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第四十話 王都発つ

 南地区に戻り、店の近くまで来た。店の周りがざわついている。近くの店からシモンさんの店の方を見ている人が多く見える。


 何事かと思い、店の方向を注視してみると夜の為、視界が暗く遠くからではよくわからないが、店の前に馬車が一台と十人位の人間がいた。


 近づくにつれ、その人間が兵士だと気づくことができた。そこにいる全員が腰に剣を身に着け、体には鎧を身に着けている。


 彼らは僕らの接近に気付いたのだろう、一人の男がこちらに向かってくる。



「私は王城より派遣された者です、犯罪者というのはそちらの者共ですか?」

「ええ、そうです。魔法を使う者もいるので気を付けてください」

「わかりました。お前たち、こいつらを連行しろ」


 男が叫ぶと兵士達はニクラウスとその護衛達を馬車へと運んでいく。


「それでは我々はこれで」


 男は他の兵士達と共に城のある方角へと向かっていった。周りの住人の人も事が終わったと気づき、こちらから目を離していく。


「シモンさん、彼らは誰ですか?」

「王城の兵士ですよ、私が呼びました、今夜はニクラウスとやらを捕まえるのでしょう? 我々だけでは長期の拘束をすることは出来ないので、彼らの手を借りました」


 アニに手渡していた手紙はこの事だったのだろうか。それにしても、王城に伝手があるというのは驚きだ。ロシェルさんを通じてというわけでもないだろう。そもそもそんなことができるのならロシェルさん自身がその手を取るだろう。


 シモンさん独自のルートがあるのだろう。先ほどニクラウスの護衛を倒した手際を見ても、シモンさんがかなりの実力者だという事はわかる。何か功績を上げて、王様の前に謁見したりしたこともあったのかもしてない。


「詳しい聴取などは後日行えるでしょう。とりあえず、グレイの所に行きましょうか」





「アルノルト!」


 部屋に入るやいなやグレイの声が聞こえる。ベッドから飛び降り、僕に向かって来ようとしたが、上手く立ち上がる事が出来ず、フラフラしながら床に倒れる。


「グレイ、まだ血が足りていないのですから、今は安静にしていなさい」


 治癒の魔術では傷を塞ぐことは出来るが、亡くなった血を取り戻すことまでは出来ない。グレイは出血が酷かった為、傷を治してもすぐには全快とはいかないのだ。


 僕は倒れたグレイに手を差し伸べ、起き上がらせる。グレイはフラフラしていて一人では立つこともままならない様子で僕はすぐさま肩を貸した。


「悪いな」

「気にするなよ」


 そのままベッドまで運び、ベッドに寝かせる。


「二クラスはどうなったの……」


 怯えるような声でセレスが僕に尋ねた。


「ちゃんと捕まったよ。全部シモンさんがやってくれた」


 本当に、全部。僕がしたのはハコモとウィンをいたぶったことぐらいだ。


「そっか、ありがとうございますシモンさん」

「光栄にございます殿下」


 シモンさんが丁寧にお辞儀をし、セレスに頭を下げる。そのまま顔を上げ、僕らを見る。


「今宵の一件はこれにて終了。もう夜も遅くなっております、今日は一度解散し、明日再び集まる事としましょう」



 そうしてこの日僕らは解散した。



 それから僕が店の行き、グレイやセレス、シモンさんと出会う事はなかった。


















「『セレス、グレイ、ロシェルさん、シモンさんへ。僕は今日王都を発ちます。昨日家に戻ってから父さんにこっぴどく叱られ、部屋の前に兵士を二人配置される程厳重に軟禁されました。明日は王都を出発するまで一度も部屋から出る事はできなさそうです。セレスとの別れを告げる手紙ならば書いても良いとの事なのでこの手紙を書きます。――』」



 そこからはあいつが俺たちに思っていた事、そして俺の復讐計画を勝手に終わらせてしまった事への謝罪が記されていた。


 その中にはセレスにはいずれ学園とやらで会おう、とか俺やシモンさんにはまた王都に来た時に会いに行くとの事が書かれていた。


 ふざけている。俺は明日を生きるのにも苦労するスラムの住人だ。あいつがいつ来るかは知らないがその時には俺は死んでいるかもしれない。


 昨日が永遠の別れだったのかもしれない。そう考えると何故か胸が強く締め付けられる。あいつと別れて寂しいと感じている。


 ほかに奴もそうだろう。シモンさんはいつも通りの表情をしているが、少しだけ曇った表情をしているようにも見える。


 セレスは手紙を読んでいる段階から声が震えていた。泣きそうなのを必死に堪えて手紙を読んでいた。


 


 部屋の中に静寂が流れた。




















 僕の故郷リトホルムの町に戻ってきた。僕は自室のベッドに横たわり、全身の力を抜く。


王都を発ってから一度も僕は自由に行動できていない。王都を発つ前日父さんとあんなやり取りをしたんだ。過剰に拘束されても仕方がない。あの日、家に帰ってから僕は父さんに全て話した。グレイが僕を拷問したこと、ニクラウスに捕らえられた事。全部だ。


 そして全てを離し終えた後、父さんは机の中から封筒を取り出し、これに別れの言葉を書くといいと言ってくれた。


 部屋に戻ってから僕はその封筒を開け、中に入っていた紙を取り出す。その時、封筒から金貨が一枚転がりだした。それはきっと父さんから僕へのプレゼントだろう。グレイの事を話した時に、市民権を欲しがっているとの話もした。それでこの金貨だろう。


 セレスにこの手紙を渡せば、きっとグレイも一緒になって手紙を読むだろう。セレスならグレイの事情も知っているし、この金貨の意味も分かるだろう。




 僕は自分の力不足を痛感した。転生者として他の人間よりもスタートのいい人生を始められて、魔術を幼いながらに仕えて、それで調子に乗っていたのかもしれない。


 ニクラウスへの復讐、あれはシモンさんがいなければ、僕は捕まるか死んでいた。グレイをスラムから助ける、それも父さんが一瞬で解決した。


 僕は一体何ができたのだろうか。自分にしかできないと思い込んだ行動をして、周りに迷惑や心配をかけて、それでいてその行動は他の人間ならいともたやすく解決できることなのだ。


 前世では大切な人を守ろうとして死んだ。今世では守って、僕自身も生きようと思った。けれど、僕は守ろうとしてただけで、守る事なんてできていなかった。


 僕には力が足りない。それは金銭面もそうだし、権力も戦う力も、何かを考える知力もない。



 ああ、もっと、もっと強くならなくちゃなぁ。僕は久しぶりに戻ってきた自分の部屋でそんな事を考えながら意識を手放していった。


お読みいただきありがとうございます。

ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。


これで年内の投稿を最後にしたいと思います。

次の投稿は元旦からを予定しています。

それまでにストックを作る事が出来ればまた、毎日投稿に戻りたいと思っています。

ストックがたまらない場合は今の頻度を維持です。


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