の後ろから御者さん――ムツィオさんに声をかける。


「わかりました。もう少ししたら一度昼食を取るのに一度キャンプを張ります。それまで休んでいてください」

「了解っす。んじゃあ坊ちゃんそこちょっといいかい?」


 僕は言われるままに横にどいた。男は馬車に飛び乗った。


「リトホルムじゃ坊ちゃん寝てたから自己紹介できなくてなぁ。俺はトゥール、冒険者やってる」

「僕は……アルノルトです」


 僕はリーベルト伯爵家の家名を告げなかった。書類上は伯爵家の所属とは言え、事実上の勘当。僕は伯爵家の人間として振る舞っていいのかわからない。


「よろしくアルノルト。……呼び捨てで構わないか?」

「ええ、気にしませんよ」

「そっか、んじゃあしばらくの間よろしくな」


 こうして僕は生まれ故郷であるリトホルムの町を離れた。


投稿頻度が著しく落ちています。私の書くモチベーションが保てなかった事が原因です。不定期になりますがまた更新を再開したいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がやらかし魔というか、情緒不安定なのが面白かったです笑
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