第四十一話 新顔
新年初投稿です
僕が王都から戻って半月が経った。この半月、僕は屋敷の外に出る事を禁じられていた。屋敷の中であっても、自室から出る事を許されなかった。
王都に行く前はこのような時間があればクリスティアンさんから貰った本でも読んで知識を深めていたが、今やその本は手元にない。あ~誰があの本を買ったのかなぁ。僕はベッドに横になり真っ白な天井を見上げていた。
「アルノルト、ここの記述の部分について聞きたいんだけど、いいかしら」
僕は目を開き声のした方を見る。そこには本を開き、ページの中の一節を指さしている少女が立っていた。
「そこは身体強化のページに書いてある事を見返すとわかるよ」
「……本当ね、ありがとうアルノルト」
「いいよ、またわからない事があったら聞いてねフィーリネ」
僕の目の前にいる少女、フィーリネ・エルネスト。僕の母親の実家、エルネスト男爵家の親戚筋の人間で、僕の乳母であるところのゼルマの娘だ。
僕がこの町に戻ってきた次の日、彼女はゼルマと共に屋敷を訪れた。以前パーティー会場で言っていた僕の従者になるという話は本当だったらしい。別に嘘だとも思っていなかったが。
そして、どういうわけかフィーリネは僕の部屋に居座る事になった。従者として身の回りの世話をするためらしい。そのせいでフィーリネは僕と一緒に部屋に軟禁されるという事になったのだ。僕は自業自得なのでこの処遇に文句を言うわけにもいかないが、フィーリネはただの巻き添えだ。
リトホルムの観光すらできないし、屋敷を見て回る事すら許されない。父さんはフィーリネに軟禁を強要していないが、ゼルマやフィーリネ自身が僕が部屋から出れないのに、観光をする等あり得ないと言って僕と同じ境遇を望んだのだ。
僕の部屋で何かできないかと考え、フィーリネに何かやりたいことはあるかと聞いた。そしたらフィーリネは僕に魔術を教えて欲しいと言ってきた。僕だってつい最近までまっとうに魔術を使えるわけではなかったのだが、教えを請われて悪い気はしない。
とりあえず今はクリス先生の最初の本――王都で紛失した方ではない――を渡し、これで基礎的な知識を覚えてもらう事にした。
それから今日までフィーリネは本を読み、わからないところは僕に聞いて魔術について学んでいった。さすがこの世界の人間か、僕がフィーリネの体に魔力を流したらすぐに魔力の知覚を済ませる事が出来た。
まだ魔術を使うまでには至らないが、きっとすぐに身体強化や魔法を使う事が出来るようになるだろう。
そうして僕の部屋でフィーリネが魔術の勉強をする日々が過ぎ、さらに半月が経った。
僕が軟禁生活を始めてから一月、いつもなら部屋の中に朝食が運ばれてくるのだが、今日はメイドの一人が食堂へ来るようにと父さんから言伝を預かってきた。
僕はフィーリネとアニと共に食堂へ向かった。食堂に着くと既に父さんとアンネローゼ、ジギスが席に座っていた。以前と違うのは僕の席の隣にフィーリネ用の席が用意され、ジギスの隣に真っ黒な髪をした少年が一人座っている事だ。
その少年は食堂に僕が入った時一瞬だけこちらに目を向けるがすぐに目を逸らし何もない正面の空間を見つめる。恐らくフィーリネと同じような立場のジギスの付き人だろう。
「来たか、アルノルト。座りなさい」
父さんに促されるままに、僕は席につく。そしてそれを確認した後、フィーリネが隣に座る。僕らの背後にはアニが控える。
「全員そろったな。それでは食事を始めよう」
父さんが食事に手を付けるのを確認してからリーベルト家の者が食事に手を付け始める。それから付き人達が食事に手を付ける。
全員が料理に口をつけたのを確認し、父さんが口を開いた。
「今日でアルノルトへの外出禁止を解く。当然だが再び危険な真似をした場合今回よりも重い罰を与える。よいな」
「はい」
「アルノルトの件はこれでおしまい、次に我が屋敷の新顔の紹介をしようと思う。それではエヴァートン君から」
ジギスの横の少年が立つ。
「私はジギスムント様の付き人としてこのリーベルト家にお招きいただいたエヴァートン・クレンティエンです。以後お見知りおきを」
エヴァートン君はそれだけの簡単な挨拶で済ませてすぐに着席をした。父さんは視線をフィーリネに移す。それを見てフィーリネは立ち上がる。
「アルノルト様の付き人としてお招きいただいたフィーリネ・エルネストと申します。旦那様、奥様への挨拶が遅れた事をお詫びいたします。至らぬ身でございますが今後お世話になります。よろしくお願いいたします」
丁寧に腰を曲げ、礼をするフィーリネ。フィーリネが座った事を見て、父さんが再び口を開く。
「それでは、新しい者も含めて我がリーベルト家を繁栄させよう」
そんな感じで食事の席は終了した。
「フィーリネ、僕が屋敷を案内するよ!」
「え、魔術の勉強はいいの?」
「そんなの後でいいよ。この一か月ずっと部屋にいて大変だったでしょ? いこ!」
僕はフィーリネの手を引いて屋敷を案内した。
屋敷を細かに案内しすぎたせいで、全ての案内が終わるころには昼食前の時間になっていた。
「ああ、もう。アルノルトったら張り切りすぎ。この間までずっとベッドの上で横になっているだけだったじゃない」
「僕もかなりストレスがたまっていたんだろうなぁ。久しぶりに部屋から出たせいでなんか少しおかしくなっていたよ」
「ストレス……?」
そうか、ストレスなんて概念この世界にはないのか。
「なんというか……自分の中にあるもやもやみたいなものことかな? それが溜まると体に良くないんだ」
「そんなものがあったのね。アルノルトは物知りね」
前世の知識があるだけなんだけどね。
「ねぇ、アルノルト。私昼食後には町を見てみたいわ。この屋敷に来る最中に馬車から見たくらいであまり見れなかったもの」
「いいよ、それじゃあ午後は僕の町を案内するよ」
それから昼食を終え、僕らは町に出た。勿論、いきなりの外出を何の制限もなく父さんが許可するわけもなく、僕には護衛の騎士が三人付けられることになった。その三人は顔を見た事もなく、今まで交流のあった騎士ではなかった。
その為、僕はあまり自由に街を見て回る事は出来なかった。まぁ、よく考えてみれば、王都での初日の観光もそのような形だったので、これが貴族のよくある観光なのだろう。
結局、僕自身がろくに案内をすることもできないまま、この日の観光は終わってしまった。外出が解禁されたと言っても制限は厳しいままだなぁ。
お読みいただきありがとうございます。
ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。
恥ずかしながらストックをためる事が出来なかったので、これからの投稿は最低でも二日に一度、調子が良ければ連日投稿などの不定期になります。




